『マンハント』鑑賞記~男には死に向かって飛ぶことが必要なときもある~
現在公開中のジョン・ウー監督作品『マンハント』。
記録的大雪のためなかなか観に行くことが出来なかったこの作品ですが昨日ようやく観てきました。
今回は珍しく嫁と二人で福井市内へ買い物に出たついでの映画鑑賞です。
そういえば、彼女と一緒に映画館へ入ったのは何年ぶりでしょうか。
映画の好みがまるっきり違うので、ホームシアターでも一緒に観ることってあまりないんですよね。
これまでも当ブログで再三述べさせていただいていますが、私はこの映画の1シーンにエキストラとして参加させていただいております。
そして私がわざわざ兵庫県西宮市までこの映画に参加しに行ったことは嫁も承知済みです。
彼女は「あなた、去年も『ゴジラ』に映りたいとか言うて東京まで行ったやないの!。」と呆れながらも当日は生暖かい目で送り出してくれたものでした。
もしも・・・もしも、これでロクに映っていなかったとしたら、どんなに馬鹿にされることか?。
ましてや出演場面がまるごとカットされてたりなんかしたら、それこそ「今後はエキストラ遠征一切禁止」なんて言い渡される可能性も・・・。
内容云々よりもただそれだけが不安でありました。
その結果は、この記事の最後にて!。
『マンハント』🈠
(劇場:福井コロナシネマワールド)

映画『マンハント』公式サイト
<あらすじ>
実直な国際弁護士ドゥ・チウ(演:チャン・ハンユ―)が目を覚ますと、隣には女の死体が横たわっていた。
無実を主張するも現場の状況証拠は彼が犯人であることを示すものばかり。
何者かにハメられたことに気づき逃走するドゥ・チウ。
孤高の敏腕刑事の矢村(演:福山雅治)は独自の捜査で彼を追う。
鍵を握るのは謎の美女・真由美(演:チー・ウェイ)。
ドゥ・チウに近づくほどこの事件に違和感を覚え次第に見解を変えていく矢村。
そしてついにドゥ・チウを捕えた矢村は警察への引き渡しをやめ、共に真実を追及することを決意する。

『マンハント』は1976年公開の日本映画『君よ憤怒の河を渉れ』(原作:西村寿行/監督:佐藤純彌/主演:高倉健)のリメイク作品です。
大手製薬会社の陰謀に巻き込まれた検事(リメイク版では弁護士)が殺人の濡れ衣を着せられ逃亡者となるものの自分を追ってきた刑事と共に巨悪に立ち向かっていくというストーリーです。
『君よ~』は文化大革命後に中国で公開された最初の日本映画であり、抑圧された男が体制に逆襲するというその内容が当時の中国人民の心情にシンクロして空前の大ヒットを記録しました。
ジョン・ウー監督ご自身もオリジナル版『君よ憤怒の河を渉れ』と高倉健のファンだったと公言しており、もしかすると今回のリメイク企画は健さんの逝去がきっかけだったのかも知れません。

ただ、今回このオリジナル『君よ憤怒の河を渉れ』の出来栄えについて多くを語るつもりはありません。
一昨年、BSプレミアムで放映された時に初めて観ましたが、その時の感想は当時の記事を見て下さいということで・・・。
>『君よ憤怒の河を渉れ』🈠(2016/11/18)
同じ佐藤純彌監督&高倉健主演でも、決して『新幹線大爆破』や『野生の証明』のような作品を期待してはいけません(笑)。
そしてジョン・ウー監督の手によるリメイク版『マンハント』。
まずは👍良かった点から。
全編これジョン・ウー監督作品といった印象でとにかくカッコいい映画になっています。

なんだか久しぶりに「ジョン・ウー作品らしいジョン・ウー映画」を見た気がしましたね。
それは二丁拳銃であったりとかスローモーションであったりとか白い鳩であったりとか、ジョン・ウー作品を形作る記号が揃っていたというだけではありません。
日本という異国での撮影でありながら、なんだか監督が伸び伸びと楽しんで映画を作っているように感じたのです。
『男たちの挽歌』シリーズ等で名を成したジョン・ウー監督は1993年『ハード・ターゲット』でハリウッドに進出しました。
しかし、ハリウッドにおける諸作品が香港時代と同じ輝きを放っていたかといえばそれは「否」です。
最初の数本に限れば、確かにあの独自の表現方法そのものが映画のセールスポイントとして売り出されていました。
しかしハリウッドでは製作会社やプロヂューサーの意向が最優先されるため、監督の極端な個性やこだわりなど「ストーリー展開の妨げになる」とか「もっと分かりやすい表現を」と次第に切り捨てさせられていたように思います。

今回の作品はジョン・ウー監督が長年温めてきた企画を中国資本で制作した作品ですから、監督のビジョンを思うがまま画面に描き出すことが可能だったのでしょう。
御年71歳(この映画を撮っていたおととしの時点では69歳)のジョン・ウー監督の、変わらぬサービス精神と復活したやんちゃぶりがとても楽しくて嬉しいものと感じました。
一方、👎気になったのはやはりセリフ、と言うより言葉の問題でした。

冒頭のシーンから、いきなり頭がクラクラするような場面が炸裂します。
とある日本の寂れた港町。
カタコトの日本語を話す女将と店員がいる閉店間際の居酒屋に主人公の中国人弁護士が呑みに来ます。
そしておもむろに旧作『君よ~』のテーマ曲を口ずさんだりセリフを引用するなどしてオリジナルへのオマージュを捧げ始めます。
この後、『仁義なき戦い』に出てきそうないかにもな暴力団一家が入って来るのですが、女将と店員は実はプロの殺し屋で彼らを数秒で皆殺しにしてしまいます。
後になってこの異様なシーンが映画の重要な伏線だったと分かるのですが、観始めて数分間は「ああ、やってもうた・・・」感が半端無かったですね(笑)。

全編にわたり日本語・中国語・英語が入り混じって会話が交わされますが、それら多言語の使い分けに整合性があったとは言い難いです。
中国人俳優の喋る日本語がまるっきりカタコトで脱力させられたり、中国語で投げかけられた質問に通訳も無しで日本語で答えたり・・・。
これらの違和感が鑑賞する上での心理的ノイズになっていた気がします。
また、矢村役の福山雅治がインタビューで「アクションと同時に英語でセリフを喋らないといけないのが大変」と語っていたことから、国際市場を意識して日本語部分は全て英語で喋っていた可能性もあります。
そのせいか日本人俳優のセリフも本人がアフレコをしていて、口パクが合わない場面が数多く見受けられたのも気になって仕方なかった部分です。
『マンハント』は、いっそのこと「全編日本語吹替え」で観たほうが素直に楽しめる映画なのかも知れません。

オリジナル版で原田芳雄さんが演じた矢村はあまりにも鉄面皮すぎて人物像が掴みにくかったのが難点でした。
福山雅治さんが演じたリメイク版の矢村は、部下の新人女性刑事の存在もあって人間味がありましたしドゥ・チウに理解を示していく過程もつぶさに描かれていました。
「本作の主人公はドゥ・チウではなく矢村なのか?」と錯覚するほどに監督の愛が込められてたように感じます。
また、推理シーンではどこかドラマ『ガリレオ』を思わせる部分もあって、まるで湯川先生がアクションをしているみたいでちょっと笑ってしまいました。
だって↑の女刑事との2ショットなんて日本人の目から見たら『ガリレオ・シーズン3』以外の何物でもありませんから(笑)。

旧作『君よ憤怒の河を渉れ』は、どちらかといえば「罠にはめられた男の逆襲」に焦点が当てられて、ラストは黒幕の政治家をまるで腹いせのように無残に撃ち殺して終わります。
私にはこれがどうにも後味悪くて好きになれなかったのですが、今回の『マンハント』はあくまでも追われる無実の男とそれを追う刑事との国籍を越えた友情が主軸になっていて最後は好感を持って観終えることができました。
正直なところ、私は現在の中国という”国家”がしていることについては心底不愉快に思っている人間の一人であります。
しかし、これまで私が実際にお会いした中国の方々お一人お一人となると話は別です。
仕事でご一緒した中国の方はもちろん、カタコトの日本語で道を尋ねてきた旅行者もこの映画の撮影現場で接したスタッフさんたちも、皆さん常識のある良い人ばかりであったこともまた事実です。
日本と日本人に対してことさら敵対視したり見下そうとするような人には会ったことがありません。
それはこの映画も同様で、そんな互いに蔑視し合うような空気は微塵も感じられません。
あるのは国籍の違う男二人の友情物語だけです。
ベタな言い草で少々気恥ずかしくはありますが、この映画が両国でヒットしてお互いのイメージが改善されることを願ってやみません。
(ただ、私たちが入った劇場では観客は他にたったの4人しかしませんでした。この様子だと大ヒットという点については果てしなく難しいのも事実です・・・。)
【エキストラ参加シーン】
・・・で、この映画に私の姿がちゃんと映っていたかといいますと。

なんと、合計4カットも映っていました。
予告編と同じ背後からの移動ショットと、私たち報道陣の姿を真正面から捉えたショットが3カットです。
しかも!。
真正面からの2カットはウェストサイズくらいでかなりの寄り画です。
手に持ったビデオカメラで顔そのものは半分隠れていましたが、知り合いなら誰が見ても「あ、●●さん?」と分かってもらえると思います。
(ただし、私がこの映画のロケに参加した事実を知らなければ単なる「よく似た人」でしかないのでしょうけど・・・)
今まで私のことを苦笑いしながら「道楽者」と呼び続けてきた嫁も流石にこれには驚いていました。
これからはエキストラ出演のために遠出する時も大手を振って出かけられそうです。
私「な?俺、結構よく映ってたやろ?。」
嫁「うん、凄いね~、でも・・・。」
私「でも?。」
嫁「でも、なんかえらく太って見えたような?。」
私「って、そこかい!。」
まあ確かに、私自身も頬とか顎のあたりのブヨついた感じが気にならなかったわけではありませんけどね(笑)。
いやしかし、ホント嬉しかった!。
嫁と一緒でなければ、間違いなく映画館にUターンしてもう一回観ていたと思います。
映画自体も(細部に拘らなければ)ジョン・ウー監督のアクション映画として十分満足できる面白さでした。
普段はアクション映画など観ない嫁が「高倉健が出てた元のヤツも観てみようかな~。」と言い出したのはちょっと意外でしたが、これには私も「いや、悪いことは言わん、それだけはやめておけ。」と制したことは言うまでもありません。
最後までお付き合いいただきありがとうございました。
次回は、おととし7月15日のエキストラ参加時の話を書かせていただきます。