週刊映画鑑賞記(2018.12/3~2018.12/9)
毎週日曜日はこの一週間に観た映像作品について徒然なるまま書き留めております。
12/4(火)
『スペースウォーカー』🈠
(ホームシアター:WOWOW録画)

1965年にロシアの宇宙飛行士アレクセイ・レオーノフとその相棒パベル・ベリャーエフが世界初の宇宙遊泳を成功させた実話を描いた作品です。
『ライトスタッフ』『ゼロ・グラビティ』『アポロ13』などアメリカのリアル宇宙ものに加えて、ロケット発射シーンには日本のアニメ『王立宇宙軍』のビジュアルエッセンスも混じっていたように思います。
『スペースウォーカー』も『サリュート7』も前から見たかった作品でしたが、ツタヤとかゲオでレンタルしようにもどういうわけかどちらもDVDレンタルのみでブルーレイレンタルの扱いはありません。
私は漆黒の闇に星が瞬く「宇宙もの」映画は少しでも高画質・高解像度で見たいのです。
かといって、アマゾンプライムでの有料配信はHD画質レンタル500円といくらなんでも高すぎます。

先月、その『スペースウォーカー』と『サリュート7』というロシアの宇宙開発もの2本がWOWOWで放送されました。
他にも『惑星大戦争』『宇宙からのメッセージ』といった和製スペースオペラにアカデミー作品賞を受賞した『シェイプ・オブ・ウォーター』と、11月は久し振りのWOWOW録画祭りとなりました。

国の威信を賭けて、アメリカより少しでも先に宇宙開発を進めたいとする旧ソ連の為政者たち。
そのせいで当の飛行士たちはいくつかの問題点が未解決のまま宇宙に飛び立つことになってしまいます。
宇宙服の気圧が不安定になって呼吸困難になり、慌てて邸内に戻ろうにも自由に身動きがとれない大ピンチ!。
ご本人がご健在でこの映画の監修を担当していますから彼が死ぬことは絶対ないと分かっていますが、それでも見ながらハラハラドキドキしてしまいます(笑)。

無事地球に帰還して終わりかと思いきや、まだまだ彼らの苦難は続きます。
予定コースを大きく外れて、二人が不時着したのはなんとシベリアのツンドラ地帯でした。
ロケット打ち上げの成否・酸素不足・大気圏突入のお次は極寒の地で凍死の危機が待っていました。
着陸艇の通信機は使えず、連絡方法は発光弾とモールス信号のみ。
帰投燃料ギリギリまで捜索を続けて遂に二人を発見した捜索ヘリのパイロットの心意気、そしてそのパイロットの名を呼んで「ありがとう」と呟くコロリョフ。
私にとって、このラストシーンがこの映画一番の泣きポイントでした。
12/5(水)
『サリュート7』🈠
(ホームシアター:WOWOW録画)

翌日に見たのは『サリュート7』。
こちらもロシアの実録宇宙開発ものです。
そういえば昔、「ロシアの人工衛星が地球のどこかに落下して大きな被害を及ぼすかもしれない」というニュースに世界中が緊張したことがありました。
詳しい内容や時期などは覚えていませんが、あれはこのサリュート7のことだったのかも知れません。
『スペースウォーカー』と同系統の作品を2日続けて見る事には少しためらいましたが、見始めると凄く面白くて2時間があっという間でした。

終盤、「技術者のヴィクトルだけを地球に帰して船長のウラジミールはサリュート7と運命を共にする」という悲壮な決断を迫られるシーンがあります。
ここで1969年のアメリカ映画『宇宙からの脱出』の他の2人分の酸素を確保するために自ら犠牲になるシーンを思い出していました。
しかし、サリュート7の事故が起こったのは1980年代であり、この映画で描かれた二人の宇宙飛行士による命がけの修理は1985年の出来事です。
16年も前のアメリカ映画を地で行く出来事がロシア(旧ソ連)で本当に起こっていたのですね。
『アポロ13号』も『スペースウォーカー』もそうでしたが、こういった宇宙開発もの映画の傑作はいつも地上のミッション・コントロールリーダーが良いですね。
宇宙飛行士は狭い宇宙船の中でほとんど動かなかったり宇宙服で顔が見えないことが多いのに対し、地上のスタッフは終始事態を把握し続けつつ飛行士を励まして解決策を模索します。
私たち観客は、実は宇宙空間での飛行士達の活躍や災難を見る以上に、そんな地上スタッフの立場に我が身を置いて一喜一憂する構造になっているのです。

『サリュート7』のシュディン(演:アレクサンドル・サモイレンコ)も

『スペースウォーカー』のセルゲイ・コロリョフ(演:ウラジミール・イリン)も

『アポロ13』のジーン・クランツ(演:エド・ハリス)に負けないくらい魅力ある人物でした。
12/8(土)
『八甲田山』<4Kデジタルリマスター版>
(ホームシアター:日本映画専門チャンネル録画)

福井でもこの土曜日から急激に冷え込み、パラパラとアラレが降り始めました。
今年もいよいよ冬将軍の到来です。
福井県民としては1月から2月にかけての大雪の記憶がまだ新しいため、私も例年になく緊張しています。
タイヤは11月下旬には既に交換済みで、この日は一日かけて車に滑り止め用の砂袋を載せたり、ホームセンターでスコップやらスノーダンプやら防寒防水アノラックなんかを買い込んで常備したりして冬(雪)を迎え撃つ準備に追われておりました。
そんな寒~い一日の終わりに鑑賞したのは、先週日本映画専門チャンネルで放送された『八甲田山』<4Kデジタルリマスター版>であります。
>週刊映画鑑賞記(2017.11/13~2017.11/19)
『八甲田山』については一年前にも鑑賞していて簡単な感想を書き留めておりますので、今回は木村大作撮影監督が監修したという4Kデジタルリマスター版の画質について書くことにします。

まずこちらは9年前に日本映画専門チャンネルでDR録画した『八甲田山』のキャプチャー画像。
かの有名な「天は我々を見放した!」のシーンです。
このバージョンは映画全編に渡って青みが強く暗部諧調も潰れがちで、呆然と立ちすくむ兵隊たちの顔が全く分かりません。
また常に画面を横切る吹雪が映像を描写するビットレートを消費してしまうため、顔だけでなく衣服や背景の樹木への着雪具合もボケてしまっています。
本物の吹雪の中で撮影された映像ですから吹き付ける雪で顔が見えにくいのは仕方ありませんが、ここまで詳細が潰れると画面全体がのっぺりしてしまう上に雪の中に立っている兵士たちがまるで人形みたいに見えてしまいます。
また、全員の顔が見えないためにまるでホラー映画の1シーンのようでもあります。

こちらは↑と全く同じフレームを3年前にWOWOWで録画したBD-Rから切り出したキャプチャ―画像です。
色の青さや暗部の諧調潰れは同様ですが、兵士の服と樹木への着雪、そして吹き付ける吹雪にご注目ください。
(画像をクリックすると大きなサイズで見られます)
雪の粒立ち感とでも申しましょうか、兵士たちに打ち付けられる雪の一粒一粒が彼らの気力・体力を削いでいく悪意の塊りのように見えてきます。
背景の樹木への着雪具合も判別できるため、この場所の寒さと広さを実感することが可能です。
おそらくWOWOW版と旧・日本映画専門チャンネル版は同じマスターを使って放送しているはずなのですが、両局では放送する際の解像度とビットレートに差があります。
具体的には、WOWOWは解像度1920x1080のフルハイビジョンで送り出しをしているのに対し、日本映画専門チャンネルは1440x1080で放送しており、そのためにこうした見え方に大きな違いが生じるのです。

そして、こちらが今回の4Kデジタルリマスター版からの同じフレーム画像です。
色温度を下げることで青みを減少させ、さらに暗部諧調も改善したおかげで人物の顔がよく見えるようになりました。
この厳しい大自然の中で成す術もなく立ちすくんでいる兵士たちが決して人形ではなく、死を目前にした人間であることが分かります。
とりわけ、わずかながらも神田大尉(演:北大路欣也)の表情が分かるのは大きいと思います。
この直後に神田大尉にズームインして、あの「天は我々を見放した」の名セリフが放たれます。
本来ならば3840x2160の高解像度で鑑賞するべき4Kデジタルリマスター版『八甲田山』ですが、今回視聴したのは新4K放送ではなくこれまで通りの1440x1080にダウンコンバートされた通常ハイビジョン放送です。
そのため旧・日本映画専門チャンネルバージョンと同じく雪の細部表現が潰れてしまっている箇所もあるのですが、それでも元が4倍以上良いためか見た目の綺麗さは1920x1080フルHDのWOWOW版を遥かに凌いでいます。
先日、「4Kテレビなんか急いで買う必要はない!」と断じた私ですが、こうして4Kリマスターの威力を目の当たりにすると「これをオリジナルの4K品質で見てみたい」とあっさり手の平を返してしまいますね(笑)。

少し気になったのですが、画面のブレを修正するためか表示フレームが急マスターよりも若干狭くなっていました。
また、今回のリマスター版は色温度を暖色寄りに振ったことで八甲田山の極寒イメージがやや薄らいでいることも確かです。

でも色温度を暖色寄りにしたことで、人間の肌色も綺麗になっているのもまた確かです。
青森歩兵第五連隊と弘前歩兵第三十一連隊が冬山に出発して以降はとんと女っ気が無くなってしまうのが残念な『八甲田山』ですが、その映画中盤で我々男性客の魂を潤してくれたのはこの”案内人どの”こと若き日の秋吉久美子さんでありました。

「極寒の八甲田山中でこんなにも血色が良いなんていかがなものか?」
そんな事を言う野暮天は旧バージョンだけ見ていればよろしい。
人間は画面を見つめる時無意識に人の顔(肌色)を探します。
その肌色が綺麗に出ることで前進色と後退色の使い分けがし易くなり、画面に立体感が生まれます。
そして何より、彼女のこの明るい笑顔があればこそ、この2時間50分のツラくてむさ苦しい軍隊映画を最後まで観通すことが出来るのです(笑)。

私は2年ほど前に『ゴジラ』(昭和29年版)の4Kリマスター版と市販ブルーレイの画質比較をしたことがあります。
今回の『八甲田山』も『ゴジラ』同じような傾向のリマスターが施されていました。
その傾向とは、「ノイズ除去」と「画面の安定化」に加えて「明るさの向上」と「暗部諧調の拡大」、そして何よりも「女優さんの美しさを引き出す」ことであります(笑)。
これからも旧作がどんどん4K(あるいはそれ以上)リマスター化されていくでしょうが、この5大原則は変わらないはずです。
今週もお付き合いいただきありがとうございました。