週刊映画鑑賞記(2022.6/13~2022.6/19)
毎週日曜日はこの一週間に観た映像作品を日記代わりに書き留めています。

今週観たのはこの4本。

今年度も無事開催された「午前十時の映画祭12」。
しかし「午前10時から一日一回限りの上映」という形体がネックとなってなかなか見たい作品に時間が合わず、今年はまだ一度も見に行けていません
そんなわけで今までなかなか機会に恵まれなかった「午前十時の映画祭12」ですが、今回ようやくスクリーンで見たい作品と休日とが合致しました。

それと、日本映画+時代劇4Kチャンネルの『大魔神』三部作連続放送です。
本当は3作品とも先月放送されていますが、一作目の放送中に「緊急地震速報」が入ったため視聴を中断して次の機会を待っていたのです。
今回ようやく邪魔が入らない状態で視聴&BD-R保存することが出来ました。
6/13(月)
『ライト・スタッフ』(午前十時の映画祭)
(劇場:鯖江アレックスシネマ)

大学時代に一度劇場で見て以来です。
日本公開は1984年(本国アメリカでの公開は1983年)。
当時『スター・ウォーズ』シリーズなどファンタジー系宇宙SF映画にやや食傷気味だったこともあり、甘いお菓子の次はピリ辛系のものが食べたくなる感覚で観に行きました。
そのとき見た日本初公開版は実は30分近くもカットされた短縮版であったことはずいぶん後になってから知りました。

その後全長版のLDやDVDが発売されましたが、3時間12分という長さが壁となってなかなか見ることがありませんでした。
一度DVDをレンタルしたことはあったのですが、結局見る時間が取れないまま1週間過ぎてしまって観ないまま返却したことがあり、それ以来全長版『ライト・スタッフ』を観る機会は失っておりました、

それが今回「午前十時の映画祭12」のおかげで映画館のスクリーンで見られることになりました。
初期の「午前十時の映画祭」でも上映されていたはずですが、やはり時間の関係で観には行けませんでした。
38年ぶりの再見ということと、3時間12分の大長編ということでちょっと気を引き締めて見始めたんですが、「あれ?こんなにコメディタッチの映画だったっけ?」と思ったくらいハイテンポで笑えるところが多い映画でした。

その後、数年を経て『アポロ13』(1995年)、『ドリーム』(2016年)、『ファースト・マン』(2018年)、『アポロ11』(2019年)と、近年実録アメリカ宇宙開発ものが続々作られますが、そのルーツとも言えるのがこの『ライトスタッフ』です。

『アポロ13』(「午前十時の映画祭」次回上映作品)には、本作でジョン・グレン飛行士を演じたエド・ハリスさんがジーン・クランツ(フライトディレクター)役を演じています。
そのジーン管制官はマーキュリー計画にもNASAのミッションスタッフとして従事しており、この映画でもコントロールルームに居たはずです。
また、ジョン・グレン飛行士は『ドリーム』にも登場し、優れた資質を持つ女性黒人スタッフに対し素直に信頼を寄せる好人物として描かれていました。
これは自らもマーキュリー7の一員として”ライトスタッフ”となり得たジョン・グレンだからこそ描けたことです。

マーキュリー計画の2番目に飛んだものの脱出ハッチの誤作動で着水に失敗して世間的に評価されなかったガス・グリソム飛行士のエピソードは4年後の彼の運命を知ったうえで見ると心が痛みます。
このときは奥さんを「大統領夫妻に会えないの?」「祝賀パレードも無いの?」とガッカリさせてしまっただけで済みましたが、『ファースト・マン』ではアポロ1号の火災事故のため犠牲になってしまうのです。
皮肉にもその原因の一つはマーキュリー時代の反省からハッチが頑強に作られていたため脱出出来なかったことでした。

このように他のアメリカ宇宙開発映画と連動させて見ると最高に面白い映画でありますが、他に『ライトスタッフ』にしかない独自の視点が存在します。
それは世界で初めて音速の壁を越えたチャック・イエーガー(演:サム・シェパード)をもう一人の主人公としていることす。
チャックはパイロットとして優れた資質を持っていながら「大学卒ではない」というただそれだけの理由でマーキュリー計画から外されます。
しかし、この映画はそのチャックのエピソードをもう一つの話の軸としながら物語を進行します。
有人宇宙飛行とは言っても単に人間を地球周回軌道上に送って安全に帰還させることだけが目標だったため、当初のロケットはパイロットが何かを操作する部分は一切無く名称も飛行機とかロケットではなくポッド(容器)と呼ばれていました。
口の悪いパイロットの中には「あんな仕事はサルにでも出来る」と蔑む者さえいましたが、その男に対しチャック・イェーガーは「サルはあの任務の危険さを理解していない。死を覚悟で任務に挑む彼らは勇敢だ」と称賛します。
なぜマーキュリー7に選ばれなかったチャック・イェーガーを話の軸に置いたのかをこの場面で初めて理解出来ました。
あの7人は自分たちが持つ資質について自ら自慢するような真似はしません。
それはとてもカッコ悪いことだからです。
そしてマスコミがいくら彼ら7人を持ち上げようとも嘘くさいだけです。
それを言葉にすることを許される人物は、彼らと同じ技量と精神(ライトスタッフ)を持ちマーキュリー計画を客観的に見ていたチャック・イェーガーだけなのです。

今回一番印象に残ったのは家族との物語でした。
例えばグレンの打ち上げ時。
聾唖者であるグレン夫人にマスコミが殺到し、しかも副大統領が(人気取りのため)会いたいと接近してきますが、グレンが電話で「副大統領だろうが誰だろうが君の思うとおりにすればいい」と言い切るところは最高に痛快でした。

マスコミと言えば・・・。
この映画に登場するマスコミ連中は、報道関係者というよりただのマナー知らずなパパラッチといった感じでまさに今で言う「マスゴミ」そのものです。
(私もローカルとはいえその一員であることが恥ずかしくなるくらいです・・・)
そのマスコミ共が画面に登場するときには何故かシャカシャカシャカシャカと何か落ち着きの無い不快な音が常に流れます。
実に不愉快な連中であると同時に、その変な音のおかげでどこか漫画チックにも見えました。
6/14(火)
『大魔神』(ピュア4K)
(ホームシアター:日本映画+時代劇4Kチャンネル)

幼い頃テレビ放映で見たのが最初ですが、その後何度も夢に出てくるほど怖かったです。
その夢とは、家の軒先に隠れて上を見上げると緑色の顔の巨人が頭上から自分をじーっと睨みつけているという夢です。
体調が悪い時とか、親に嘘をついたり友達に酷いことを言ってしまったり心に疚しいことがあるときよくこの夢を見たものです。
初めて映画館のスクリーンで観たのは大学に入ってからでした。
劇場は今は亡き大阪梅田東映会館(の中のどれか)。
多分、同じ年に開催された東宝の「ゴジラ復活フェスティバル」の成功に刺激を受けて『大魔神』3部作を連続上映したのではないかと思います。

本編の人間ドラマと巨大クリーチャーが共存する特撮映画としては、東宝の円谷特撮作品をも凌ぐ完成度を持っているとさえ思っています。
それを支えたのは本編と特撮の両方の撮影を一人で手掛けた森田富士郎さんと美術の内藤昭さんの力が大きいと私は確信しています。
東宝特撮の場合は本編のカメラマン(主に小泉一さん)と特撮班のカメラマン(有川貞昌さん富岡素敬さん)と分かれていますが、いかに綿密に打ち合わせしていたとしても、映像の空気感に不一致が生じます。
それが『大魔神』三部作ではほとんど感じることが無いのです。

また、『大魔神』シリーズでは魔神の大きさを4.5メートル(人間の約2.5倍)に設定し、それに合わせてミニチュアも2.5分の1で作り撮影スピードも2.5倍としたことで、特撮映像のリアリティを高めています。
「大魔神の大きさを的確に表現出来て、かつ力強くリアルに動いて見えるのはこのくらいが限度だ」と、その縮尺を決めたのも森田撮影監督でした。

また、本編と同じく特撮場面にも同じようにスモークを焚いて空気感を統一したり、ズームを使わずフィックス(カメラ固定)で撮影することでミニチュアが安っぽく見えないようにも腐心したそうです。
その全ての成果が映画『大魔神』の本編と特撮の完璧に近い融合を生んだのです。
それは今回の4K修復版で見返しても色褪せることは全くありませんでした。

『大魔神』に関して私がこれほど森田富士郎撮影監督と内藤昭美術監督を持ち上げているのにはもう一つ理由があります。
実は・・・。
森田さんと内藤さんはお二人とも私の大学(大阪芸術大学映像科)時代の恩師なのです。
私は森田先生や宮川一夫(黒澤映画や溝口映画を支えた名キャメラマン)先生の映画撮影の授業が一番楽しみでした。
森田先生と内藤先生は映像科の教室の一つに段ボール紙で作った2.5分の1の簡単なミニチュアセットを用意されていて、そこに生徒を歩かせたりお互いに撮影させたりしてかつてご自分が作り上げた『大魔神』の撮影トリックの数々を教えてくださいました。
また、段ボールセットの一部は奥と手前とで尺度を変えてあるものもあって、カメラ側から見て手前に居る者は普通に見えますが奥のほうに立つ人間は巨人に見えるという合成無しで大魔神と人間を画面に収めた種明かしをしてくれました。
また、それを逆方向から撮影すると手前の人物は巨人になり奥の人物は小人に見えますが、これは2001年公開の『ロード・オブ・ザ・リング』でホビット(小人族)の表現にも使われた技法です。
また、森田先生は当時撮影を担当していた『極道の妻たち』の撮影現場の見学に連れて行ってくれたこともありました。
私はヤクザ映画は大嫌いなので『極妻』シリーズは今だに一本も見ていません(汗)が、大の大人たちが1カット1カットに真剣に取り組む姿と、撮影前に照明や音声など各部署から「本番!」「本番!」「本番!」と声がかかったときの緊張感は今でも思い出すたび身が引き締まります。
後に森田先生が「そりゃ全部のカット毎に緊張してるよ。もし自分のミスで撮り直しにでもなったら監督や役者さんだけでなく他のスタッフ全員に申し訳ないからね。」と笑いながら言っていたことも忘れられません。
「この大学に入って本当に良かった」と心の底から思いました。
森田先生の授業は一生忘れることは無いでしょう。

4Kの高画質により、今まで何度も見た『大魔神』の中でも今回の高田美和さん(小笹)が一番美しく可愛いです。
彼女が登場する全てのカットに撮影者(森田先生)の愛を感じます(笑)。
あと、今回4Kリマスターの高画質により今回初めて気付いたことがありました。
・・・いや、別にたいしたことではないのですが(笑)。

川の水で髪を洗っている小笹のすぐ近くに野生の猿が映っていたのです。
それも2匹!。
なんか普通にウロウロ動き回っています。

野生の猿がいることに気づかないまま撮影したのでしょうか?。
あるいは、当初「野生の動物たちと育った小笹は動物と心を通わせることが出来る」とかいう設定があってあえて猿を配置したのでしょうか?。
(ちなみに次に同じアングルが出た時には猿は2匹ともいなくなっています)
謎であります。
森田先生がご健在のうちに訊いてみたかったなあ。
※2作目『怒る』と3作目『逆襲』については昨年暮れに日テレ4Kで観たときの感想記事を一部改訂して再録しています。
6/16(木)
『大魔神怒る』(ピュア4K)
(ホームシアター:日本映画+時代劇4K)

前作公開からわずか4ヶ月で作られたとはとても思えないハイクオリティです。
「ストーリーが前作の焼き直し」と揶揄する声もありますが、山が湖に変わったことで画的にも大きく変化しています。
『十戒』を思わせる海割れシーンやより広範囲に作られたミニチュアセットなど、前作より確実にグレードアップしています。

大映映画の場合、レストアが上手い以前にフィルムの保存状態が良いのでしょう。
オープンロケの青空も緑も人肌もとても色鮮やかで、4Kリマスターの威力が最大限発揮出来ている気がします

セット撮影部分も全体的に暗部のデティールが克明になって、神の島の石像前の空間が今までになく広く感じられました。
それでいて画面全体のバランスは崩れていません。
難があるとすれば、時々岩石が明らかに作り物に見えてしまうことくらいです。

「ゴジラ」や「ガメラ」に比べるとミニチュアや特撮セットが大きめに作られていることと、デティールや奥行き感の見せ方の上手さからまるで実景かと騙されそうになる部分も多々あります。
画面の端っこに小さく映るだけの瓦の汚しにも手抜きがありません。
ところで、最後にお国自慢を一つ。

実は、神の島の実景部分は我が福井県で撮影されているのですよ。
千草十郎(本郷功次郎さん)と部下の隼人(平泉成さん)が小舟で出ていくこのシーンなどがそうです。

場所は小浜市北東部の内外海(うちとみ)半島の北側にある蘇洞門(そとも)という県内屈指の景勝地です。
映画ではこの写真中央の柱の間から小舟が出ていきました。

二人が敵兵に追われるのを早百合(藤村志保さん)と下男のどど平が柱の陰から心配そうに見守るシーン。
この場面も同じ蘇洞門で撮っていることがお分かりいただけると思います。

そして、実はタイトルバックの岩も蘇洞門の岸壁です。
これが福井ロケである事実を知ってからというもの、一作目と同じかそれ以上に『大魔神怒る』が好きになりました。
6/17(金)
『大魔神逆襲』(ピュア4K)
(ホームシアター:日本映画+時代劇4K)

前二作は荒神を封じるハニワ顔の武神像に悪人どもが悪さをしたことがキッカケで大魔神が出現するという共通のパターンがありましたが、今作だけ武神像は破壊を受けることなく純真な少年の願いに応えて大魔神が出現します。
でも、それだと『大魔神逆襲』というタイトルは内容と合っていないような?。

前2作はどちらも「乙女の涙を受けて大魔神が悪行の限りを尽くす領主を成敗する」という同じパターンのお話でしたが、3作目では乙女を少年に変更することでマンネリ化を防いでいます。
ただ、ヒロインが不在という点において少々画面に華が無いことは否めません。

合成技術は前二作に比べて大幅に進歩しています。
この場面など、背景で動く魔神(着ぐるみ)と手前の人物との一体感が完璧で、まるで同じ空間に存在している両者をそのまま撮影したかのように自然です。
両者のサイズ、照明の統一感、そして俳優さんたちの的確なリアクション演技。
これらが完璧に融合されていることが分かります。
ただ・・・。

実は私、この『大魔神逆襲』は子供が死ぬ場面があるため、前2作と違って見終わってもカタルシスを感じることがありません。
そのため見返す機会も少ないです。
たとえ「ご都合主義」などと誹られようとも、友達を救うため犠牲になった金太にも奇跡を起こしてあげて欲しかったです。
<(_ _)>
今週もお付き合いいただきありがとうございました。