『アイアン・ジャイアント』
CATEGORYアニメ:ア行
トガジンです。
2000年に劇場公開されたワーナーブラザーズの長編アニメショーン映画『アイアン・ジャイアント』です。
ディズニーの陰に追いやられ、世界の片隅でひっそりと上映されていたこの作品に私の目を向けさせてくれたのは、とある掲示板で見つけた一人のファンの熱い書き込みでありました。
『アイアン・ジャイアント』
(1999年:ブラッド・バード監督作品)

<あらすじ>
メイン州の小さな港町。
ホーガース少年は森の中で鋼鉄の巨人「アイアン・ジャイアント」に出会う。
巨大で力持ちだが無邪気で人懐っこいジャイアントとホーガースはたちまち友達になる。
しかし巨大ロボットの噂は瞬く間に町に広まり、ついには軍隊まで出動する事態に発展してしまう。
■好きなシーンその1「ついて来るな」

二人(?)の最初の出会いは変電所で感電したジャイアントをホーガースが助けた時でしたが、お互いに心を通わせるようになるのはこのシーンからになります。
この短いやり取りの中で、ジャイアントの「子供のような無邪気さ」「高い知性を持つ」「記憶喪失」といった基本設定が手際よく描かれていて、この映画の脚本が無駄のない非常に優れたものであることが分かります。
そして、ここでのやり取りは実はラストへ向けての重要な伏線にもなっています。
家に帰るホーガースの後をまるで捨てられた子犬みたいについてくるジャイアント。
その巨大な友達にホーガースはこう言って聞かせます。
「君はここだ。ついて来るな。」
この何気ないセリフは、ラストでもう一度ジャイアントの口から発せられることになります。
■好きなシーンその2「電車が来ちゃうよ!」

家に向かう道中、食べ物と間違えて列車のレールを引きちぎってしまったジャイアント。
ホーガースは慌てて修理するよう言いますが、タイミング悪いことにそこへ列車が迫って来てしまいます。

一撃でレールを元に戻したジャイアントでしたが、彼は意外に几帳面な性格で前後のレールをピッタリ揃えることにこだわってしまうのです。
こんな愛敬たっぷりな姿を見ても彼を好きになれないような輩とは、私は一生友達にはなれない気がします。
■好きなシーンその3「よぉーし、進めっ」
私は(アニメ・特撮を問わず)「ロボットもの」はほぼ無条件で大好きなのですが、中でもロボットを”搭乗機”ではなく”相棒”として描いく作品には特に弱いみたいです。
『巨神ゴーグ』『ジャイアントロボ』『大鉄人17』、さらに等身大ロボットも含めれば『ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー』のK-2SOや『ベイマックス』、『ターミネーター2』のT-800、『電人ザボーガー』等々・・・。
いずれもその姿がしっかり心に残っている良作ばかりで、この『アイアン・ジャイアント』も間違いなくその中の一本です。

親友ホーガースを掌に乗せて大地を疾走するジャイアント。
あるいは天空へと飛翔し、その強靭な躯体で彼を危険から守ってくれる。
これらのシーンを見た時の私の気持ちの昂ぶりは、本作品の中でも格別なものでありました。
巨大な掌や肩に乗って普段は体験出来ないような高い目線から世界を見、そして”でっかい相棒”と対等に話をする・・・。
これはおそらく、幼い頃父親に肩車してもらった時の高揚感が無意識のうちに蘇ってくるせいではないかと思っています。
■好きなシーンその4「ボク、シヌ?」

森で出会った鹿がハンターに撃ち殺されるのを見て、ジャイアントの中に「死」という未知の概念が生まれます。
ホーガースも彼の母親も友達になったディーンも、人間は皆いつか必ず死ぬ。
ならば機械である自分も?。
それまではホーガースを高い場所へと誘ってきたジャイアントでしたが、人間について学ぶこのシーンでは彼が寝そべることでホーガースと同じ目線で話を聞くという画作りになっています。
以下、ネタバレになります。映画未見の方はご注意ください。

こうして「死」の概念を知ってしまったジャイアントですが、さらに自分自身が殺戮兵器であることを知ってしまいその事実と破壊衝動に耐え続けます。
しかし、軍の攻撃で気絶したホーガースを死んだと早合点した瞬間、ついに自我を失い軍に対して反撃モードを開放してしまいます。

ガチャガチャと不気味な戦闘モードに変形し、自分を攻撃してくる戦車部隊を片っ端から撃破していくジャイアント。
しかし、実はこのシーンで変形ジャイアントは一人も兵士を殺していません。
実弾砲でひっくり返った戦車は爆発していませんし、謎のビームで消滅する戦車からは搭乗員が脱出する姿が描かれています。
当時はこれを「ヌルい」などと蔑む輩もいましたが、見ている子ども達への影響を考えれば至極正しい判断だと思います。
考えようによっては、この状態にあってもジャイアントの内部に「殺ス→イケナイ」という思考が残っていて、無意識に急所を外したり脱出のための時間的余裕を与えたりしていたのかも知れません。
他の凡庸な作品ならともかく、この『アイアン・ジャイアント』に限ってはここまでの積み重ねによって何事も肯定的に見られるようになっていたのです。
■好きなシーンその5「ツイテクルナ」

ジャイアントを巡る騒動の果て、一人の愚か者のために核ミサイルが発射されてしまいます。
もはや逃げる時間も無く、せっかくジャイアントを受け入れてくれた街の人たちもただ死を待つのみとなりました。
そんな中で、この危機的状況を打破出来るのは自分だけであると悟ったジャイアントはある悲壮な決意をします。

「ホーガース、キミココ。ツイテクルナ。」
すがるような目で見上げるホーガースに、ジャイアントが優しく諭すように言ったこのセリフ。
それは、森の中での会話でホーガースがジャイアントに言ったセリフそのものでした。
この瞬間、私の脳内ではこれまでの場面が走馬灯のように一気に巻き戻され、ポロポロと目から熱い液体がこぼれ落ちるのを止めることが出来ませんでした。
以上、ネタバレ終わり
【吹替版での鑑賞をお薦めします】
この『アイアン・ジャイアント』を初めて観る方には、「オリジナル英語+字幕」ではなく「日本語吹替版」で鑑賞されることを強くお薦めします。
他国言語と字幕の組み合わせでは、会話の内容が単なるデータになってしまって登場人物の心の機微が伝わりにくいと思うのです。
この作品の場合は、ロボットであるジャイアントにいかに人間味を感じられるかが重要ですから、「字幕を読む」のではなく「台詞を聴く」ことに専念した方がこの映画を隅々まで楽しむことが出来ると思います。

吹替えでジャイアントを演じたのは声優の郷里大輔さん(故人)。
野太くてそれでいて優しい声の持ち主だった郷里さんが、文字通り「気は優しくて力持ち」なジャイアントの喜怒哀楽を丹念に表現してくれています。

ウェイトレスとして夜遅くまで働き、女手一つでホーガースを育てているママの声は、『タッチ』の南ちゃんこと日高のり子さん。
日高さんといえば、ロボットアニメ好きの私としては庵野秀明初監督作品『トップをねらえ!』のタカヤノリコの印象が強いです。
ハキハキとした甘くて聴き心地の良い声で、好きな声優さんのお一人です。

この映画は、ソ連との冷戦状態にあって人工衛星スプートニクに脅え共産主義を目の敵にしていた1957年のアメリカが舞台です。
ケント・マンズリー(しかしなんちゅうヒワイな名前や・・・)は、不可解なものは全てソ連の仕業と思い込む堅物捜査官。
この疑い深く粘着質で、それでいて(悪い意味で)子供みたいな悪役を、独特のダミ声で大塚芳忠さんがのびのびと演じています。
この作品で吹替えを担当されている声優さんたちは、私のような古い人間でも声と名前が一致して過去の出演作も思い浮かぶようなベテランさん揃いです。
安心して楽しめる吹替え版であることを保証します。
【シグネチャー・エディションについて】

今回視聴したブルーレイは、アマゾンで新品購入した北米版シグネチャー・エディション版です。

今回のブルーレイ化における最大のセールス・ポイントは、劇場公開時に時間や予算の都合で泣く泣くカットしたというシーンを新たに描き足した「シグネチャー・エディション版」の収録です。
その内容は、ジャイアントが同じ姿形の仲間たちと群れを為して他星を攻撃し惑星ごと破壊してしまうというものでした。
地球に落ちて来る以前のジャイアントは無慈悲に殺戮を繰り返す殺人兵器だったことが夢という形で明示されています。
しかし、私はこのシーンの挿入には反対です。
シグネチャー・エディションはお薦めしません。
ジャイアントは確かに殺戮兵器として作られたロボットだったかも知れませんが、たとえ夢という形でもそれを実際に画として見せてしまったのでは身も蓋も無いのではないでしょうか。
過去の悪行を画として見せなければ、「彼が兵器として作られたのは確かだが、もしかすると頭部の障害のせいで実戦にはまだ一度も加わったことが無かったかも知れない。」と考えることも出来るのです。
このシグネチャー・エディションだと、ジャイアントは過去に他星を滅ぼしたロボット軍の一員であることが確実となり、ラストの自己犠牲もその後の復活も実に空虚なものに変化してしまいます。
大事なことなのでもう一度書いておきます。
シグネチャー・エディションはお薦めしません。
メイン・メニューで再生するバージョンを選択出来ますので、ここで迷わず「オリジナル版」を選びましょう。
【セガBBSのこと】

『アイアン・ジャイアント』が公開された2000年当時は、『美女と野獣』の大ヒット以来毎年ディズニーアニメ新作が公開されるようになって久しく、「海外アニメもずいぶん一般的になったな~」と思われ始めた頃でした。
しかし、それはあくまでもディズニー作品に限っての話であり、ワーナーブラザーズ作品であるこの映画の公開規模は非常に小さいものでしかなかったのです。
当時の私は大阪に住んでいましたが、梅田や難波といった都市部での『アイアン・ジャイアント』上映館は一軒も無く、上映してくれたのは「ワーナー・マイカル・シネマ東岸和田」一館のみという寂しい状況でありました。
岸和田は大阪市内から電車で30~40分、私が住んでいた守口市(京阪沿線)からだと1時間以上は確実にかかるような場所です。
宣伝活動もほとんど目にすることはなく、当時『アイアン・ジャイアント』という海外アニメに関してはその存在すら知らない人がほとんどでした。
では、そんな状況の中で私がどうやってこの作品の事を知り、わざわざ片道1時間以上かけて遠く離れた岸和田まで出向いて感動の涙を流すに至ったのか?。
それは、当時私が熱心に書き込み参加していたセガBBSのおかげでありました。

<セガBBS過去ログの一部。残念ながら私が書き込み参加した頃のものは残っていないようです。>
「セガBBS」とは、『バーチャファイター』等で有名なゲーム会社セガが自らの公式サイト内に設置していた掲示板のことです。
1996年頃に開設されたセガBBSは、セガのゲームのみならず他社のゲーム製品から「映画」「アニメ」「スポーツ」とあらゆるカテゴリーの話題を持ち込み共有することが許容されていた実に懐の大きい掲示板でした。
私が参加し始めたのは1998年の末頃からで、当時の私はトガジンではなく"Good Man"というH.N.を名乗っておりました。
主に「映画」板と「アニメ」板に入り浸っていて、これらが閉鎖される2001年初頭までほぼ毎日欠かさず書き込みし続けたものです。
今思うと、あの2年ほどの期間は私の映画ライフの中でも最も充実した時期であったように思います。
好きな映画を語り合える仲間が大勢いるということが、あれほどまでに楽しいものであったとは。
一本の映画について特定の人と連日持論を語り合ったり、時には言い争いになってしまって他の人が仲裁に入ってくれたり・・・。
現在こうして映画に関するブログを始めたのも、心のどこかにあの頃の熱さを取り戻したい気持ちがあったからかも知れません。
かつて自分が参加した掲示板がもうどこにも残っていないのが哀しいです。
どこかに閉鎖間際の「映画」「アニメ」板の過去ログを残している方はいらっしゃいませんかねえ。
・・・思い出話はこれくらいにして、話を『アイアン・ジャイアント』に戻します。
ある時、そのセガBBS(「映画」板だったか「アニメ」板だったかは失念)に場末でひっそりと公開されていた『アイアン・ジャイアント』という海外アニメを猛烈にプッシュする人が現れました。
あえてH.N.をそのまま書かせていただきますが”ぴえ”と名乗るその方は「決して後悔することはないから是非見て欲しい。」「ディズニーに比べて知名度は低いが、こんな良作を埋もれさせてはいけない。」と自信を持って薦めてくれるのです。
「自分の住む地域ではいつ・どこで観られますか?。」などといった質問にも「●●市の■■という劇場が一番近いと思います」「そちらの地域では▲月▼日から■■という劇場で公開が始まります」と個々に調べて返事を返してくれて、私はその文面から「『アイアン・ジャイアント』を万人に観てもらいたい」という彼の真摯な気持ちを感じ取っていたものです。
彼の情熱に後押しされる形で、往復3時間近くと移動費約2000円を費やして岸和田まで観に行った『アイアン・ジャイアント』は本当に素晴らしい作品でした。
ラストシーンではポロポロと落ちる涙を止めることが出来ませんでした。
そしてもちろん、帰宅後にはぴえさんとセガBBSで『アイアン・ジャイアント』の感想を語り合ったことは言うまでもありません。
今は何処でどうしていらっしゃるのか知る由もありませんが、此処で改めてお礼を述べさせていただきます。
ぴえさん、あの時『アイアン・ジャイアント』を教えてくれて本当にありがとうございました。
セガBBSで教えてもらっていなければ、私はこの傑作を劇場で体験することは無かったはずです。
おかげ様で、私の映画ライフはこの作品の分だけ確実に豊かになっております。

最後までお付き合いいただきありがとうございました。
かつて「セガBBS」で、この作品を教えてくれた”ぴえ”さんのように、この拙文がこれから観る人の後押しになれば幸いです。
2000年に劇場公開されたワーナーブラザーズの長編アニメショーン映画『アイアン・ジャイアント』です。
ディズニーの陰に追いやられ、世界の片隅でひっそりと上映されていたこの作品に私の目を向けさせてくれたのは、とある掲示板で見つけた一人のファンの熱い書き込みでありました。
『アイアン・ジャイアント』
(1999年:ブラッド・バード監督作品)

<あらすじ>
メイン州の小さな港町。
ホーガース少年は森の中で鋼鉄の巨人「アイアン・ジャイアント」に出会う。
巨大で力持ちだが無邪気で人懐っこいジャイアントとホーガースはたちまち友達になる。
しかし巨大ロボットの噂は瞬く間に町に広まり、ついには軍隊まで出動する事態に発展してしまう。
■好きなシーンその1「ついて来るな」


二人(?)の最初の出会いは変電所で感電したジャイアントをホーガースが助けた時でしたが、お互いに心を通わせるようになるのはこのシーンからになります。
この短いやり取りの中で、ジャイアントの「子供のような無邪気さ」「高い知性を持つ」「記憶喪失」といった基本設定が手際よく描かれていて、この映画の脚本が無駄のない非常に優れたものであることが分かります。
そして、ここでのやり取りは実はラストへ向けての重要な伏線にもなっています。
家に帰るホーガースの後をまるで捨てられた子犬みたいについてくるジャイアント。
その巨大な友達にホーガースはこう言って聞かせます。
「君はここだ。ついて来るな。」
この何気ないセリフは、ラストでもう一度ジャイアントの口から発せられることになります。
■好きなシーンその2「電車が来ちゃうよ!」

家に向かう道中、食べ物と間違えて列車のレールを引きちぎってしまったジャイアント。
ホーガースは慌てて修理するよう言いますが、タイミング悪いことにそこへ列車が迫って来てしまいます。


一撃でレールを元に戻したジャイアントでしたが、彼は意外に几帳面な性格で前後のレールをピッタリ揃えることにこだわってしまうのです。
こんな愛敬たっぷりな姿を見ても彼を好きになれないような輩とは、私は一生友達にはなれない気がします。
■好きなシーンその3「よぉーし、進めっ」
私は(アニメ・特撮を問わず)「ロボットもの」はほぼ無条件で大好きなのですが、中でもロボットを”搭乗機”ではなく”相棒”として描いく作品には特に弱いみたいです。
『巨神ゴーグ』『ジャイアントロボ』『大鉄人17』、さらに等身大ロボットも含めれば『ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー』のK-2SOや『ベイマックス』、『ターミネーター2』のT-800、『電人ザボーガー』等々・・・。
いずれもその姿がしっかり心に残っている良作ばかりで、この『アイアン・ジャイアント』も間違いなくその中の一本です。


親友ホーガースを掌に乗せて大地を疾走するジャイアント。
あるいは天空へと飛翔し、その強靭な躯体で彼を危険から守ってくれる。
これらのシーンを見た時の私の気持ちの昂ぶりは、本作品の中でも格別なものでありました。
巨大な掌や肩に乗って普段は体験出来ないような高い目線から世界を見、そして”でっかい相棒”と対等に話をする・・・。
これはおそらく、幼い頃父親に肩車してもらった時の高揚感が無意識のうちに蘇ってくるせいではないかと思っています。
■好きなシーンその4「ボク、シヌ?」

森で出会った鹿がハンターに撃ち殺されるのを見て、ジャイアントの中に「死」という未知の概念が生まれます。
ホーガースも彼の母親も友達になったディーンも、人間は皆いつか必ず死ぬ。
ならば機械である自分も?。
それまではホーガースを高い場所へと誘ってきたジャイアントでしたが、人間について学ぶこのシーンでは彼が寝そべることでホーガースと同じ目線で話を聞くという画作りになっています。
以下、ネタバレになります。映画未見の方はご注意ください。

こうして「死」の概念を知ってしまったジャイアントですが、さらに自分自身が殺戮兵器であることを知ってしまいその事実と破壊衝動に耐え続けます。
しかし、軍の攻撃で気絶したホーガースを死んだと早合点した瞬間、ついに自我を失い軍に対して反撃モードを開放してしまいます。


ガチャガチャと不気味な戦闘モードに変形し、自分を攻撃してくる戦車部隊を片っ端から撃破していくジャイアント。
しかし、実はこのシーンで変形ジャイアントは一人も兵士を殺していません。
実弾砲でひっくり返った戦車は爆発していませんし、謎のビームで消滅する戦車からは搭乗員が脱出する姿が描かれています。
当時はこれを「ヌルい」などと蔑む輩もいましたが、見ている子ども達への影響を考えれば至極正しい判断だと思います。
考えようによっては、この状態にあってもジャイアントの内部に「殺ス→イケナイ」という思考が残っていて、無意識に急所を外したり脱出のための時間的余裕を与えたりしていたのかも知れません。
他の凡庸な作品ならともかく、この『アイアン・ジャイアント』に限ってはここまでの積み重ねによって何事も肯定的に見られるようになっていたのです。
■好きなシーンその5「ツイテクルナ」


ジャイアントを巡る騒動の果て、一人の愚か者のために核ミサイルが発射されてしまいます。
もはや逃げる時間も無く、せっかくジャイアントを受け入れてくれた街の人たちもただ死を待つのみとなりました。
そんな中で、この危機的状況を打破出来るのは自分だけであると悟ったジャイアントはある悲壮な決意をします。

「ホーガース、キミココ。ツイテクルナ。」
すがるような目で見上げるホーガースに、ジャイアントが優しく諭すように言ったこのセリフ。
それは、森の中での会話でホーガースがジャイアントに言ったセリフそのものでした。
この瞬間、私の脳内ではこれまでの場面が走馬灯のように一気に巻き戻され、ポロポロと目から熱い液体がこぼれ落ちるのを止めることが出来ませんでした。
以上、ネタバレ終わり
【吹替版での鑑賞をお薦めします】
この『アイアン・ジャイアント』を初めて観る方には、「オリジナル英語+字幕」ではなく「日本語吹替版」で鑑賞されることを強くお薦めします。
他国言語と字幕の組み合わせでは、会話の内容が単なるデータになってしまって登場人物の心の機微が伝わりにくいと思うのです。
この作品の場合は、ロボットであるジャイアントにいかに人間味を感じられるかが重要ですから、「字幕を読む」のではなく「台詞を聴く」ことに専念した方がこの映画を隅々まで楽しむことが出来ると思います。

吹替えでジャイアントを演じたのは声優の郷里大輔さん(故人)。
野太くてそれでいて優しい声の持ち主だった郷里さんが、文字通り「気は優しくて力持ち」なジャイアントの喜怒哀楽を丹念に表現してくれています。

ウェイトレスとして夜遅くまで働き、女手一つでホーガースを育てているママの声は、『タッチ』の南ちゃんこと日高のり子さん。
日高さんといえば、ロボットアニメ好きの私としては庵野秀明初監督作品『トップをねらえ!』のタカヤノリコの印象が強いです。
ハキハキとした甘くて聴き心地の良い声で、好きな声優さんのお一人です。

この映画は、ソ連との冷戦状態にあって人工衛星スプートニクに脅え共産主義を目の敵にしていた1957年のアメリカが舞台です。
ケント・マンズリー(しかしなんちゅうヒワイな名前や・・・)は、不可解なものは全てソ連の仕業と思い込む堅物捜査官。
この疑い深く粘着質で、それでいて(悪い意味で)子供みたいな悪役を、独特のダミ声で大塚芳忠さんがのびのびと演じています。
この作品で吹替えを担当されている声優さんたちは、私のような古い人間でも声と名前が一致して過去の出演作も思い浮かぶようなベテランさん揃いです。
安心して楽しめる吹替え版であることを保証します。
【シグネチャー・エディションについて】

今回視聴したブルーレイは、アマゾンで新品購入した北米版シグネチャー・エディション版です。


今回のブルーレイ化における最大のセールス・ポイントは、劇場公開時に時間や予算の都合で泣く泣くカットしたというシーンを新たに描き足した「シグネチャー・エディション版」の収録です。
その内容は、ジャイアントが同じ姿形の仲間たちと群れを為して他星を攻撃し惑星ごと破壊してしまうというものでした。
地球に落ちて来る以前のジャイアントは無慈悲に殺戮を繰り返す殺人兵器だったことが夢という形で明示されています。
しかし、私はこのシーンの挿入には反対です。
シグネチャー・エディションはお薦めしません。
ジャイアントは確かに殺戮兵器として作られたロボットだったかも知れませんが、たとえ夢という形でもそれを実際に画として見せてしまったのでは身も蓋も無いのではないでしょうか。
過去の悪行を画として見せなければ、「彼が兵器として作られたのは確かだが、もしかすると頭部の障害のせいで実戦にはまだ一度も加わったことが無かったかも知れない。」と考えることも出来るのです。
このシグネチャー・エディションだと、ジャイアントは過去に他星を滅ぼしたロボット軍の一員であることが確実となり、ラストの自己犠牲もその後の復活も実に空虚なものに変化してしまいます。
大事なことなのでもう一度書いておきます。
シグネチャー・エディションはお薦めしません。
メイン・メニューで再生するバージョンを選択出来ますので、ここで迷わず「オリジナル版」を選びましょう。
【セガBBSのこと】

『アイアン・ジャイアント』が公開された2000年当時は、『美女と野獣』の大ヒット以来毎年ディズニーアニメ新作が公開されるようになって久しく、「海外アニメもずいぶん一般的になったな~」と思われ始めた頃でした。
しかし、それはあくまでもディズニー作品に限っての話であり、ワーナーブラザーズ作品であるこの映画の公開規模は非常に小さいものでしかなかったのです。
当時の私は大阪に住んでいましたが、梅田や難波といった都市部での『アイアン・ジャイアント』上映館は一軒も無く、上映してくれたのは「ワーナー・マイカル・シネマ東岸和田」一館のみという寂しい状況でありました。
岸和田は大阪市内から電車で30~40分、私が住んでいた守口市(京阪沿線)からだと1時間以上は確実にかかるような場所です。
宣伝活動もほとんど目にすることはなく、当時『アイアン・ジャイアント』という海外アニメに関してはその存在すら知らない人がほとんどでした。
では、そんな状況の中で私がどうやってこの作品の事を知り、わざわざ片道1時間以上かけて遠く離れた岸和田まで出向いて感動の涙を流すに至ったのか?。
それは、当時私が熱心に書き込み参加していたセガBBSのおかげでありました。

<セガBBS過去ログの一部。残念ながら私が書き込み参加した頃のものは残っていないようです。>
「セガBBS」とは、『バーチャファイター』等で有名なゲーム会社セガが自らの公式サイト内に設置していた掲示板のことです。
1996年頃に開設されたセガBBSは、セガのゲームのみならず他社のゲーム製品から「映画」「アニメ」「スポーツ」とあらゆるカテゴリーの話題を持ち込み共有することが許容されていた実に懐の大きい掲示板でした。
私が参加し始めたのは1998年の末頃からで、当時の私はトガジンではなく"Good Man"というH.N.を名乗っておりました。
主に「映画」板と「アニメ」板に入り浸っていて、これらが閉鎖される2001年初頭までほぼ毎日欠かさず書き込みし続けたものです。
今思うと、あの2年ほどの期間は私の映画ライフの中でも最も充実した時期であったように思います。
好きな映画を語り合える仲間が大勢いるということが、あれほどまでに楽しいものであったとは。
一本の映画について特定の人と連日持論を語り合ったり、時には言い争いになってしまって他の人が仲裁に入ってくれたり・・・。
現在こうして映画に関するブログを始めたのも、心のどこかにあの頃の熱さを取り戻したい気持ちがあったからかも知れません。
かつて自分が参加した掲示板がもうどこにも残っていないのが哀しいです。
どこかに閉鎖間際の「映画」「アニメ」板の過去ログを残している方はいらっしゃいませんかねえ。
・・・思い出話はこれくらいにして、話を『アイアン・ジャイアント』に戻します。
ある時、そのセガBBS(「映画」板だったか「アニメ」板だったかは失念)に場末でひっそりと公開されていた『アイアン・ジャイアント』という海外アニメを猛烈にプッシュする人が現れました。
あえてH.N.をそのまま書かせていただきますが”ぴえ”と名乗るその方は「決して後悔することはないから是非見て欲しい。」「ディズニーに比べて知名度は低いが、こんな良作を埋もれさせてはいけない。」と自信を持って薦めてくれるのです。
「自分の住む地域ではいつ・どこで観られますか?。」などといった質問にも「●●市の■■という劇場が一番近いと思います」「そちらの地域では▲月▼日から■■という劇場で公開が始まります」と個々に調べて返事を返してくれて、私はその文面から「『アイアン・ジャイアント』を万人に観てもらいたい」という彼の真摯な気持ちを感じ取っていたものです。
彼の情熱に後押しされる形で、往復3時間近くと移動費約2000円を費やして岸和田まで観に行った『アイアン・ジャイアント』は本当に素晴らしい作品でした。
ラストシーンではポロポロと落ちる涙を止めることが出来ませんでした。
そしてもちろん、帰宅後にはぴえさんとセガBBSで『アイアン・ジャイアント』の感想を語り合ったことは言うまでもありません。
今は何処でどうしていらっしゃるのか知る由もありませんが、此処で改めてお礼を述べさせていただきます。
ぴえさん、あの時『アイアン・ジャイアント』を教えてくれて本当にありがとうございました。
セガBBSで教えてもらっていなければ、私はこの傑作を劇場で体験することは無かったはずです。
おかげ様で、私の映画ライフはこの作品の分だけ確実に豊かになっております。

最後までお付き合いいただきありがとうございました。
かつて「セガBBS」で、この作品を教えてくれた”ぴえ”さんのように、この拙文がこれから観る人の後押しになれば幸いです。
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