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映画と日常

映画に見る終戦直後の男性ファッション 【前編】

CATEGORY映画全般
トガジンです。

表題の通りです。
与太話にお付き合いいただけましたら幸いです。

20220310 TOP
今回「終戦直後の男性ファッションチェック」などというおバカ企画を思いついたのには理由があります。
それは・・・

『超大作怪獣映画』エキストラ募集
先日発表された山崎貴監督の新作映画『超大作怪獣映画(仮題)』のエキストラ募集です。
私は「映画やドラマへのエキストラ出演」を趣味の一つにしているので当然応募しておりますが、その募集要項の中に以下の項目があったのです。

「時代背景は昭和20年から22年にかけて」
「全員時代扮装が必要なため制作側で用意した衣装を着ていただく」
「ウエスト90cm以上や高身長の衣装が少ないため、自前で使えそうなシャツやズボンなどがあるか問い合わせさせていただく場合もある」


実は私、恥ずかしながら結構お腹が出てきておりまして、「ウエスト90cm以上」にしっかり該当してしまっているのであります。
そんなわけで、本作品の時代設定である昭和20年以後の男性ファッション・チェック(笑)をしてみることにしました。
昭和20年代のデザインで尚且つサイズが合う服を用意しておき、もし「あなたに合う衣装がありません」とか言われても「では、これならいかがでしょう?」と提案出来るようにしておきたいのです。

闇市摘発(昭和21年)
最初はこのような当時の報道写真を探して見てたんですがが、これらにはどちらかというと子供と女性とあとGHQが写ったものばかり多くて一般男性の服装が分かる写真は案外少なかったです。
そこで戦後を描いた映画をいくつか見て研究することにしました。

これが思った以上に楽しくてついつい10作品以上見てしまったんですが、ちょっと数が多過ぎるため6本に絞り、さらに2週に渡り前後編でアップすることにしました。



『野良犬』
『野良犬』ポスター画像(2)
「戦後の日本を描いた映画」として真っ先に思い浮かんだのがこの『野良犬』でした。

『野良犬』闇市2
『野良犬』は昭和24年公開作品ですが「戦後日本の世相や風俗を生き生きと描いている」と高く評価されている作品です。
特に闇市のシーンのほとんどは、監督デビュー前の本多猪四郎助監督が隠し撮りしたという本物の闇市の映像が使われています。
つまり、ここに映っている人たちの服装は全て昭和23~4年当時の日本人が本当に着ていたものなのです。
モノクロ映画なので色は分かりませんが、シャツ、ズボン、帽子、ベルト、手にした団扇や扇子、あるいは眼鏡の形状など、当時の人たちがどんなものを身に着けていたかがよく分かります。

『野良犬』闇市捜索する三船
最もよく分かるのが盗まれた拳銃の捜索のため三船さん演じる新人刑事が闇市に潜入する場面。
頭にカンカン帽やハンチング帽、それと黒澤監督もよく被っていたバケット帽など帽子を被っている人が多いです。
あと、復員してきた元兵隊さんは一様に旧陸軍の兵隊帽を被っています。

『野良犬』足元のみと全身
全身が映っているショットが意外に少なくてズボンがどんな感じなのか分かり辛かったのですが、時々こうして足元まで映っていることがありました。
奥の二人は膝までのバミューダパンツですかね。
物資が乏しい時代なので、膝が敗れたズボンをこうして再利用しているのかも知れません。

あと、三船さんの足だけが映っているショットがやけに多いですが、実はこの足、三船さんではなく隠し撮りディレクターを務めた本多さんの足だそうです。
なるほど、よく見ると三船さんとは足の長さが・・・いや、失礼しました。

『野良犬』闇市を歩く三船敏郎
もちろん三船敏郎さん本人が映るショットも出てきますが、そちらは撮影所で撮った本編ショットです。
もちろん、撮影所のセットや俳優の扮装も隠し撮りした映像を参考にしているため、そのリアルさは当時の他の映画とは一線を画すものになっています。

『野良犬』一般市民
個々の服装がよく分かるショットがありました。
ベルトのバックル部は現在のものと大差ないようですが、ベルトの材質は革ではなく布製のように見えます。
しかも、左から2番目のメガネの人はベルトではなく紐で縛っています。
この人は普段和装で生活していて、この日はたまたま洋装で外出したもののベルトが無くて浴衣の帯で締めてきたのかも知れません。
こんな1カットだけで各人物の背景まで感じさせてくれるとは・・・流石は黒澤明監督であります!。

『野良犬』じさまシャツ
見た瞬間、「おおっ、昭和だ~。」と思ったのがこのおじいちゃんのファッション!。
なんと言ってもボタン3個のよれよれシャツが味わい深いです。。
子供のころは年寄りがよくこんなシャツを着ていたので、私は「じさまシャツ」と呼んでおりました。

じさまシャツに腹巻とステテコを加えれば日本のオヤジ一丁上がりです!。
このスタイルで日本一有名なのはこの人↓ですね。

「これでいいのだ」
じさまシャツ・腹巻・ステテコの組み合わせは簡単に手に入りそうだしこの時代っぽくていけるかも?。
でも「バカボンのパパみたいで緊迫感に欠ける」とダメ出しされそうな気もします(笑)。

じさまシャツ改め功夫シャツ
余談ですが・・。
ブルース・リーやジャッキー・チェンがあのシャツを着ているのを見てからは、私は「じさまシャツ」と呼ぶのをやめて「功夫(クンフー)シャツ」と呼ぶようになりました(笑)。
ちなみに本当の名称は「ヘンリーネック」というらしいです。



『肉体の門(昭和39年版)』
『肉体の門(1964)』ポスター画像
私が生まれた年の映画です。
『野良犬』と同じく終戦直後の世相や風俗を赤裸々に描いた作品です。
終戦からまだ19年しか経っていないため、スタッフや俳優に当時の記憶が強く残っていてそれがリアルさを醸し出しているのだと思います。

『肉体の門』男性ファッション
『野良犬』との違いは、女性がメインの作品であることと、品行方正な東宝映画と違って(笑)かなりはしたないシーンも出てくることです。
そしてなんといってもカラー作品であること!。
男性の服装が分かるシーンは限られているものの、色が付いていることで時代の空気のようなものが伝わってきます。

『肉体の門』柄物シャツの男たち
意外にカラフルな柄物シャツを着ている人も出てきますが、そのほとんどはどうやら893者のようです。
闇市を牛耳っているのをいいことに良い品物をピンハネしていたのでしょうか?。

『肉体の門』当時のファッション
男性のほとんどは『野良犬』と似たような服装ばかりですが、『肉体の門』では軍隊用のズタ袋やショルダーバッグを持っている人が目立ちます。
それも手に持つのではなく紐で肩から掛けている人が多いです。
これはまだ治安が悪いためしっかりと身に着けていたということでしょうか?。



前編ラストはYouTUBEで見つけた変わり種です。
『JAPAN AND DEMOCRACY(日本と民主主義) 』


こちらは劇場用映画ではありません。
「タイム」「ライフ」といったアメリカの有名雑誌社が共同で作った日本紹介用の短編フィルムで、戦後の日本に民主主義を浸透させていく様子が描かれています。

『JAPAN AND DEMOCRACY』群衆
一応ドキュメンタリーなので、映っているのは俳優ではなく全員一般の人々と思われます。
つまり、『野良犬』の隠し撮りフィルムと同様に作り物ではない当時の人々の生の姿が記録されています。

ただし、アメリカ制作のフィルムのため『野良犬』や『肉体の門』にあった闇市や売春婦などは一切映っていません。
東宝映画以上に品行方正です(笑)。

『JAPAN AND DEMOCRACY』マッカーサー元帥
まずは連合国軍最高司令官総司令:ダグラス・マッカーサー元帥が登場。
場所はおそらくGHQの本部があった皇居前の第一生命館だと思われます。
つい数か月前まで敵国民だった人たちの前に暗殺や報復を恐れず堂々と出てくるのはなんか凄いと思います。

『JAPAN AND DEMOCRACY』マッカーサー見物
マッカーサー元帥着任を遠くから見守る東京の野次馬たち。
当時の日本国民は新しい日本の指導者たるマッカーサー元帥に興味津々だったようで、元帥が赴くところにはいつも人だかりが出来ていたそうです。

男性の服装はほとんどが白いワイシャツに黒のズボンですが、前列に一人だけ和服姿の人がいます。
この頃は終日和装で過ごす男性も多かったかも知れません。
でも和装の場合、怪獣から走って逃げるのに裾をまくってステテコ(あるいはフン●シ)丸出しで走ることになるのでしょうか?。
それはそれで画面で目立って美味しい気もしますけど(笑)。

『JAPAN AND DEMOCRACY』ある家族
こちらはマッカーサーを遠目から見ている家族です。
お父さんは普段着ですがお母さんは和装でキメています。
女性はおそらくモンペや割烹着が多いと思いますが、和服だと走るのは大変でしょうね。
男と違って下着や生足が丸見えになっては困るでしょうから。

『JAPAN AND DEMOCRACY』選挙活動
戦後は、日本でも自由な選挙が行われるようになり各地で立候補者の演説が行われるようになりました。
聞いている人たちの中には女の人も数人います。
女性の参政権が発足したことの証しですね。

気になるのは、男性全員がシャツの裾をきちんとズボンに入れていることです。
これだと、お腹が出ているのを隠せないので困るんですよね~(汗)。
サスペンダーで吊り上げて上着で隠せば良いのですけど、ここまでサスペンダーを使ったスタイルが一切出てきません。
う~む、どうしたものか・・・。

『JAPAN AND DEMOCRACY』眼鏡
この時代の眼鏡は丸い黒縁がほとんどです。
それにしてもこのお父さん、水木しげる先生の漫画に出てきそうな「いかにも昭和の日本人」なお顔ですね。

『JAPAN AND DEMOCRACY』復員兵
後半には復員兵が帰還してくる場面も出てきました。
『超大作怪獣映画(仮題)』の募集には「元軍人」や「復員兵」という役柄もあるのでとても参考になります。
もっとも、今の私みたいにお腹が出ている復員兵なんて絶対あり得ないですが・・・(笑)。




ひとまず【前編】はここまでとします。
【後編】は来週木曜日アップ予定です。

お付き合いいただきありがとうございました。
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COMMENTS

2 Comments

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ゾンビマン  

毎度です。

映画『仁義なき戦い』の出演者たちも、昔の映画等を参考に、戦後のファッションを自分たちで考えて着てたそうです。特にヤクザなファッションは、自分たちが聞いたり考えたりしてやったファッションが、後に映画を通じてひろがったとおっしゃってましたわ。

2022/03/12 (Sat) 23:42 | EDIT | REPLY |   
トガジン

トガジン  

それもまた深作演出の一部だったのかも知れないですね

ゾンビマンさん、コメントありがとうございます。

『仁義なき戦い』の俳優さんたちが自分で衣装を考えていたとは初めて知りました。
時代考証的に多少おかしな部分も出てきそうですが、これも個々のキャラクター性を際立たせようという深作監督の演出だったのかも知れませんね。

2022/03/13 (Sun) 19:57 | EDIT | REPLY |   

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