オリジナルは遠くになりにけり?
突然ですが
【映画は24コマ/秒が基本です】

映画のブルーレイ・ディスクには元のフィルムと同じ1秒間24コマ仕様で映像が収められています(ごく一部のタイトルを除く)。
ここ十年以内に発売されたBDプレーヤーとテレビの組み合わせであれば、上の図のように映画館と同じ動きを楽しめる時代になっているのです。

ところがほとんどのプレーヤーではせっかくのこの機能が「OFF」の状態で出荷されているため、それと気付かず秒間24フレームを30フレーム(正確には60フィールド)に水増しされた不自然な動きで見ている人が多いようです。
プレーヤーやテレビの設定をちょっと見直すだけで制作者の意図したとおり(秒間24コマ)の動きで映画を楽しむことが出来るのですからこれを使わない手はありません。
このブログを立ち上げてまだ間もない頃、私は「映画は秒間24コマ再生で見るべきである」という記事をかなり気合を入れて書いております。
ご参考になれば幸いであります。
>「ホームシアターこだわり編【24pのススメ】」(2016/12/24)
【多けりゃいいってものではないのだ】
さらに近年の高級テレビには、液晶の倍速性能を利用して「動きをより滑らかに変換する」機能が付加されているものも増えてきました。

こちらは入力された映像を秒間120から240コマに増量するソニーの「モーションフロー」の概念図です。
動きをより滑らかにするために本来のコマとコマの中間に、もう一つ新しいコマを生成していることが分かります。

画像で表すとこんな感じです。
少し前までどの電気店のテレビ売り場でも、こんな風に旧式と最新型のテレビを2台並べて動きの比較デモをやっていました。
(最近は4Kのデモばかりであまり見かけなくなりましたが)
動き補正技術を搭載していないテレビでは微妙にガクガクした動きになって文字なども見えづらいですが、ソニーの「モーションフロー」やパナソニックの「クリアモーション」といったフレーム補完機能を備えたテレビだとまるで自分の動体視力が良くなったかのように滑らかで安定した動きに変わります。
私は「これでえっちなビデオを見たらさぞかし凄いだろうな~」とか実に下らないことを考えながら見ておりました(笑)。
しかし、見るものが映画となれば話は別です。
このモードで映画を見た場合、まるでビデオ(秒間60コマ)で撮影したかのようなヌルヌルした滑らかな動きに変化してしまうのです。
映画の場合、秒間24コマで撮影・編集して動きのイメージやタイミングを決めているのに、こうして余計なコマを勝手に付け加えられることで画面から受けるイメージが別物になってしまいます。
また、動きが滑らかになったにもかかわらずなぜかひどくチープな映像に見えました。
【メーカーも電気屋もどいつもこいつも・・・】
数年前、福井の電気量販店:100●ボルトへ新しいテレビを買いに行った時のことです。
ニコニコしながら近寄ってきた店員が、モーションフローをONにしたソニーのTVに映画のDVDを映してこう言ったのです。
「どうです!。動きが凄く滑らかでしょう?。」
と、まるで自分が開発したかのようなドヤ顔で説明し始めました。
それだけならまだ苦笑いして立ち去ることも出来たのですが、彼の次の言葉が私の逆鱗に触れてしまいました。
「映画は一秒に24コマしかありませんが、これは120コマに増やして映してるんです。これを見たらもう映画館でなんか見ていられませんね!。」
自称「普段は温厚」な私ですがこれには思わずカッとなってしまいました。
「どアホ!。映画は一秒24コマで作ってあるんやから24コマで一番綺麗に見られるのが本当にいいテレビやろ!。」
「お前、どこのメーカーのサクラか知らんがそんないいかげんなこと言うて客にモノ売り付けとんのか!。」
今ではちょっと大人げなかったと反省していますが、あの時は長年の映画ファンとしての血が滾ってしまったのです。
少なくともトーキーになった1927年頃から90年以上もの間、映画はずっと24コマ/秒で作られてきました。
その動きを滑らかにしようと機械が勝手に絵を作って間を埋めるなんて作者への冒涜以外のなにものでもありません。
そして、こんな機能を一番のセールスポイントとして何も知らない一般客に売り付けようとする電気店の連中も同罪です。
こればかりは文章で表現するのは難しいので、「動き補間」機能を備えたテレビをお持ちの方は一度その機能をON/OFFして試してみて下さい。
倍速機能を持たない古いテレビしか持っていないという方は電気店に行って設定をいじってみて下さい。
見慣れたブルーレイを持ち込んで再生させてもらったり、無料の衛星放送(BSプレミアム等)の映画番組で動きの変化を確認するのも良いでしょう。
昔から映画に親しんできた人ならば、その動きの異常さが分かるはずだと思います。
【トム様もかく語りき】

そんな中、昨今のテレビでの映画鑑賞に対して一石を投じるような呼びかけをしてくれた大物俳優が現れました。
その人の名は、平成のジャッキー・チェン(笑)ことトム・クルーズ!。
最近、彼が動画で『ミッション・インポッシブル』の監督さんと一緒にこう訴えているのです。
「映画を観るならTVのフレーム補間をオフに」と。
>「トム・クルーズ「映画を観るならTVのフレーム補間をオフに」と呼掛け。理由は「映像が安っぽくなるから」」
この記事によればトムだけでなく、クリストファー・ノーラン監督をはじめ何人かの映画監督も賛同しているようです。
あの『ダークナイト』『インターステラ―』のノーラン監督が、ですよ!。
なんだか私の意見をノーラン監督に聞き入れてもらえたみたいで嬉しくなってしまいました(笑)。
【じゃあ、アレはどうなんだ?】
こうなってくると、今度は最近の4Kテレビやプレーヤーに付いているアレが気になってきます。

これとか。

これとか。
画面のコントラストを操作する高画質化技術です。
同じことをやってるのに複数の方式が存在するのが気になっています。
この「HDR」と呼ばれているものって、映画のオリジナルを損ねるようなものじゃないでしょうね?。

先日買った『2001年宇宙の旅』の4K-UHD BDには「ドルビービジョン採用」と書かれていました。
ということは、このディスクを100パーセント楽しむには「ドルビービジョン対応プレーヤーとテレビが必要」ということになりはしませんか?。

そして、HDRだのドルビービジョンだのを駆使して作られた4K映像とは、実際のところオリジナルフィルムにどれだけ忠実なのでしょうか?。
同じソフトでありながら、機器側が対応しているか否かで出てくる絵がまるで違うなんておかしくないですか?。
う~む。
なんだか、またメーカーの思惑にハメられつつあるような気がしてきました。
色即是空・・・
テレビ放映でしか映画を見たことがないというような輩ならいざ知らず、一度でも映画館で映画を見て感動したことのある人ならこの私のこだわりを理解してくれると信じます。
最後までお付き合いいただきありがとうございました。