光の国から僕らのために
昨夜(9/13)、劇団民藝の演劇『光の国から僕らのために―金城哲夫伝―』を観てきました。
お芝居を生で鑑賞するのはおよそ20年ぶりです。

あの特撮TVシリーズ『ウルトラQ』『ウルトラマン』『ウルトラセブン』を世に放った沖縄出身の脚本家:金城哲夫さんの半生を描いた劇団民藝の舞台劇です。
特撮好きの私としては、この公演が福井に来ると知ってからずっと「観たい」と思っていたのですが、ここ数日は福井国体の取材などで忙しくとても観に行く時間など確保出来ないものと諦めておりました。
しかし、この日の仕事は国体とは全然関係の無い内容だったので午後5時過ぎで終了です。
「せっかくのこの機を逃してなるものか」と一路公演会場へと車を走らせました。

場所は福井駅東口の商業施設アオッサ8階ホール。
開演は午後6時30分。
上演時間は(幕間休憩を含めて)約2時間。
そして入場料は・・・5,200円!(当日券)

ええ~っ、演劇ってこんなに高いのぉ~?。
映画(1,700円)の3倍ですよ!?。
福井駅から歩いて5分ほどの劇場ということで、小屋(会場)代がかなり高いのでしょうかね。

ちなみに、劇団民藝は福井県出身の俳優(故)宇野重吉さんが中心となって創立された劇団です。
今回、数少ない公演地として大阪・京都に混じって福井が選ばれたのは、宇野さんにちなんでのことだったかも知れませんね。
劇団民藝『光の国から僕らのために―金城哲夫伝―』公式サイト
http://www.gekidanmingei.co.jp/performance/2018tour_hikarinokunikarabokuranotameni/

<写真は2016年公演のものです(劇団民藝公式サイトより)>
第一幕は金城さんが同じ沖縄出身の上原正三さんを円谷プロに誘って「一緒に『ウルトラマン』を作ろう!」と誘うところから始まります。
まだ右も左もわからない上原さんの前で、円谷一監督と新番組『ウルトラマン』のアイデアを全身を使って熱く語る金城さん。

<写真は2016年公演のものです(劇団民藝公式サイトより)>
実際の映像が映し出されることはありませんでしたが、劇中にはピグモンの着ぐるみが登場し、『ウルトラマン』からは金城さんが脚本を書いた「怪獣無法地帯」「禁じられた言葉」「小さな英雄」のストーリーやセリフがそのまま引用されていました。
メフィラス星人「ウルトラマン!貴様は宇宙人なのか、人間なのか!」
ウルトラマン 「両方さ。」
引用されたセリフは「沖縄と本土の架け橋になりたい」と願う金城さんの心情を現すものでした。
観客層として私と同じか少し上くらいの『ウルトラマン』リアルタイム体験世代が多かったように思います。
若い観客はどうだったか分かりませんが、私は劇中で語られるエピソードについては全てその場面を思い浮かべることが出来ておりました。
劇はそのまま『ウルトラセブン』に移行するものと思いきや、『ウルトラマン』終了と同時に舞台は暗転し一気に5年の歳月が流れます。
円谷プロを離れ、沖縄でラジオや演劇に携わっていた金城さんは久し振りに円谷プロを訪ねました。
この時、『帰ってきたウルトラマン』のメインライターとなっていた上原さんの脚本を読んで衝撃を受けます。

それは「二大怪獣 東京を襲撃」「決戦!怪獣対マット」の、東京に水爆級の威力を持つ爆弾:スパイナーを落とそうというシーンと坂田健(演:岸田森)が語る戦時中の体験談の部分でした。
自身の戦争体験(沖縄戦)を決して人に語ろうとせず、『ウルトラマン』『ウルトラセブン』を徹底的にファンタジー・寓話として作ってきた金城さんは、自らの戦争体験と日本本土への恨み節を子供向け番組に露骨に盛り込もうとする上原さんと対立します。
「沖縄と本土の架け橋」を目指す金城さんに対し、「僕は東京に家を建てた。琉球人がヤマトの50坪の土地を占拠したんだ」と言い放つ上原さん。

奮起した金城さんは、私が『帰ってきたウルトラマン』の中でも5本の指に入る名編と思っている「毒ガス怪獣出現」を執筆します。
日本帝国軍軍人であった岸田隊員の父が作った毒ガス兵器(イエローガス)。
それを体内に取り込んだ怪獣モグネズンが現れて毒ガスを吐き多数の犠牲者が出てしまう。
岸田は自分の命を投げ打ってでも父の汚名を雪ごうと出撃する。
それまでは正論を振りかざして仲間の行動を非難してばかりの「イヤな先輩」にしか見えなかった岸田隊員が、この件をきっかけとして人間味のあるキャラクターに変化し、やがては郷の一番のパートナーになっていく重要なエピソードでもあります。
しかし、上原さんからは「理想主義だ」と面と向かって非難されてしまいます。
上原さんの目には、物語の中でさえ本音を語ろうとしない金城さんの姿がとても歯痒いものに映ったのかも知れません。
そして、金城さんはこの「毒ガス怪獣出現」を最後に特撮シナリオライターとしての筆を折ってしまうのでした。

<写真は2016年公演のものです(劇団民藝公式サイトより)>
第2幕では、沖縄に帰って沖縄海洋博のスタッフとして活動する中でやはり本土側の搾取を目の当たりにして次第に心身を病んでいく金城さんの姿が描かれました。
そしてベトナム戦争の開戦。
沖縄から運ばれていく毒ガス兵器や爆撃機は「毒ガス怪獣出現」のイエローガスそのものです。
ラスト。
死を目前にした金城さん。
その脳裏(という演出?)に、押しも押されぬ特撮ライターとなった現在の上原さんが時間を超越して登場し、43年後の世界の様子を語り始めます。
スマホや宇宙ステーションなど、金城さんはかつて夢見た未来世界の実現に喜びますが、その反面、戦争も沖縄の基地も無くなってはいない現実もまた突き付けられます。
♪光の国から僕らのために 来たぞ我らのウルトラマン
最後、タイトルにもなっている主題歌が哀しく響きます。
どこまでが事実でどこからがフィクションかは分かりかねますが、『ウルトラマン』『ウルトラセブン』『帰ってきたウルトラマン』を人生の糧としている者としてはなかなかに辛く、それでいてとても見応えのあるお芝居でした。
しかし、これで『ウルトラマン』や『帰ってきたウルトラマン』が嫌いになることは断じてありません。
帰りのエレベーターの中、30代くらいの女性が「『帰ってきたウルトラマン』って本当にあんな凄いお話なの?」「一度見てみたいな~。」と話していました。
私自身、今、猛烈に『帰ってきたウルトラマン』を観返したくて仕方がありません。
最後までお付き合いいただきありがとうございました。