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映画と日常

TVドラマ『真昼の悪魔』(原作:遠藤周作)

CATEGORYTVドラマ
トガジンです。

先日録画しておいたテレビドラマ『真昼の悪魔』の第一回を(途中まで)視聴しました。
ドラマは滅多に見ないのですが、この原作だけはどう処理されているか気になっていたのです。
しかし、見る前から良くない予感がありました。
「田中麗奈主演」と銘打っている時点で、この作品の本質は失われていることになるからです。

『真昼の悪魔』(視聴放棄)
(テレビドラマ:フジテレビ)
フジテレビ 真昼の悪魔

中学から高校にかけて、遠藤周作先生の本を読み漁った時期がありました。
『ボクは好奇心のかたまり』『狐狸庵閑話』などの軽妙洒脱なエッセイがほとんどでしたが、稀に医療や宗教に関する著作も背伸びして読んでいました。

ボクは好奇心のかたまり 文庫
特に、『ボクは好奇心のかたまり』の影響は大きく、「田んぼに出現したUFOを中学生が捕獲した」という高知県の介良事件の話は大人になっても忘れることが出来ませんでした。
高速道路が土日1000円で乗り放題だった頃に、一泊二日で現地を見に行ったことがあるくらいです。
もっとも、現場は福井とほとんど変わらぬ田園風景で、違いといえば周囲の言葉が土佐弁であることだけでしたが・・・。

<閑話休題>

真昼の悪魔 原作
『真昼の悪魔』も高校時代に読んでいます。
この作品の本当に怖い部分は文章ならではのものであり、当時「将来は映画監督になりたい」と考えていたこともあって「この話の本当の怖さを映像で表現することは不可能だ」と思っていました

主人公が入院することになった病院には美人の女医が4人いますが、そのうちの一人が心の奥底にとんでもない邪悪さを秘めていたという物語です。
その女は、患者にとっては天女のような存在でありながら、無抵抗な患者の生命を弄び、無垢な子供に生きものを殺生する愉しみを植え付ける魔性の女です。
しかし彼女は良心の呵責というものを全く感じることの無い人間、というより心が無い人間でした。

この小説の最も怖いところは、その女医の行為や考え方の部分は全て彼女の一人称で書かれていることにあります。
そのため、4人いる女医のうち誰がその心に悪魔が巣食う女なのかが、主人公にも読者にも分からない構造になっているのです。
これはもう、人間不信に陥りそうになるくらいの怖ろしい小説でした。

今から19年前の神戸連続児童殺傷事件における「酒鬼薔薇聖斗」の話を聞いたとき、私は真っ先にこの本に出てくる女医と彼女に弄ばれる知恵遅れの少年のことが思い浮かびました。
酒鬼薔薇聖斗=少年Aはあの残虐な行為に至るまでに何度も動物虐待を繰り返していたといいます。
彼がいつ・どこで生きものを殺す喜びを最初に知ったのかと考えると、この小説の女医を思い出さずにはいられません。
それくらい深い小説なのです。

ところがこのドラマでは、最初からその女医が田中麗奈であることを開示したうえで物語を始めていました。
これでは、あとはひたすら田中麗奈の悪女っぷりを見せられるだけのドラマに過ぎません。
こう考えて冒頭10数分で見るのをやめました。

沈黙-サイレンス-
おそらく、同じ遠藤周作先生原作の『沈黙-サイレンス-』公開に便乗して企画されたものと思いますが、あまりにも底の浅い作りでガッカリです。
こんなドラマに出資するくらいなら、誰か私に『ボクは好奇心のかたまり』をオムニバス映画化させてくれませんかねぇ。


本日もお付き合いいただきありがとうございました。
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