『シン・ゴジラ』と子どもたち―我が家のプチ絶叫上映会ー
お盆も過ぎ、先週の金曜日から大勢集まってきていた従兄妹たちの家族もまるで引き潮の如く一斉に帰っていきました。
今朝、最後まで残っていた従妹夫婦とその子供たちが東京へと帰っていきましたが、ここ数日の喧騒に慣れてしまったせいか心なしか寂しく感じているところであります。

今回は、親戚一同が集まった夜に、ブルーレイで『シン・ゴジラ』鑑賞会を開いた時の話です。
いろいろと印象に残ることの多い楽しいひと時でしたので書き留めておくことにしました。
多少は私の主観が入っていますが、起こった出来事や交わした会話は全て実際にあったことです。
お盆(15日)の夜、親戚一同がほとんど顔を揃えた席でひょんなことから映画の話で盛り上がりました。
義弟(妹の旦那)が私に勝るとも劣らぬ映画好きで、次の『スター・ウォーズ』や『エイリアン・コベナント』の話をしていたのです。
その時、私はつい
「実は俺、去年の『シン・ゴジラ』にチラッと映ってるんや。」
と口を滑らせてしまったのです。
すると!
「ええ~っ!、ホントにぃ?」
と、そこに居た全員が一斉に私の周りに寄ってきました。
親戚に限らず、友人・仕事仲間に「俺、映画に映ったんや」と言ったときの食いつきの良さといったら、他の話題の比ではありません。
相手がよほど映画嫌いでもない限り、ほぼ100%、「ホントに?」「どんな場面?」「誰が出てる?」「何故、どうして行ったの?」と質問責めに遭うことになります。
ただし、そのリアクションの大半はおよそミーハーなものばかり。
男どもは皆開口一番、「石原さとみに会ったんか?」と羨望と妬みの入り混じった目で詰め寄ります。
一方、女性陣はというと「高橋一生に会ったの?」とか「福士蒼汰クンいた?(出てへん!)」とか、これまた潤んだ瞳ですり寄ってきます。
「庵野監督ってどんな人?」とか「あの尻尾の正体は?」とか、そんなマニアックなことを聞くいてくる奴は一人もいませんでした。


ちなみに私が映ったのは冒頭の2分から3分の間にある防災センター(職員役)と首相会見シーン(記者役:後頭部のみ)です。

石原さとみも高橋一生も残念ながら同じ現場には居ませんでしたが、それでも「長谷川博己と高良健吾のすぐ近くに居た」と言うと「いいなあ~~~~」と羨ましがられたので、まあ良しとしておきます。
(ちなみに↑の写真にも二人の後方にピンボケながらも私の姿が映っています)
『シン・ゴジラ』で文科省のオタク(安田)役を演じた高橋一生がそんなに人気があるとは知りませんでしたが、高良健吾は前シーズンの朝ドラ『べっぴんさん』に出ていたことで熟年女性の認知度も高かったようです。
で、子どもたちの反応はと言うと・・・、驚いたことに幼稚園児から中学生まで合わせて7人いたうち、『シン・ゴジラ』を観たのは一人だけでした。
聞けば親たちが映画館に連れて行ってくれなかったとのこと。
いや、大人たちも(私と妹夫婦以外は)全員『シン・ゴジラ』を観ていないというのです。
お前たちは一体何をやっておるのだ。
私と同じ血族でありながら何と情けない。
トガジン「『シン・ゴジラ』見たい?」
子供たち「見たーい!」
トガジン「よっしゃ、見せたろ」
子供たち「やったぁー」
というわけで、自己顕示欲に駆られた・・・もとい、「怪獣映画ファン新規開拓」という使命感に駆られた私は、我が一族に対して『シン・ゴジラ』ブルーレイ鑑賞会を決行したのであります。
すでに8時を過ぎていましたが、親たちも「タダで観れるなら・・・」と夜更かしを許可しました。

ダイニングの37インチ液晶テレビに予期型プレステ3を繋いでの鑑賞会になりました。
最初は、二階のホームシアター(12畳間)で120インチ再生をして見せることも考えましたが、現在AVアンプが不調でメーカー送りになっているため音響設備がヘッドホンしかない状態なのです。
また、あの部屋の存在を子供に知られてしまったら、留守中に勝手に入って何をされるか分かったものではありません。

記録として、ブログ用として、この鑑賞会の様子を写真に撮っておけば良かったと後悔しきりです。
子供たちの反応を見てるのが楽しくてカメラを持ち出すことすら忘れてしまっていました。
子供たちのうち、一番小さい4歳児はゴジラの絵を見ただけで「怖いのイヤ~」とグズったため早々に寝かしつけたものの、他の子供たちは想像以上に夢中になって画面を見つめ続けていました。
昨年夏にかなり話題になった映画ですから、彼らも内心は見たくて仕方なかったのでしょう。
親たちが「何か食べる?」と声をかけても、「シッ、静かにして!」と制するくらい集中していました。
うんうん、それでこそ私と同じ血を受け継ぐ者たちだ!。

流石に会議シーンが連続するあたりでは低学年の子がソワソワし始めるものの、蒲田くんが登場してからは一気に集中度が高まった様子です。
興奮して立ち上がり画面に近づいていく子に「〇〇ちゃん、もっとテレビから離れなさい!」と声をかけることも多くなりました。

幼い女の子は、あの大きく見開いた魚のような目が怖いと言って親の腕にしがみついていました。
小さな子供は、鳥や小動物と同じように大きな「目」(あるいは目にみえるもの)をひどく怖がるようです。

さらに逃げ遅れた家族がマンション倒壊の犠牲になる場面では「あ~っ!」と大きな声を上げたり親の後ろに隠れたりしていました。
僅かな時間ですが、あの家族の中にいた自分と同じくらいの子供にシンクロしていたのでしょう。
「死んだ?あの子死んじゃったの?」
と画面から目を離さぬまま、親に尋ねていたました。
「しまった!。幼稚園児や低学年にはまだ早過ぎたか?」
「トラウマになってしまうのか?」
・・・と一瞬戸惑ったものの、すぐに思い直しました。




いやいや、私が小一の時に観た『ゴジラ対へドラ』はこれよりもっとエグかったぞ。
ところで。
一箇所、女性陣がひときわ激しく反応したシーンがありました。
それは・・・。

従妹1「今のあれ、小出恵介や!」
従妹2「え?どれどれ?」
従妹1「さっき怒鳴ってた消防士、絶対小出恵介や。」
従妹2「え~見てなかった。ちょっとビデオ巻き戻して!」
トガジン「あかん!。今、子供が見てるとこや。」
従妹2「これっていつ頃撮った映画?」
トガジン「おととしの夏から秋の間。小出恵介って確かメイキングにも出てたと思うわ。」
従妹1「その頃って、もう女子高生と・・・?」(ニヤリ)
従妹2「あれ、いつ頃の話だったっけ?」(ニヤニヤ)
う~む。
全く女とは御し難いものであります・・・。

第3形態に進化したゴジラが海に逃げた後、「矢口プラン(ヤシオリ作戦)」の準備を進めるシーンから江之島に再びゴジラ(第4形態)が現れるまでの約20分間。
ここは人間側のターンですが、子供たちの集中力はふっつりと途切れてしまいました。
「ゴジラいつ出るのー?」
「お母さん、ジュースちょうだーい」
怪獣映画を観る子供たちをじっくり観察したのはこれが初めてでしたが実に興味深いものでありました。
巷で言われる通り、怪獣が暴れるシーンでは林の如く静かで岩の如く動かぬ子供たちも、会議や政治家のシーンになると途端に騒ぎ始めるものです。
もっとも、これは家の中での気の抜けた環境だからかも知れません。
昨年劇場で『シン・ゴジラ』を観た時にも子供連れの客が大勢いましたが、あの子供たちは周囲の大人が漂わせる緊張感と無言の圧力に押されたのか終始非常に大人しく映画を観ていたように思います。
この辺は、劇場で他人に交じって観るのと家庭で気楽に見る違いかも知れません。

この区間では石原さとみ演じるカヨコの変な英語で盛り上がりました。
「ランドウ・ヤグチはベターな選択」
「ガッズィーラ」
特に「印刷は特殊インク、カピーは不可能よ!」には、劇場では聞かれなかったなんとも言いようのない失笑が我が家を席捲しました。
従妹1「カピーって・・・( ´,_ゝ`)プッ」
従妹2「ルー大柴?」
子供より大人のほうが、それもオバちゃん連中が大きく反応しています。
もし劇場での鑑賞時にこんな奴らが近くにいたとしたら、間違いなく「静かにせえ!」と睨みつけるところです。
しかし、今この場所でそんな野暮は言いますまい。
これは声出しOKの「発声可能上映」ということでいいじゃないですか!。
東京など大都市でしか開催されず、結局参加することが出来なかった爆音上映。
某マンガ家みたいに「やめろ~!庵野~!!」とは叫びませんが、子供の邪魔にならない程度にガンガン声を出して楽しめば良いのです。
というわけで、我々大人も子供たちと一緒になって、ビールをあおりスイカなどもかじりつつ次のゴジラ上陸を待っておりました。
しかし不思議なもので、会議や調査のシーンであっても「ゴジラ」というワードが出るだけで子供たちの注意はサッと映画に戻ってくるようでした。
内容は理解出来ていないでしょうが、あのゴジラを倒す方法を探る巨生対の懸命さは伝わっているようでした。

そして江之島にゴジラが再上陸してからのタバ作戦発動。
この自衛隊の戦いっぷりは、子供たちにもそのカッコ良さが伝わったようです。
特に男の子たちからは「すげー」「カッコいい」の声が大きかったです。
いや~、楽しんでくれて何よりだ!。

ゴジラの顎が大きく割れて、放射熱戦→プロトン・ビームを発射して東京の街を焼き尽くすシーンは、全員口を半開きにして唖然として画面を見つめており、東京を焼き尽くしたゴジラが東京駅で動きを止めるまで声を発する者はいませんでした。
この映画を既に20回近く観ている私でさえ思わず見入ったくらいですから、初めて見た子供たちの目にはどれほど深く突き刺さったことか・・・。
途中、状況を全く知らないまま部屋に入ってきた私の母が「あんたらテレビばっか見てえんと早よ風呂入んねま(訳/みんなテレビばかり見てないで早くお風呂に入りなさい)」と緊張感をぶち壊しに来ましたが、子供たちは全員それを完全無視していました。
孫や姪孫にガン無視された母を気の毒に思いつつ、私はこの時幼少時代の自分を思い出していました。
当時の私も、『帰ってきたウルトラマン』や『仮面ライダー』、『マジンガーZ』などを夢中になって見ている最中に、「ご飯やざ、早よ来ねま!(訳/ご飯ですよ、早く来なさい!)」と呼ばれても頑としてTVの前から動こうとしない子供だったのです。
「この子たちには、まさしく俺と同じ血が流れているのだな」と確信しました(笑)。
ちなみに翌日、母は「あんたも小っちゃい頃はあんなんやったな。」とケラケラ笑っていました。
ごめんな、母ちゃん。

この後、ゴジラ活動停止からヤシオリ作戦開始までの約40分間は、巨生対の奮闘と暫定政府の描写が続きます。
泉の「まずは君が落ち着け!」の名シーンから始まり、米軍の熱核兵器使用決定を経て牧元教授の謎かけを解いて矢口プランが完成に至るという、怒涛の人間ドラマが展開するゾーンです。
・・・が、子供たちにとっては、ここも単なるダレ場でしかありません。
再びソワソワと落ち着きを失いつつあります。
時間はすでに9時30分。
コックリコックリと寝落ちする子もいて、残念ながらここで低学年二人が脱落しました。
昼間は海でタップリ遊んできたわけですから、疲れていて当然です。

そして、新幹線爆弾からヤシオリ作戦がスタート。
この電車による体当たり攻撃は男のたちに大好評みたいでした。
あと、東京から来ていた男の子は見知った風景が多いせいか特に興奮しているようにも見えました。
そりゃそうです。
彼らはつい先日あの東京駅から福井に向けて出発し、この翌日にはまたあの街へと帰って行ったのですから!。

後で聞いた話ですが、子供たちはこのシーンの『宇宙大戦争』マーチが「すごくカッコ良かった」と気に入っていたそうです。
私は『シン・ゴジラ』を観ていてもこの楽曲が流れてくるたびにオリジナルの『宇宙大戦争』の場面を思い出してしまうため、この音楽の使い方には心底不満だったのです。
しかし、今回初めて『シン・ゴジラ』と伊福部音楽に接した子供たちはとても素直にその融合を受け入れて楽しんでいました。
私には、余計な拘り無しに『シン・ゴジラ』を楽しんだ彼らのことを心底羨ましく思います。
次に私が『シン・ゴジラ』を観る時には、この場面の感じ方も少し変化しているかも知れません。

ラストまで無事鑑賞し終えた時には、もう10時半を少し過ぎていました。
子供たちは口々に「おじちゃん、ありがとー」「おやすみなさーい」と言って寝床へと向かっていきます。
そのうちの一人、小学5年の男の子がこう漏らしたのを私は聞き逃していませんでした。
「もう一回見たい・・・」
そうだ、それでいい。
その気持ちを忘れるな!。
この日、あの子たちにとって『シン・ゴジラ』が「マイ・ファースト・ゴジラ」となりました。
今後、過去のゴジラ作品を観ることもきっとあるでしょう。
全ての原点である初代『ゴジラ』。
時代とともに性格が変化していく二代目ゴジラ。
そして七連作の平成VSシリーズに、一作ごとに新しい設定を繰り出したミレニアムシリーズ。
その時彼らは何を思うのか?。
ゴジラのどこに価値を求めるのか?。
『ゴジラ対ヘドラ』が最初だった私やリアルタイムで初代『ゴジラ』を知るおじいちゃんたち、VSシリーズからゴジラを知った世代とはどう接していくのだろう?。
そんな想いを残しながら、我が家の『シン・ゴジラ』プチ発声可能上映会は無事終了したのでありました。
・・・・・・
あれ?。
そういえば、肝心なことを忘れてやしませんか?。
どうして『シン・ゴジラ』を観ることになったのか、そもそものキッカケを・・・。
誰か「伯父さんが映った場面ってどこだったの?」って聞いてくれぇ~!。
最後までお付き合いいただきありがとうございました。