週刊映画鑑賞記(2018.9/10~2018.9/16)
毎週日曜日はこの一週間に観た映像作品について徒然なるまま書き留めております。
9/10(月)
『地球防衛軍』
(ホームシアター:日本映画専門チャンネル録画)

私の思い違いかもしれませんが、『地球防衛軍』は以前の「東宝特撮王国」では放映されていなかったような気がします。
「東宝特撮王国」と「オトナのアニメ」に関しては(たとえ市販ブルーレイを持っている作品であっても)全部録画してBD-Rに保存しておいたはずなのですが、今回HDリマスターとの画質比較をしようと思って探してみてもどうしても見つかりません。
もしそうなら、今回の『地球防衛軍』HDリマスター版の録画ディスクは私にとって貴重な映像ソースになります。

私が『地球防衛軍』を初めて観たのは大学3回生か4回生の頃、友人が買ったレーザーディスクを借りて観たのが最初でした。
もちろん、ビデオにダビングしてその後何度も繰り返し観たのは言うまでもありません(笑)。

その頃は↑のような21インチのブラウン管テレビ(4:3アスペクト)で見ていました。
しかし、画面の上下に半分近い面積の黒味が付いた状態になるため、シネスコスクリーンの迫力は10分の1も味わうことは出来ていません。

それはDVDレンタルが解禁になった2000年代初頭に32インチワイドテレビで観た時も同様です。
自分の視界に小さく収まってしまうテレビ画面程度では、シネスコの画角をフルに活かした『地球防衛軍』の画作りを100%楽しんだことにはならないのです。

それが今回、シネスコ120インチのスクリーンで観たことでようやくこの映画の真価に触れることが出来た気がします。
それでもやはり、本物の映画館の大スクリーンで大勢のお仲間と一緒に楽しみたい作品ですね~。
なぜならば・・・。

実は『地球防衛軍』は東宝特撮映画初のシネマスコープ(トーホースコープ)作品なのです。
それはつまり、本多猪四郎本編監督にとっても円谷英二特技監督にとっても初めてのワイドスクリーン作品ということになります。
そのため『地球防衛軍』では(ある意味必要以上に)横長アスペクトを生かした画作りとそれに負けない奥行き感を意識したレイアウトが成されているのです。

見てください!。
いかにも本多監督らしい画面一杯のこのモブシーンを!。
着の身着のまま、持ったとしても小さな手荷物だけで安住の地を追われる住民たち(地元エキストラ?)。
そして、この危険な状況下にあっても市民の安全を第一として避難誘導に従事する警官たち。
戦争中の空襲からの避難を経験した年代の人でなければ決して作り得ないであろう力強い画です。
ただし・・・HDリマスターのおかげで一部ヘラヘラ笑っている者もいるのが分かってしまうのはご愛敬ですが(笑)。

横長大画面のおかげで、一見無意味としか思えない白川由美さんの入浴シーンさえ大迫力であります(笑)。
シネマスコープでは特に横移動の動きが効果的なので、白川さんが窓の外を見ようと湯船の中を左右に移動する動きは(内容面は別として)絶対に無意味ではないのです。

横長画面を存分に活かす画作りは特撮パートも同じです。
このショットの場合、人間の目線に近いローアングルと遠方のモゲラを起点としたパースペクティブ構図により、無機質なモゲラがこっちに向かって来る恐怖が際立ちます。
実は、以降の東宝特撮においてはこういった人間目線の画作りというのは意外と少ないのです。
その理由として、作品を重ねるごとにゴジラをはじめとする怪獣たちの動きが次第に擬人化していったことと、企画そのものが「怪獣対怪獣」の対決ものばかりにシフトしたため人間目線ショットの必要性が減ったことが考えられます。

このモゲラに匹敵する怪獣となると、(初代『ゴジラ』は別格として)『モスラ対ゴジラ』の時のゴジラ、『フランケンシュタイン対地底怪獣』と『サンダ対ガイラ』、あとは大映の『大魔神』シリーズくらいではないでしょうか。
これらの作品に登場するのはいずれも直接人間に害をなす怪獣(あるいは神罰を下す神様)であるため、必然的に人間の視点の映像が多くなっています。
もう一点、敵のミステリアンについて・・・。

勝手に他国の土地を占領し、自分たちの科学力や軍事的優位をひけらかしながら「ここは我々の領土だ」と言い張ったり・・・

あるいは相手の国の住人を拉致監禁し、相手が手出し出来ないと知るやさらに図に乗って要求内容を拡大したり・・・
このミステリアンの不愉快さは、(どことは言いませんが)現在アジアの某国が行っている所業と重なりますね。
映画『地球防衛軍』は1957年公開の作品ですが、現代(2018年)において再び鑑賞する意義が意外なところに見つかりました(笑)。
4月から始まった日本映画専門チャンネルのHDリマスター版「東宝特撮王国」。
市販ブルーレイさえ凌ぐ高画質で放映される名作の数々に狂喜乱舞していたものでしたが、残念ながらこの9月で終了となってしまいました(涙目)。
また日本映画専門チャンネルに復活要望メールを出し続けるしかありませんね・・・。
9/12(水)
『宇宙大戦争』(ロングバージョン)
(ホームシアター:日本映画専門チャンネル)

今季の(あえてそう書きます)HDリマスター版「東宝特撮王国」のフィナーレを飾るのは1959年公開作品『宇宙大戦争』。
そのオリジナル劇場公開版より3分長いロング・バージョンです。
・・・しかし!。
実は私、今回チョイスされた『宇宙大戦争』がオリジナル公開版ではなく、ロングバージョンの方であったことには疑問と苛立ちを感じているのですよ。
なぜならば。
「オリジナル公開版に比べて3分長いロングバージョン」と謳ってはいますが、その実態は「完成前の零号版フィルム」でしかないからです。
つまり、本来なら画面に合成されているべきモノや人物が無かったり、合成の不具合やイマジナリーラインの間違いもそのままになっているという未完成バージョンなのです。

特に気になるのは、ブルーバック合成の精度です。
オリジナル公開版では、机や窓枠や人物の肩などブルーバックが反射した箇所が一部青く残ってはいるものの、鑑賞の妨げになるほどの違和感はありません。

ところがロングバージョンではこの通り!。
ジラジラとした合成ミス部分が大きく目立ち、それでいて窓枠やコピー機などちゃんと見えていなければならない部分が透明化してしまっています。
これがNGテイクであることは一目瞭然です。
HDリマスター化して後世に残すべきはオリジナル公開版のほうだと思うのですがね。
これまで何度も観返している『宇宙大戦争』ですが、実はついつい『地球防衛軍』『怪獣大戦争』『怪獣総進撃』などとイメージが混同してしまって細部についてはあまり印象に残っていません。
それは、私がこの映画の主人公をどうしても好きになれないことが原因です。

その最たる原因はこの出撃前夜のラブシーンです。
江津子「お月さまには今でもウサギやかぐや姫に居てくれたほうが美しいわね」
勝宮 「そういう美しさはどんどん無くなっていくんだ。」
江津子「でもいつまでも変わらないものもあるでしょ?。」
勝宮 「?」
江津子「わたしたちの愛情よ!。」
勝宮 「さあ・・・どうかな?。」
なんかもう・・・
「女は焦らしてナンボ」と言わんばかりの、男前を鼻にかけた嫌な野郎じゃありませんか。
しかも、夢もユーモアも無い実にツマラナイ男です。
こんな奴に追いすがって必死に優しい言葉を待ち続ける江津子さんが哀れでなりません。
関沢新一脚本x本多猪四郎演出から生み出されたとはとても思えないような主人公像です。
・・・・。
「東宝特撮王国」強制終了に心が乱れたせいか、なんだか文句ばかりになってしまいました(反省)。
気分直しとしてこの方にご登場いただきましょう。

東宝特撮では常にオイシイところをかっさらっていく土屋嘉男さんです。
『宇宙大戦争』では、ナタール人に操られてスピップ号一号機を爆破してしまうことになる勝宮の親友:岩村役を演じています。

ナタール人は終盤まで姿を見せませんが、まるで夢遊病者のような虚ろな目で破壊工作を進めていく土屋さんの名演技によって、人間を操り反重力で地上を攻撃する科学力を有する黒幕の存在が浮き彫りになります。
また、重力が地球の6分の1しかない月面を歩く演技について、「重力が弱いのだから人間の歩きもふわふわした動きになるはず」と監督に提案したのは土屋さんだったそうです。
それは、アポロ11号が月面着陸に成功し、その映像が全世界に中継される10年も前のことでした。
土屋さんの持つセンス・オブ・ワンダーがこの映画の骨格を支えたと言っても決して過言ではありません。

もう一つ。
今回『宇宙大戦争』を観ながら思い出していたのは、先月20日にはるばる明石まで足を延ばして観に行った「特撮のDNA展ー平成に受け継がれた特撮“匠の夢”ー」のことでした。

一階展示会場の一角には『宇宙大戦争』に関する解説パネルに加え、イメージボードと制作中の風景写真が紹介されていました。

そして、その真下には実際に撮影で使われたスピップ号の模型が展示されていました。
1959年の東宝特撮スタジオでカメラの前に置かれ(あるいは吊るされ)、おそらくは円谷英二監督も直接その手で触れたであろう本物のスピップ号です。

画面にスピップ号が映るたび、私は「ああ、俺がこの前見てきたのはまさにこれなのだな。」と一人感慨に耽っていたのでありました(笑)。
今週もお付き合いいただきありがとうございました。