ゴジラシリーズ全作品レビュー6 『怪獣大戦争』(1965年)
前作からちょうど一年後に公開されたシリーズ6作目です。
作品世界に宇宙人が登場し、ゴジラ自身も宇宙へ飛び出します。
ネタが尽きたわけではないと思いますが、急激に飛躍しすぎのような気もします。
『怪獣大戦争』

私がこの作品を劇場で観たのは「1983フェスティバル」でしたが、小学生の頃にテレビ放映で短縮版を観た記憶があります。
ストーリーは憶えていませんでしたが、ゴジラとラドンが球体に包まれて宇宙へ運ばれるシーンや、同じ姿形の女性が何人も現れるシーンには見覚えがありました。
<あらすじ>
未知のX星を探査した地球連合宇宙局の宇宙飛行士グレンと富士は、そこでキングギドラとその脅威にさらされているX星人に遭遇する。
X星人はキングギドラを倒すために地球のゴジラとラドンを貸してほしいと依頼し、その見返りに癌の特効薬を提供するという。
地球連合はこの申し出を受け二大怪獣を差し出したが、これはX星人の巧妙な罠だった。
特効薬の代わりに宣戦布告が行われ、電磁波で操られたゴジラ・ラドン・キングギドラが地球に襲いかかってきた。

『三大怪獣地球最大の決戦』の続編です。
前作は、ゴジラやモスラといった過去の主役級怪獣を一堂に集めたいわゆるオールスター映画だったわけですが、今回は『地球防衛軍』『宇宙大戦争』などの地球侵略ものと怪獣映画とを組み合わせた複合作品になっています。
登場怪獣はゴジラ・ラドン・キングギドラの三匹で、前作と比べてモスラが減っていることを考えるとグレードダウンした感は否めません。

この作品はあくまで人間とX星人の頭脳戦が主軸になっていて、ゴジラたち怪獣は戦いの駒としてしか扱われていません。
X星では用済みなったら置き去りにされたうえに「時々は困った奴らだがこうなるとなんだか可哀そうだな」と同情までされています。
かつて「核のメタファー」「堕落への怒り」「戦没者の英霊」と畏れられた面影はどこにもありません。
【登場人物】

X星人の管制官は、土屋嘉男さんの怪演により日本映画史に残る特異なキャラクターになっています。
サングラスというよりは不審者の目元隠しの黒マスクみたいなバイザーを付けて、いちいち指でポーズを決めながら喋る姿がコミカルであり不気味でもあります。
土屋さんは黒澤明監督に可愛がられていた俳優さんで、『七人の侍』の利吉、『赤ひげ』の森半太夫などの重要な役を演じてきた方です。
しかしクセのある役を好む人でもあり、『地球防衛軍』の時には当初は顔出しで主要な役を担当するはずだったのを「こっちの方が面白い」とミステリアン役を自ら志願したという逸話が残っています。
X星人統制官の、あの独特の言い回しと奇妙なポーズもノリノリで演じた土屋さんのアイデアによるものだそうです。
こういう奇特な人がいてくれたおかげで、東宝特撮には他社の類似作品とは別格の面白さがあるのです。

今回のヒロインはこのお二人。
水野久美さん演じる謎の美女・波川と、沢井圭子さん演じる富士ハルノです。

ハルノは、発明家の恋人鳥井(演:久保明)との結婚を兄(演:宝田明)から反対されているという役どころです。
しかし、その鳥井の発明品であるレディガードがX星人との戦いに大きな役割を果たすことになります。

波川はX星人のエージェントであり、世界教育社という会社をでっち上げて権利を買い取りレディガードが世に出るのを阻止しようというなんともめんどくさい作戦の実行責任者です。
どうせ侵略するなら発明者の鳥井を暗殺すれば済む話だと思うのですが・・・。

波川は宇宙飛行士のグレンと愛し合うようになり結婚を意識するようになりますが、それがX星の法律に反するために上司に処刑されてしまいます。
その際に彼女がグレンに残したメモから、X星人対抗策を見出すことになるのです。
大人になってから改めて観ると、グレンと波川は湖畔の別荘で一夜を共にしているわけで男女の関係にあったのは確かです。
そんな艶っぽい関係の二人のはずなのに、グレンは波川が処刑された直後こそ怒りを露わにしたものの、映画のラストでは能天気に軽口を言っているだけでした。
せめてラストには波川に想いを馳せてあげて欲しかったですね。

そのグレンの相棒であり、ハルノの兄でもある地球連合宇宙局のパイロット・富士一夫。
演じるのは、昭和29年の第一作、『モスラ対ゴジラ』に続いての出演となる宝田明さんです。
宝田さんの役は、常に中心的存在のキャラクターのはずなのに何故か観終わったあとの印象が薄いです。
『ゴジラ』の尾形も『モスゴジ』の酒井もこの富士も、ストーリーの案内人的な立ち位置であるためそう感じるのかも知れません。
ゴジラ映画で宝田さんが生き生きして見えるのは、『ゴジラ・エビラ・モスラ 南海の大決闘』だけのような気がします。

いきなり下宿のおばさんでスミマセン。
演じている千石規子さんはヒロインというにはほど遠い(失礼)ですが、個人的に出演してくれていて嬉しい女優さんなのです。
黒澤明監督の初期作品で脇役ながらも三船敏郎の周囲にいる印象的な女性を演じていた方です。
90歳でお亡くなりになるまでコンスタントに映画やドラマに出演されていらっしゃいました。
【特撮】

この作品の特撮でまず目を見張ったのはX星人のUFOです。
明神湖からゆっくりとした動きで浮上する姿は威圧感たっぷりでしかもそれが3機も現われます。
不気味さと同時に不愉快さも感じさせる場面です。

細かいことですが、今作品からゴジラの吐く放射熱戦の収束度が高まってビーム状に変化しています。
これはおそらく、キングギドラの引力光線に対抗するためにイメージを強化したものと思われます。
ゴジラの熱戦はシリーズが進むにつれてパワーアップを重ね、やがては『宇宙戦艦ヤマト』の波動砲みたいになっていきます。

X星人の脳波コントロールを遮断するためのAサイクル光線砲は、ゴジラ映画に初めて現れた超科学兵器であり、地球連合宇宙局はこれをなんと24時間で複数台作ってしまいました。
納得のいく説明がないまま、ストーリー進行の都合でこういった便利な新兵器を登場させてしまうところは東宝特撮の悪い伝統だと思っています。


怪獣から逃げ惑う市井の人々という本多演出は今回も健在でした。
ロングショットでは、奥に怪獣を配置して現実と虚構の一体化を意識した画作りを狙っているようです。
今回は避難民に高齢者が多い気がするのですが、それはこの舞台となっている地域の事情が反映されているのでしょうか?


アップ専用のゴジラの足や尻尾が作られて、たたみかけるように挿入されています
それも人間の目線の高さくらいの視点で撮られているため、巨大な足や尻尾に家を破壊されていくような恐怖と絶望感につながります。。


アップだけでなくロングショットにおいても、今回の画作りには人間目線の構図が多いです。
『モスラ対ゴジラ』『地球最大の決戦』と積み重ねてきたうえでの到達点だと思います。
若干気になるのは、終盤の舞台がまた富士のすそ野になっていることです。
前作までのような大都市破壊シーンは存在せず、ゴジラ達が踏みつぶすのは二階建て程度の低い建物や茅葺きの農家ばかりでした。
特撮カットにしても、ラドンの破壊シーンは56年製作の『空の大怪獣ラドン』の博多襲撃シーンをシネスコにトリミングして再利用したものがほとんどです。
コストや手間ひまを効率化しはじめたことの現れでしょうか?。
【しかし、『怪獣大戦争』といえばやはりコレでしょう】

シェー!

当時の子供たちはもちろん

原作者も

ジョン・レノンも

皇太子殿下も

シェー!

当時日本全国を熱狂的ブームに巻き込み、皇太子殿下さえもおやりあそばされた「シェー!」です。
ゴジラがやって何が悪い?という開き直りが男前すぎます。
しかも「シェー」をやろうと言い出したのは、御大・円谷英二特技監督だというのですから文句の言いようもありません。
これも映画が映し出した時代の姿なのだ、と受け入れるしかないです。
しかし、前作から始まったゴジラの擬人化は早くも取り返しのつかないところまで来てしまいました。

最後までお付き合いいただきありがとうございました。