週刊映画鑑賞記(2020.9/21~2020.9/27)
CATEGORY週刊映画鑑賞記
トガジンです。
毎週日曜日はこの一週間に観た映像作品を日記代わりに書き留めています。
9/22(火)
『キューブリックに愛された男』🈠
(ホームシアター:WOWOW録画)

<内容>
1970年のある雪の夜、ロンドンに住むイタリア系移民のエミリオ・ダレッサンドロは卑猥な形をした荷物の運搬仕事を請け負う。
後日、彼の仕事ぶりを気に入った依頼主が「自分の専属運転手にならないか?」と声を掛けてきた。
その人物こそ、映画監督のスタンリー・キューブリックだった。
映画のことなど何も知らないエミリオだったがそれを承知し、その時から30年間にも及ぶ2人の不思議な主従関係が始まる。

原題は「S Is for Stanley」
訳すると「SはスタンリーのS」ってとこですかね。
『キューブリックに愛された男』という邦題は『魅せられた男』とカップリング上映するために付けられたもののようです。

エミリオに信頼を寄せるキューブリックは毎日のようにムチャぶりをメモに書いてよこします。
その最後にはいつも彼の頭文字であるSの字が。
Sのサインは、仕事の注文だけでなく個人的な悩み相談やエミリオの息子が事故に遭ったことを気遣うメッセージにも同じように添えられていました。
完全主義の天才映画監督でありながら、子供のように繊細でかつ我儘な”S”のために、エミリオは自身の夢も家族との時間も犠牲にして尽くし続けます。

キューブリックの遺作『アイズ・ワイド・シャット』は「撮影期間最長(400日)の映画」という内容でギネス認定されています。
それはキューブリックの完全主義によるものではなく、なんと「エミリオの不在」が原因でした。
エミリオ夫妻が自身の年齢とその後の人生を考えてキューブリックの元を去ってからというもの、制作がひどく滞っていたということでした。
エミリオ本人の話なのでどこまで本当かは分かりませんが、このドキュメンタリーで語られるキューブリックの人間像はひどく子供っぽく寂しがり屋のような印象です。
9/23(水)
『キューブリックに魅せられた男』🈠
(ホームシアター:WOWOW録画)

<内容>
1970年代初頭、イギリスの若手俳優:レオン・ヴィターリは憧れの天才監督キューブリックの新作映画『バリー・リンドン』に出演。
キューブリックに絶対的な忠誠を誓い、有望視されていた俳優業からスタッフ側に転身したレオンは個人的なアシスタントに取り立てられ、身の回りのありとあらゆる細かい用事や仕事を任されるようになっていく。
やがて、24時間365日、無限とも思える雑事に追われるレオンは次第に肉体的精神的に追い詰められていく。

こちらの原題は「Filmworker」
レオン本人の言によると「フィルムメーカー」ではなく作品(フィルム)に関するあらゆる業種に従事する者という意味らしいです。

最初のうちは雑務係でしたが、『シャイニング』ではキャスティングを任され子役(ダニー)の世話係に抜擢されます。
それから徐々にキューブリックの信頼を得ていったレオンは、やがて俳優の演技指導、プリント作業、サウンド・ミキシング、効果音制作、字幕と吹替の監修、宣材レイアウト、予告編制作など多くの業務を任されるようになり、現在もキューブリック作品の品質維持などに従事しています。

見終わった時の感想は「これは師弟関係ではなく従属関係だ」という嫌悪感でした。
前途洋洋だったはずの俳優人生を捨ててまでキューブリックの仕事を間近に支え続けてきたレオンが結局ただの一本も自分の作品を作ろうとしていないからです。
この映画のタイトルは『キューブリックに魅せられた男』ではなく『キューブリックに囚われた男』のほうが合ってる気がします。

例えば、やはり完全主義者と呼ばれた黒澤明監督に30年近く師事した小泉堯史監督は、後年黒澤監督の遺稿『雨あがる』で監督デビューを果たしています。
小泉監督の30年間が決して無駄でなかったことはその後の小泉監督作品の数々を見れば明らかです。

だからといって「じゃあ、レオンはキューブリックの後継者としてスピルバーグ以上の『A.I.』を作れただろうか?。」と問われると答えに窮してしまうのですがね・・・。

キューブリックとレオンの関係を見ていて、ふと、晩年の黒澤明監督と本多猪四郎監督の関係を思い出しました。
当時”世界のクロサワ”とか”天皇”などと持ち上げられていたうえに現場のスタッフとも大幅な年齢差が生じていた黒澤監督には、気兼ねなく相談できる同世代の相棒として旧友の本多監督を誘ったのだと思います。
また、本多監督は自身も『ゴジラ』などで海外にも有名な存在だったにも関わらず『影武者』から『まあだだよ』までの13年間、親友:黒澤明監督の補佐役に徹して演技指導やリハーサル代行にB班監督などを担当されました。
世間から「完全主義者」(「暴君」とも)と呼ばれる稀代のクリエイターたちは、実は心のどこかで忠実にして信頼できる理解者を欲していたのかも知れません。

今週は2本のキューブリック関係ドキュメンタリーを見たわけですが、こうなると7月にNHK-BS1で放送されたドキュメンタリー『キューブリックが語るキューブリック』を見逃してしまったことが改めて悔やまれます。
NHKのことなのでそのうち再放送してくれるはずだと期待はしているのですが・・・。
連日
『エール』
(居間49インチ4K液晶テレビ:NHK総合)

今週からついに戦争時代へ突入です。

祐一を通じて軍歌の作詞依頼を受けた鉄男。
しかし、戦地に赴く者の心情がどうしても理解出来ず何度も書き直しを命じられる。
すっかり自信喪失した鉄男を裕一は自分たちの原点である福島への帰郷に誘った。

そこで恩師:藤堂先生と再会した鉄男は、藤堂が妻と幼い息子を残して出征するという事実を知り愕然とする。
♪ あゝ あの顔で あの声で手柄頼むと 妻や子がちぎれる程に 振った旗遠い雲間に また浮かぶ
恩師の心情を想って書いた鉄男の詩は無事軍部の了承を得たものの、軍人の解釈は全く違うものでした。
「生きては帰れぬ兵隊の覚悟を表現していて戦意高揚にふさわしい歌だ」
今週の『エール』で、私はこのセリフが一番ショッキングでした。
詩の創作過程を見ていた者としては「どうしてこんな解釈が出来るのか?」と疑問に思いますが、詩だけをよくよく読んでみると確かに「手柄頼む」とか「赤い忠義の血が滲む」とか悲愴感漂うワードが並んでいます。
その詩が望郷の念をそそらせるような歌になったのは古関先生の楽曲の力だったように思います。
そこで残念に思うのは、このドラマで『露營の歌』や『暁に祈る』の作曲前に古関先生が中国大陸へ取材旅行に行った部分が丸ごとカットされていることです。
前線の兵士たちの苦労や望郷の想いを直に見聞きしてきたからこそ、古関先生の軍歌には勇ましさと郷愁が入り混じっていたと思うのです。
そのシークエンスが無いまま見ていると、『露營の歌』や『暁に祈る』の作曲をサクサク進める祐一がただの器用な作曲家にしか見えません。
『エール』は当初の予定から10話分削減されたそうですが、この中国取材の部分もそこに含まれていたのかも知れないと思うと本当に残念です。
(もしかすると、単に後の従軍慰問と被るためカットされたのかも知れないですが・・・)
今週もお付き合いいただきありがとうございました。
毎週日曜日はこの一週間に観た映像作品を日記代わりに書き留めています。
9/22(火)
『キューブリックに愛された男』🈠
(ホームシアター:WOWOW録画)

<内容>
1970年のある雪の夜、ロンドンに住むイタリア系移民のエミリオ・ダレッサンドロは卑猥な形をした荷物の運搬仕事を請け負う。
後日、彼の仕事ぶりを気に入った依頼主が「自分の専属運転手にならないか?」と声を掛けてきた。
その人物こそ、映画監督のスタンリー・キューブリックだった。
映画のことなど何も知らないエミリオだったがそれを承知し、その時から30年間にも及ぶ2人の不思議な主従関係が始まる。

原題は「S Is for Stanley」
訳すると「SはスタンリーのS」ってとこですかね。
『キューブリックに愛された男』という邦題は『魅せられた男』とカップリング上映するために付けられたもののようです。

エミリオに信頼を寄せるキューブリックは毎日のようにムチャぶりをメモに書いてよこします。
その最後にはいつも彼の頭文字であるSの字が。
Sのサインは、仕事の注文だけでなく個人的な悩み相談やエミリオの息子が事故に遭ったことを気遣うメッセージにも同じように添えられていました。
完全主義の天才映画監督でありながら、子供のように繊細でかつ我儘な”S”のために、エミリオは自身の夢も家族との時間も犠牲にして尽くし続けます。

キューブリックの遺作『アイズ・ワイド・シャット』は「撮影期間最長(400日)の映画」という内容でギネス認定されています。
それはキューブリックの完全主義によるものではなく、なんと「エミリオの不在」が原因でした。
エミリオ夫妻が自身の年齢とその後の人生を考えてキューブリックの元を去ってからというもの、制作がひどく滞っていたということでした。
エミリオ本人の話なのでどこまで本当かは分かりませんが、このドキュメンタリーで語られるキューブリックの人間像はひどく子供っぽく寂しがり屋のような印象です。
9/23(水)
『キューブリックに魅せられた男』🈠
(ホームシアター:WOWOW録画)

<内容>
1970年代初頭、イギリスの若手俳優:レオン・ヴィターリは憧れの天才監督キューブリックの新作映画『バリー・リンドン』に出演。
キューブリックに絶対的な忠誠を誓い、有望視されていた俳優業からスタッフ側に転身したレオンは個人的なアシスタントに取り立てられ、身の回りのありとあらゆる細かい用事や仕事を任されるようになっていく。
やがて、24時間365日、無限とも思える雑事に追われるレオンは次第に肉体的精神的に追い詰められていく。

こちらの原題は「Filmworker」
レオン本人の言によると「フィルムメーカー」ではなく作品(フィルム)に関するあらゆる業種に従事する者という意味らしいです。

最初のうちは雑務係でしたが、『シャイニング』ではキャスティングを任され子役(ダニー)の世話係に抜擢されます。
それから徐々にキューブリックの信頼を得ていったレオンは、やがて俳優の演技指導、プリント作業、サウンド・ミキシング、効果音制作、字幕と吹替の監修、宣材レイアウト、予告編制作など多くの業務を任されるようになり、現在もキューブリック作品の品質維持などに従事しています。

見終わった時の感想は「これは師弟関係ではなく従属関係だ」という嫌悪感でした。
前途洋洋だったはずの俳優人生を捨ててまでキューブリックの仕事を間近に支え続けてきたレオンが結局ただの一本も自分の作品を作ろうとしていないからです。
この映画のタイトルは『キューブリックに魅せられた男』ではなく『キューブリックに囚われた男』のほうが合ってる気がします。

例えば、やはり完全主義者と呼ばれた黒澤明監督に30年近く師事した小泉堯史監督は、後年黒澤監督の遺稿『雨あがる』で監督デビューを果たしています。
小泉監督の30年間が決して無駄でなかったことはその後の小泉監督作品の数々を見れば明らかです。

だからといって「じゃあ、レオンはキューブリックの後継者としてスピルバーグ以上の『A.I.』を作れただろうか?。」と問われると答えに窮してしまうのですがね・・・。

キューブリックとレオンの関係を見ていて、ふと、晩年の黒澤明監督と本多猪四郎監督の関係を思い出しました。
当時”世界のクロサワ”とか”天皇”などと持ち上げられていたうえに現場のスタッフとも大幅な年齢差が生じていた黒澤監督には、気兼ねなく相談できる同世代の相棒として旧友の本多監督を誘ったのだと思います。
また、本多監督は自身も『ゴジラ』などで海外にも有名な存在だったにも関わらず『影武者』から『まあだだよ』までの13年間、親友:黒澤明監督の補佐役に徹して演技指導やリハーサル代行にB班監督などを担当されました。
世間から「完全主義者」(「暴君」とも)と呼ばれる稀代のクリエイターたちは、実は心のどこかで忠実にして信頼できる理解者を欲していたのかも知れません。

今週は2本のキューブリック関係ドキュメンタリーを見たわけですが、こうなると7月にNHK-BS1で放送されたドキュメンタリー『キューブリックが語るキューブリック』を見逃してしまったことが改めて悔やまれます。
NHKのことなのでそのうち再放送してくれるはずだと期待はしているのですが・・・。
連日
『エール』
(居間49インチ4K液晶テレビ:NHK総合)

今週からついに戦争時代へ突入です。

祐一を通じて軍歌の作詞依頼を受けた鉄男。
しかし、戦地に赴く者の心情がどうしても理解出来ず何度も書き直しを命じられる。
すっかり自信喪失した鉄男を裕一は自分たちの原点である福島への帰郷に誘った。

そこで恩師:藤堂先生と再会した鉄男は、藤堂が妻と幼い息子を残して出征するという事実を知り愕然とする。
♪ あゝ あの顔で あの声で手柄頼むと 妻や子がちぎれる程に 振った旗遠い雲間に また浮かぶ
恩師の心情を想って書いた鉄男の詩は無事軍部の了承を得たものの、軍人の解釈は全く違うものでした。
「生きては帰れぬ兵隊の覚悟を表現していて戦意高揚にふさわしい歌だ」
今週の『エール』で、私はこのセリフが一番ショッキングでした。
詩の創作過程を見ていた者としては「どうしてこんな解釈が出来るのか?」と疑問に思いますが、詩だけをよくよく読んでみると確かに「手柄頼む」とか「赤い忠義の血が滲む」とか悲愴感漂うワードが並んでいます。
その詩が望郷の念をそそらせるような歌になったのは古関先生の楽曲の力だったように思います。
そこで残念に思うのは、このドラマで『露營の歌』や『暁に祈る』の作曲前に古関先生が中国大陸へ取材旅行に行った部分が丸ごとカットされていることです。
前線の兵士たちの苦労や望郷の想いを直に見聞きしてきたからこそ、古関先生の軍歌には勇ましさと郷愁が入り混じっていたと思うのです。
そのシークエンスが無いまま見ていると、『露營の歌』や『暁に祈る』の作曲をサクサク進める祐一がただの器用な作曲家にしか見えません。
『エール』は当初の予定から10話分削減されたそうですが、この中国取材の部分もそこに含まれていたのかも知れないと思うと本当に残念です。
(もしかすると、単に後の従軍慰問と被るためカットされたのかも知れないですが・・・)
今週もお付き合いいただきありがとうございました。
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