ゴジラシリーズ全作品レビュー17 『ゴジラvsビオランテ』(1989年)
1989年12月公開のゴジラシリーズ17作目『ゴジラvsビオランテ』は、根本的なアイデアとストーリーが良く出来た作品です。
そして映画の中盤からは、公開当時住んでいた大阪や我が故郷・福井県が舞台になっているという、個人的にとても思い入れの強い作品でもあります。
『ゴジラvsビオランテ』

<あらすじ>
前回のゴジラ襲来から5年。
精神開発センターの超能力者:三枝未希は三原山火口内で活動再開したゴジラを感知した。
国土庁特殊災害研究会議Gルームは、ゴジラの体内の核物質を食べるバクテリアを利用した抗核エネルギーバクテリアの実用を検討するが、科学者の桐島はそれが核兵器を無力化する兵器にもなるため世界の軍事バランスを崩してしまうことを危惧していた。
それでもゴジラに対抗し得る有効な手段として、自衛隊の黒木特佐はその完成のために遺伝子工学の権威である白神博士の協力を仰ぐ。
G細胞を巡る国家間の諍いにより愛娘の英理加を失った過去を持つ白神は、G細胞を1週間借り受けることを条件に抗核バクテリア開発への協力を承諾した。
数日後、芦ノ湖に巨大なバラのような姿の植物怪獣が現れた。
それは白神の亡き娘の遺伝子とバラの細胞とG細胞とを融合して誕生した植物怪獣ビオランテであった。
さらに抗核バクテリアの派遣を狙うアメリカと中東の策謀に翻弄されて、ついに三原山からゴジラが復活してしまう。
小田原へ上陸したゴジラは芦ノ湖でビオランテと対決、放射熱線によってビオランテを倒したのち駿河湾へ消えていった。
対ゴジラ作戦の指揮を任された黒木は、ゴジラがエネルギー補給のために若狭湾の原発群へ向かうと予想し伊勢湾に戦力を集結させるが、予想に反してゴジラは大阪に向かいつつあった。
裏をかかれた黒木は主戦力を若狭湾へ向かわせてゴジラを迎え撃つ作戦へ変更し、スーパーX2と権藤の犠牲により大阪に上陸したゴジラに抗核バクテリアの撃ち込みに成功した。
しかし14時間近くを経過してもその効果は現れず、ゴジラの若狭湾への進行は止まらない。
「ゴジラの低体温のために攻殻バクテリアの活性化が抑えられているのではないか」という仮説を受けて、黒木は若狭にサンダーコントロールシステムを設置し、人為的な落雷によってゴジラの体温を上げる作戦を実行。
やがて高浜原発に迫るゴジラの前に、更なる進化を遂げたビオランテが出現した。

【抗核エネルギーバクテリア】
この作品は、「(倒せないまでも)ゴジラの活動を封じる方法」を発明してしまった作品です。

熱核エネルギーを活動源とするゴジラの体内には核を喰うバクテリアが存在しているはずです。
5年前の自衛隊による攻撃で飛散したゴジラの肉片(細胞)からそのバクテリアを抽出・培養して再度ゴジラに打ち込めば、核エネルギーが吸収されててゴジラは活動出来なくなる。
軽症の天然痘患者や牛痘のウィルスを摂取することで身体に抗体を得るという、エドワード・ジェンナーが発見した天然痘予防法と同じ着想です。
思わず膝を打つ見事なアイデアでした。
この原案を作った小林晋一郎氏は歯医者さんでしたし、大森一樹監督も元は医学生だった人ですから、現場ではそういった知識が豊富だったのでしょう。
【超能力】


SF映画ですから「対ゴジラ対策として国や自衛隊が超能力も利用する」という発想は当然有りだと思います。
そうと分かって見ていても、ゴジラ復活を予知した子供たちが一斉にゴジラの絵を掲げるシーンは見ていて鳥肌が立つほどの凄味がありました。
この子供たちの存在がその後のシリーズに生かされなかったのは残念です。
そして、以降の「平成VSシリーズ」全作品に登場することになるサイキック少女:三枝未希(演:小高恵美)が初登場します。
ゴジラやビオランテの存在を感じたり出現を予知するだけかと思いきや、念動力でゴジラの進行方向を変えさせるという大技も見せたりとやや便利に使われてしまっている感もありました。
以後、シリーズが進むごとに彼女の存在は現実味を失っていく一方だったように思います。
ちなみに、常に未希と行動を共にする大河内明日香を演じていたのは、元キャンディーズのスーちゃんこと田中好子さんです。
中学時代の私は、アイドルでありながら歌もコントもきっちりとやり切るキャンディーズのファンであり、3人の中でもポッチャリタイプ(当時)のスーちゃん派でありました。
この映画のラストでは三田村邦彦演じる桐島とのベッド・インを思わせるセリフもあったりしてちょっと複雑な気分でした。
女優さんとしてどんどん綺麗になっていくと思っていたのに、若くしてお亡くなりになってしまって本当に残念です。
【スーパーX2】

前作の設定を受け継いで、スーパーXの後継機が登場します。
主兵器のゴジラの熱線を反射させて打ち返すファイヤー・ミラーは、まるで『ゴジラ対メカゴジラ』のキングシーサーみたいで拍子抜けしますが、「ゴジラにダメージを与えられるのはゴジラ自身の放射熱戦しかない」と考えれば納得がいきます。

スーパーX2は遠隔操作を前提に開発された(現代で言うところの)ドローン兵器であり、ゴジラという危険極まりない相手に正面から対峙するには理に適った兵器形態であると思います
指揮官の黒木特佐を演じたのは高嶋政伸さん。
黒木は旧態然とした組織の中で、慣例に囚われることない柔軟な発想で任務を遂行する若いリーダー像として描かれていました。
それはあたかも、前作『ゴジラ』(昭和59年版)で「新しいゴジラを作る!」と意気込みながら旧作以来の方法論を繰り返すのみだった旧世代スタッフに対して、「何かもっといい手はないか?」と自由な発想をする若い『ビオランテ』スタッフの象徴のようでもあります。
またオペレーター役は、次回作で主役を務める豊原功補と今や大女優といって差し支えない鈴木京香で、こちらも新世代の顔ぶれのお披露目となっています。


先代とは違って、スーパーX2は実戦段階になって初めて画面に登場するのではなく、伏線として黒木たちが性能や開発状況の説明を受けるシーンが設けられています。
また、いかにも川北特技監督らしく『サンダーバード』っぽい出撃シーンもしっかり描かれていて、そのおかげで前作みたいに「なんか変なモノが唐突に出てきた!?」という印象はありません。
【『ゴジラ対へドラ』との共通性】

私が生まれて初めて映画館で観た映画は『ゴジラ対へドラ』でした。
そのため、現在もあらゆる怪獣映画の中に『へドラ』の影を求めてしまう自分がいます。

昭和ゴジラシリーズの敵怪獣を振り返ってみると、実はへドラだけが特異な位置にいました。
キングコングやモスラとの戦いは異国文明の守護神との邂逅でしたし、宇宙怪獣であるキングギドラやガイガンは外来種ということで地球の生態系を守るという大義名分がありました。
ところがへドラだけは存在の意味が違っていて、ゴジラが核のメタファーであったのに対しへドラは公害のメタファーとして描かれていました。
互いの時代ごとの社会悪を体現した怪獣同士であり、ゴジラが初めて「自分の影」と呼ぶべき存在との戦いを描いたのが『ゴジラ対へドラ』だったのです。

ビオランテは人間がゴジラ細胞から作り出してしまった怪獣であり、バイオテクノロジー版ゴジラともいうべき存在です。
1980年代には世界各地で動物のクローン作成が行われ、魚、カエル、マウス、そして羊(クローン羊のドリーが有名)など成功例が多数報告されていましたが、倫理面の問題も討論されていたと思います。
まさしく、ビオランテはこの時代における「ゴジラの影」であり「へドラの影」でもありました。
【最も身近なゴジラ映画】
『ゴジラvsビオランテ』公開当時、私は大阪・守口市に住んでいました。
大学卒業後もまともに就職もせず、フリーターのAD or カメアシとしてイベント会場や大阪ビジネスパークに移転したばかりの読売テレビの番組制作現場を駆けずり回っていた時期です。


『ゴジラvsビオランテ』は、まさに当時の私が活動拠点としていたJR&京阪京橋駅から大阪ビジネスパークが舞台になっていて、当時の私の感情移入度は200%でありました。
なにしろゴジラが登場する背景のほとんどが実際に見知っている場所ばかりなのですから。


東京在住の人なら珍しくもないことかも知れませんが、福井の田舎出身で当時大阪在住だった私には最高に新鮮で刺激的な怪獣映画体験でした。
ビジネスパークにそびえ立つパナソニックのツインタワーを見上げながら、ゴジラの大きさを夢想していたものです。
【エキストラへの興味】


この同じ年の夏頃には大阪ロケが行われたはずです。
画面で確認出来るだけでも、大阪城、大阪城ホール、ビジネスパーク、淀屋橋周辺で逃げ惑う群衆のシーンがありました。
私が住んでいた守口市から大阪城周辺や淀屋橋へは、いずれも京阪電車で15分程度で行ける場所です。
ゴジラ・ロケの情報さえ知っていたら私にもチャンスはあったはずでした。
しかし、当時はこれらのエキストラをどうやって募集しているのかを全然知らなかったため、ゴジラ映画の一部になれた彼らを羨みながら指をくわえて観ていたものでした。

一昨年の秋、万難を排して『シン・ゴジラ』の東京ロケに参加したのは、元をただせばこの『ゴジラvsビオランテ』の時の歯がゆい思いから始まったことであり実に四半世紀越しの念願だったのであります。

余談ですが、1998年夏ごろにも京都駅周辺で『ガメラ3邪神<イリス>覚醒』のエキストラ募集があったのですが、その時は駅構内に置かれていたチラシで知りました。
もちろん急いで応募したものの、締め切り直前だったせいか当選は叶わず、これもまた他人様の避難シーンを指をくわえて見るばかりとなりました。
【ゴジラが福井にやって来た!】
映画の終盤約25分間は、我が福井県の高浜原発へ向かうゴジラに対する防衛戦が主軸になります。
『ゴジラvsビオランテ』は、原発最多保有県である福井にゴジラが襲来した唯一の作品なのです。

とはいえ、出てくるのは「若狭湾」「高浜原発」といった名称ばかりで、具体的に画面に映った福井の風景はこの1カットだけでした。
この画は前作や前々作にも見られたような、実景に合成されたゴジラが巨大すぎるという過剰演出ショットになっています。

ちなみにこちらが実際の高浜原発の写真です。
4月27日現在、再稼働準備が始まるということでこのアングルの画は全国ニュースでも目にする機会が多いと思います。

山の上の鉄塔がサイズの目安になると思います。
おおまかですが、山頂に立つグレーの鉄塔が高さ60メートル未満、山の向こうへと続いている赤白(航空障害塗装)の鉄塔が60メートル以上ということになっています。
今作のゴジラの全高は80メートルとのことですから、位置関係も合わせて考えると山の向こうにてっぺん部分だけ見えてる赤白の鉄塔より少し大きいくらいのサイズが本当ではないかと思います。

今回の高浜原発の写真は、「ここから撮影したに違いない」海を挟んだ対岸の防波堤付近から撮影してきました。
たまにはこんな風に現実の風景と照らし合わせてみるのも乙な映画の楽しみ方です。

最後にゴジラが去っていくこの海も福井県の若狭湾の設定です。
実際の撮影自体は他の場所かも知れませんが、『ゴジラvsビオランテ』のラストシーンが我が故郷・福井県であったことに変わりはありません。
【知能指数が高い映画】
もちろん、全く不満が無いわけではありません。

実を言うと、VSシリーズのゴジラ造形は単なる巨大な動物という感じで神秘性が感じられないからあまり好きじゃない、とか。

「薬は飲むに限るぜ、ゴジラさん!」
今見ると峰岸徹の芝居がクサくて笑ってしまう、とか。

この沢口靖子の昇天シーンだけはカットしてしまいたい、とか。
あと、すぎやまこういち氏と伊福部昭氏の楽曲が混在していて統一感が無い、とか。
それでも基本となる物語設定がしっかりしていることと、各キャラクターが生き生きと描かれていることで多少の粗は気にならないくらい面白い映画になっています。
変な言い方かも知れませんが、知能指数の高い怪獣映画だったと思います。
頭が良い人はホラを吹くのも巧いということですかね(笑)。
最後までお付き合いただきありがとうございました。
次回のゴジラレビューは1991年公開の『ゴジラvsキングギドラ』です。
これも変な言い方になりますが、今回の『ビオランテ』から比べると知能指数はガクンと下がります(笑)。