週刊映画鑑賞記(2020.1/6~2020.1/12) 『この世界の(さらにいくつもの)片隅に』『ウルトラQ』第22話
毎週日曜日は、この一週間に観た映像作品について日記代わりに書き留めております
メニエール病による母の入院。
母への見舞いも兼ねてこの年末年始には親戚たちが大勢集まり、必然的に何人もの子供たちにお年玉をむしり取られる・・・。
そんな苦行のような今年の正月もようやく過ぎ去りました。
ひと息ついて、嫁と「週明けには気分直しに映画観に行こうか」とか言っていたのですが・・・。
日曜の深夜、お隣の家にご不幸がありました。
亡くなられた隣の親父さん(89歳)は9年前の私の父の葬儀の時とてもお世話になった方です。
ご恩返しということもあって、月曜と火曜はお通夜と葬儀のお手伝い(受付業務)をすることになりました。
せっかくの休みが無くなっただけでなく、数時間立ちっぱなしでしかも応対する相手はほとんど知らない人ばかりだったため終わったときの疲労感は半端なかったです。
「もう出来るだけ葬式には関わりたくないなあ」と思いますが、現実的には我が家にも年老いた母がいるわけで父の時と同じように覚悟と備えをしておく必要はありそうです。
1/10(金)
この日が年明け10日目にしてようやく初の映画館詣となりました。
『この世界の(さらにいくつもの)片隅に』🈠
(劇場:福井コロナシネマワールド)

2016年秋公開のアニメ『この世界の片隅に』に当時製作費の問題でカットされたいくつかのシーンを追加したいわゆるディレクターズカット版です。
、『この世界の片隅に』<ディレクターズカット版>とか<完全版>とか<特別編>とかでなく、『この世界の(さらにいくつもの)片隅に』と新しいタイトルを付けたところに片渕須直監督の自信と強い拘りが感じられますね。
実際劇場で見てみると、新しいシチュエーションが加わったことで2016年版そのままのシーンもまるで違ったものに見えてくるから不思議です。
また、2016年版を見慣れた私でも新しく作り足した部分との違和感が全く無く、2時間48分もの上映時間中一瞬たりとも集中力が途切れることはありませんでした。

昨年末の公開時からずっと見たかった作品でしたが、上映時間が長いせいか一日一回しか上映がありません。
そのためなかなかスケジュールが合わせられずにいたのですが、幸いこの日は仕事が午後1時集合ということになったので出勤前に観ていくことにしました。

前作・・・ではなく前バージョンは再上映も含めると劇場で5~6回観ていますしブルーレイも買っています。
しかも私にしては珍しく、劇場パンフレットと原作漫画まで買い込んでこの作品の世界に浸り続けておりました。
それくらい前バージョンの満足度は高かったのですけど、やっぱり遊郭の少女:リンのエピソードが大幅に削られているため一部のシーンに唐突な印象があったことも事実です。

すずさんが夫の周作とリンの過去の出来事を知ることでこのアニメのおままごとっぽさが消えました。
そしてすずさんのオンナの部分が描かれたことで夫の周作と遊女のリン、そして幼馴染の哲との関係性までもが前のバージョンとは違った深みを持って見えるのです。
追加されたシーンも全く違和感なく作品に組み込まれており、「ここが新作だ」とか余計なことを考えて没入感が途切れることもありません。
私はこの新バージョンにも身体が震えるほど感動してしまいました。
今回もパンフレットを買って帰ろうと売店に寄ってみたのですが・・・

ありや?。
残念、売り切れでした。
まあ、でも『この世界の(さらにいくつもの)片隅に』はあと2~3回観に行くつもりでいますから、パンフレットを買うのは次の機会にしましょうかね。
1/11(土)
『ウルトラQ』第22話「変身」
(49インチ4K液晶テレビ:BS4K録画)

「1/8計画」とは反対に人間が大きくなってしまうお話ですが、実は制作順はこっちが先でした。
(「1/8計画」は制作NO.8、「変身」は制作第制作NO.2)

初期に制作されたせいか合成ショットもミニチュア特撮も凄く良い出来です。
特撮慣れした東宝俳優陣の演技力とも相まって巨人大きさが実感出来る映像が続出します。
なんといっても画面レイアウトが良いですね。
カットによっては劇場用の『フランケンシュタイン対地底怪獣』を越えてるものもあるくらいです。

さらに、小規模ながら住民の避難シーンもちゃんとあります。
本多猪四郎監督の怪獣映画には必ず描かれる「生活を根こそぎ奪われる人々」です。
「変身」の梶田興治監督は『ゴジラ』から『サンダ対ガイラ』まで本多監督の助手を長い間務めた方です。
こういうシーンがあるかないかで怪獣もののリアリティは大きく違ってくるものなので、たとえTV作品といえども師匠の演出を受け継いでこの避難シーンを作ったのだと思います。

浩二役は『大怪獣バラン』(1958年)で主役を張った野村浩三さんです。
そのせいかモノクロの森の中がよく似合いますね(笑)。

一方、彼を探しに向かう婚約者あや子を演じるのは中真千子さん。
世間一般的(つまり特撮以外)には『若大将』の妹役で有名な方ですね。

中さんといえば私が真っ先に思い出すのは『ウルトラセブン』第2話に登場したチャーミングな若奥さん役です。
『ゴジラ・ミニラ・ガバラ オール怪獣大進撃』のお母さんもこの人でした。
『仮面ライダークウガ』にはレギュラー出演、あと『ウルトラマンティガ』の「時空を超えた微笑」ではかわいらしいおばあちゃん役も演じてましたっけ。
出演数こそ少ないですが、私にとって中真千子さんという女優さんは間違いなく特撮ミューズ(美女)のお一人なのであります。

「変身」では巨人化した恋人を見捨てて逃げてしまったことを悔やみ続けている役のため、終始険しい表情を見せています。
いつも朗らかな笑顔が魅力の女優さんですが、反対にそのギャップがこのストーリーに信ぴょう性をもたせてくれています。

昆虫学者の浩二は不幸にしてモルフォ蝶の毒に侵されて(あるいは沼の水のせいかも?)巨人化してしまいます。
私も今までは「アンバランスゾーンに入り込んだ男の身に降りかかった不幸な出来事」と思っておりました。
しかし!。
今回「変身」を見返しているうち、「これは不幸なんかじゃなくて、彼はバチが当たったという話ではないのか?」という風に考えるようになったのです。
それはたった1つの短いカットのせいでした。

結婚を1ヶ月後に控える浩二とあや子は連れ立って蓼科高原へ。
昆虫学者の浩二はそこでアマゾンにしか生息しないとされるモルフォ蝶を見つけ興奮状態に!。
隣にいる婚約者のことなど眼中に無くなってしまいます。
「やっぱりモルフォだ!」
この次の短い1カットが私の認識を大きく変えてしまったのであります。

「えっ?、あたしとチョウチョのどっちが大事なの!?。」
・・・と言ってるように私には見えました(笑)。

そんな彼女を放ったらかしにして夢中で森の中へ駈け込んでいく浩二。
山道に一人置いて行かれるあや子の悲しげな表情にご注目ください。
私も覚えがあるのですけど、たとえデート中であっても急に好きなものが目の前に現れたとしたらついつい彼女を放ったらかしにしてそっちに夢中になってしまうことがありますよね。<男性諸君。
私の場合、これが彼女の逆鱗に触れてやがて別れにつながったのでした・・・(涙)。

「変身」のラストでは熱原子X線を浴びた浩二は元のサイズに戻り、半ば野生化しつつあった知能も元に戻ります。
一の谷博士は「ボタン一つで猛獣なんかイチコロだ!」と言っていたので、てっきり殺すための武器だと思っていました(笑)。
ご都合主義と言われればそれまでです。
こういうラストにするなら、もっと人間だった時の浩二の人物像を掘り下げておくべきだったと思います。
あや子の行動原理も意味不明で「一年も見捨てておいて何を今さら・・・」と思う人もいたことでしょう。
あと、「浩二と一緒に服まで巨大化したのか?」という突っ込みどころもありますがそれは言わないお約束ということで(笑)。

ちなみに、金城哲夫さんの原案では浩二はラストで熱原子X線を浴びて死ぬことになっていましたが、それを女性脚本家の北沢杏子さんがハッピーエンドに書き変えたのだそうです。
おそらく女性の視点から男の幼児性とか身勝手さを戒める寓話的ストーリーに改変したのでしょう。
趣味に殉じた恋人を泣いて見送るだけの女の話なんて、女性の目から見たら許しがたかったのではないでしょうか?。
少々(いや、かなり)無理のある軌道変更ですが、なぜだか私はこの終わり方に納得出来てしまいました。
例えば、あや子役が水野久美さんや若林映子さんだったとしたら、泣きながら彼氏の死を見守っても絵になったと思います。
でも、いつも朗らかな中真千子さんにそんな辛い涙は似合いません。
中さんをキャスティングしたから浩二は死なずに済んだのか?。
あるいは死なないストーリーに変えたから中さんがキャスティングされたのか?。
それは分かりませんが、少なくとも中真千子さんが嘆き悲しむところを見ないで済んだことで良しとしてしまうのであります。

先日、『帰ってきたウルトラマン』メイン脚本家の上原正三さんの訃報を聞きました。
今は大好きだった小学校の先生が亡くなったと聞かされた時と同じ寂しさを感じております。
(藤子・F・不二雄先生の訃報を聞いたときもこんな気持ちでした)
しかも、先週上原さんの初期作品『ウルトラQ』第21話「宇宙指令M774」を見たばかりでしたのでよけいショックが大きいです。
上原さんの書く作品の奥底には、子供にはまだ理解できないトゲや毒が仕込まれていたように思います。
大人になって見返すとそれがチクチクと痛み出し「あれは一体なんだったんだろう?」と深く考えずにはいられなくなるのです。
上原正三さんのご冥福を心よりお祈り申し上げます。
今週もお付き合いいただきありがとうございました。