週刊映画鑑賞記(2020.9/7~2020.9/13)
毎週日曜日はこの一週間に観た映像作品を日記代わりに書き留めることにしています。
今週はWOWOWでブルース・リー祭りとなりました。
先週までの4週間、『ブルース・リー 4Kリマスター復活祭2020』と銘打って『危機一発』『怒りの鉄拳』『ドラゴンへの道』『死亡遊戯』の4本を映画館で週に一作品づつ再上映していましたが、今回はそれらに『燃えよドラゴン』と『死亡の塔』を加えた6作品が放映されます。
9/7(月)
『ドラゴン危機一発』
(ホームシアター:WOWOW録画)

<あらすじ>
タイの製氷工場で働く親戚を頼って香港からやって来た青年チェン。
しかし、その会社は麻薬の密売に手を染めており秘密を知った従兄弟たちは次々と殺されていった。
怒りを爆発させたチェンは「ケンカはしない」という母との誓いを破り極悪非道な社長一味に戦いを挑む。
『ブルース・リー 4Kリマスター復活祭2020』最初の上映作品でしたが、私は迂闊にもその開催予定をチェックし忘れていて『危機一発』を見逃してしまいました。
今回WOWOWで視聴することで「ブルース・リー復活祭」補完計画とします。

今回放送されたバージョンは英語吹替え版でした。
たぶん「ブルース・リー復活祭」で上映されたのと同じ日本公開版マスターではないかと思われます。
画質もとても奇麗で、ライブラリとしてBD-Rに焼いて残すには十分過ぎるクオリティです。

この英語吹替え版にはブルース・リーの代名詞とも言える怪鳥音「アチョォ~~~~」が使われていません。
実は、主演第一作目である『危機一発』には元々使われていなかったのです。
現在ブルーレイや配信などで見られる広東語音声バージョンにはしっかり「アチョ~」と入っていますが、それは他の作品で使われた怪鳥音音源を使って後から音声リミックスしたものです。
私がこれまで見てきた『ドラゴン危機一発』は全て怪鳥音入り広東語バージョンだったため、今回の英語吹替え怪鳥音無しバージョンはある意味新鮮でした。
ちなみに・・・。

’78年にTV放送された時ブルース・リーの声を演じたのは『仮面ライダー』の藤岡弘さんだそうです。
残念ながら、私はまだこの日本語吹替え版を見たことがありません。

現在これを見るには日本語収録版DVDを買うしかないようです(アマゾンで917円)。
もし「アチョォ~」ではなく、あの太い声で「とう!」とか「ドラゴンキィ~ック」とか叫んでいるなら是非見てみたいです(笑)。

『ドラゴン危機一発』は元々ジェームズ・ティエン(田俊)を主役に撮影が始まった作品でした。
ところが、脇役のはずだったリーのアクションがあまりにも素晴らしく、途中で主役をリーに変更されたのだそうです。
そのあおりを受けて、ジェームズ・ティエン氏演じるシュウは哀れにも途中で殺されてしまうことに・・・。
『ドラゴン危機一発』は『怒りの鉄拳』と同じロー・ウェイ監督の作品です。
ところが、ロー監督は撮影開始時に現場に入れない状態だったため、他のスタッフが入れ替わりで監督代行を務めながら撮影を進めていたそうです。
本作のシナリオやキャラ設定にちぐはぐな点が多いのは、急な主役交代のせいだけでなく監督不在のまま初期の撮影を行ったことにも原因があるのかも知れません。

『ドラゴン危機一発』は大学時代にレンタルビデオで見たのが最初ですが、実はそれ以降に見返した時の記憶がありません。
DVDやブルーレイが出たときに他のB・リー作品と一緒にレンタルして見たはずなのですが、何故かまるで記憶に残っていないのです。

覚えているのは、仲間が4人も行方不明になったというのに昇進に浮かれて「いっちにぃ」と行進するお間抜けシーンや・・・

リーに吹っ飛ばされた敵がキレイに人型の穴が開けて壁をぶち破るという古典的ギャグくらいです。
どうしてこんなに印象が薄いのか自分でも不思議だったのですが、今回真正面から見返してみてその理由が分かった気がしました。

この映画、殺人シーンがやたらと多くて殺伐とした雰囲気なのです
リーも何人も敵を殺していて(しかも明らかな憎悪と殺意を持って)、この一年後に作られた『ドラゴンへの道』とは大違いです。

そしてヒロインを除く仲間たち全員が殺されてしまいます。
しかもリーに対する彼らの誤解も解けないまま・・・。
爽快感とはおよそ縁遠いお話です。

しかも小学生くらいの子供までも犠牲に!。
この後味の悪さが私の記憶にフィルターをかけてしまっていたのかも知れません。
ブルース・リー主演作品でなかったら二度と見返すことはなかったでしょう。
そんな『危機一発』の印象を踏まえたうえで改めて『ドラゴンへの道』を見返すとまた違った視点が見つかります。
『危機一発』と『ドラゴンへの道』のストーリーベースは実によく似ているのです。
田舎から出てきた朴訥とした青年が実はカンフーの達人で、出向いた先で難儀に巻き込まれる。
大きな違いは『危機一発』は相手を殺しまくるが『ドラ道』は出来るだけ殺さないということ。
そして、仲間との絆を失うか否かということです。
リーの初主演作『ドラゴン危機一発』は当初別の俳優の主演作だった企画から急遽変更になったものです。
そのためシナリオはガタガタ、しかも序盤は監督不在のまま撮影を行っていたという劣悪な制作環境でした。
リーの初監督作品『ドラゴンへの道』は、自身の初主演作『危機一発』のセルフ・リメイクだったのかも知れません。
9/8(火)
『ドラゴン怒りの鉄拳』
(ホームシアター:WOWOW録画)

翌日の放送は『怒りの鉄拳』。
「ブルース・リー復活祭2020」と同じ英語吹替え版かどうかを確かめるためだけに見始めました。
結果はやはり英語版で、リーは師匠の棺にすがりつきながら「ティーチャー!」と泣き叫んでおりました。
ほんのひと月前に劇場で見たばかりなので本当はそこで止めるつもりだったのですけど、なんかあれよあれよと言う間に最初の殴り込みシーンになってしまって結局ラストまで見てしまいました(笑)。
初めて見た時(TV放映)の思い出とか先日の劇場初鑑賞の感想などは8/16の記事に書いているので今回は簡単に。
今回の放送を見ていて「なんか日本女性の扱いが酷い映画だな~」と改めて思いました。

公園のシーンでリーに犬の真似をさせようとする日本人集団の中にいた日本髪のおばちゃん(画面右)。
おばちゃんていうか、この人絶対男でしょ!?。
『怒りの鉄拳』の内容柄、日本人に対する悪意を感じずにはいられないキャスティングです(笑)。

あと、この国辱もののストリップシーン。
この踊り子さんがぶるぶる胸を振るところをしっかり撮っていてしかも尺が長い!。
最後に股間を隠して後ろ足で下がっていくところはまさにアキラ100%状態でありました。
橋本力さん、鼻の下伸ばしてないで日本人として監督に抗議してくださいよ~。
9/9(水)
『ドラゴンへの道』
(ホームシアター:WOWOW録画)

こちらも3週間前に映画館で観たばかりだというのにまた最後まで見てしまいました。
音声は『危機一発』『怒りの鉄拳』と同じく英語吹替え版です。

『ドラゴンへの道』でいつも気になるのは冒頭の空港シーンのピンボケ映像です。
こればかりはいくらデジタルリマスターとか4K化しても直ることは決してありませんし、むしろ高画質化するたびにそのピンボケ具合が余計気になってしまいます。
どうしてこんなピンボケ映像を使った(あるいは使わざるを得なかった)のか?。
いや、そもそもどうしてピンボケになってしまったのか?。
最近になってその理由が分かったのでここに書き記しておきます。

『ドラゴンへの道』はシネマスコープサイズです。
シネスコサイズの撮影方法はいろいろありますが、よく知られているものは以下の二つです。

スーパーパナビジョン。
65ミリ幅のフィルムをフルに使って横長映像を非圧縮で撮影します。
画質は最高ですが、フィルム代も現像代もこれを回すカメラも非常に高価で、全盛期のハリウッド映画くらいしか採用されていないんじゃないかと思います。
上映フィルムには横に5ミリ分の音声トラックが付加されてそれが70ミリ映画と呼ばれるものです。

もう一つはアナモフィックレンズを使って35ミリフィルムに縦に圧縮撮影して、上映時には横に引き伸ばして横長画面を実現する最も一般的なシネスコ方式です。
通常の35ミリフィルムを使うのでコストを抑えられますが、画像圧縮しているため画質は劣化します。
機材は特殊なカメラである必要はなく、レンズ前にアナモフィックレンズを取り付けるだけです。
それでも通常の35ミリフィルム映画の撮影機材は必要になるため、スーパーパナビジョンほどではないにせよ相当の数の機材と人員を必要とします。
『ドラゴンへの道』で使われたシネスコ撮影方式はそのどちらでもありません。

35ミリフィルムにスーパーパナビジョンみたいに横にシネスコ映像を焼き付けるテクニスコープというコンパクトな撮影システムです。
シネスコ画面を35ミリのカメラとフィルムとで撮影出来るうえ、一応非圧縮なので余計なレンズも不要です。
さらに音声トラックも付加されていて現場での同時録音も可能な仕様です。
(ただし現実的には同録音声は使えないことが多い)
しかも、フィルム一本で通常の35ミリ映画に比べて倍のコマ数撮影することが出来る経済的な方式です。
ただし、上の図を見て分かるとおりひとコマあたりの画素数は通常の35ミリ映画の半分以下なので当然画質もそれなりです。
また、光学的にみると画素面積が小さいということはそれだけフォーカスがシビアになるということで、レンズの調整など準備も入念に行う必要があります。
ところが、『ドラゴンへの道』のローマ空港シーンはなんと無許可のゲリラ撮影でした(!)。
大急ぎでカメラを設置して、空港担当者やら警備員に気づかれる前に撮り終えねばならず、カメラの調整も測量も十分に出来ないまま撮影したのがあのピンボケ映像だったというわけです。
撮り直ししたいと思ってもきっともう不可能だったのでしょう。
『ドラゴンへの道』の撮影は日本人カメラマン西本正さんが担当しておられます。
当然この空港シーンも西本さんの手による撮影です。
普通ならこんな映像を撮ってしまったカメラマンはクビにされそうなものですが、対チャックノリス戦などの撮影で西本カメラマンの技量とセンスとチャレンジ精神に惚れ込んだB・リーは次の『死亡遊戯』の撮影も依頼し、さらにはハリウッド合作の『燃えよドラゴン』の撮影も彼に依頼したがっていたくらいだったそうです。
同じ日本人としてとても誇らしいエピソードですね。
9/10(木)
『死亡遊戯』
(ホームシアター:WOWOW録画)

先々週劇場で見たばかりのこの映画。
これはさすがに全編通して見る気にはなれなくて、早送りで流し見して終盤の”本物”のシーンだけを見るつもりでした。
でも、途中でふと気になって通常再生に戻した部分がありました。

それは、ビリー・ロー(演:複数の替え玉俳優)とカール・ミラー(演:ボブ・ウォール)のロッカールームの戦いです。
メインの替え玉俳優タン・ロンの動きはなんかモタモタしていて見ていてイライラしてしまうのですが、このシーンの一部だけやたらクンフーのキレが良かったのです。
「もしかしてあの人が?」
そこで、映画館では出来なかったスローモーションとコマ送りで顔が見えるコマを探し出しました。

おおっ、やっぱり!。
ユン・ピョウです!。

無名時代のユン・ピョウが『死亡遊戯』でスタントマンをやっていたという話を聞いたことはありましたが、それがこのシーンだったのですね。
納得です。
9/11(金)
『死亡の塔』
(ホームシアター:WOWOW録画)

レンタルビデオで一度見たきりの作品です。
『死亡遊戯』の話が出るたびに「そういや『死亡の塔』ってのもあったなあ」と名のみ思い出す程度で、内容は綺麗さっぱり忘れておりました。
「毒を食らわば皿まで」ってことで翌日は『死亡の塔』であります。

前半は『死亡遊戯』と同じく替え玉俳優による偽ブルース・リー映画でしたが、本作中盤でリーが死んでしまいその弟が登場して跡を引き継ぎます(笑)。
弟役を演じるのは、これまで『死亡遊戯』のB・リーの替え玉俳優として顔を隠され続けてきたタン・ロン氏。
これにてようやく堂々と顔出し演技できるようになりました。
・・・が。
なんか濱田岳に似てるような・・・?(笑)。
カンフーアクションもブルース・リー継承ではなく、どちらかといえば小技を延々繰り出し続けるジャッキー・チェンスタイルでした。

この映画、敵の設定が妙に浮世離れしています。
雑魚キャラたちはこのとおり銀色の未来風衣装。
よく見ると袖がフリルみたいにヒラヒラしています。

そうかと思えば、『はじめ人間ギャートルズ』みたいな恰好の大男が出てきたり・・・。

最後にたどり着いたラスボスの部屋がまるでショッカーのアジトみたいだったりなんかします(笑)。

でも、実はB・リーの『死亡遊戯』構想にSFやオカルト的要素が含まれていた可能性だって十分考えられるのです。
なぜならば、『死亡(的)遊戯』のオリジナルフィルムを見るとハキムの目が明らかに人間のものではない赤い蛇のような目になっていましたから。
9/13(日)
『燃えよドラゴン』
(ホームシアター:WOWOW録画)

そして一日おいて今日。
「ブルース・リー復活祭私的補完計画ウィーク」と勝手に名付けたこの一週間の締めくくりは『燃えよドラゴン』であります。
TV放映で初めて見て以来何度かビデオやDVD等で見返している作品ですが、劇場では高3の時再上映で見たのと7年ほど前の「午前十時の映画祭」で上映された時だけです。
『ブルース・リー 4Kリマスター復活祭2020』に『燃えよ~』も加えてくれたら完璧だったと思うのですが、配給会社の違いで難しかったのでしょうかね。

映画冒頭のサモハンとの試合シーン。
実はこれが『燃えよドラゴン』最後の撮影シーンだったそうです。
ということは・・・これがスクリーンに映る生前最後のリーの姿ということになります。
リーがこの撮影の数か月後に亡くなったことを踏まえて見ると、心なしか彼の表情に生気が無く、身体も華奢に見えてきます。
いや、これは気のせいなんかではなく、本当に彼に死期が迫っていたせいだったのかも知れません。
なぜならば・・・

同じ『燃えよドラゴン』の中でも、先に撮られたこのシーンでは全身からエネルギーがほとばしり出ていたのですから!。
今週もお付き合いいただきありがとうございました。