『宇宙戦艦ヤマト』第一作 私的全話見どころ紹介(第1話~第6話+劇場版)

今月は、TVアニメ『宇宙戦艦ヤマト』に関する記事を毎週木曜日にアップすることにしております。
先週は小学四年生のときに初めて『宇宙戦艦ヤマト』と出会ったときの様々な思い出話を書かせていただきました。
今回からは全26話のエピソード(と劇場版)について、中学時代に再放送で再見したときからごく最近までに感じた自分なりの『ヤマト』観を盛り込んだ解析を数週間に分けて書いていきます。
先週の記事では「3週に分ける」と書きましたが、ある程度書き進めたところあまりにも長くなってしまったため4~5週に増やすことになりました(汗)。
11月中旬まで『ヤマト』の話が続くことになりますが、好きな方にだけ楽しんでいただければそれで良しと考えております。
【先に劇場版の話から】

時間軸は前後しますが、TVシリーズ各話について語る前に1977年公開の劇場版について先に触れておきます。

『宇宙戦艦ヤマト』初回放送の視聴率は惨敗を喫したものの、その内容の濃さに魅了された若者たちがファンクラブを立ち上げたり各地の放送局に再放送の要望書が提出されるなどして徐々に人気が高まっていきました。
その機運を受けて西崎プロデューサーはTVアニメ全26話を2時間強に再編集して劇場公開することを企画。
監督には劇映画の有名監督でありTVアニメ版でも監修を務めた舛田利雄監督を起用し、TV版の監督を務めた松本零士先生は設定・デザインという肩書に降格させられました。
映画興行界においては、漫画家の松本先生より映画監督としての実績が豊富な舛田氏の名前が優先されたのでしょう。
この劇場映画化は西崎氏にとって大バクチでしたが、全国のヤマトファンの献身的な協力もあって興行的に大成功しました。
東京や大阪では公開初日に劇場周辺に行列が出来るほどの大ヒット!。
この頃はまだ作品に対して純粋な情熱を保持していた西崎氏は「プロデューサー冥利に尽きる!」と男泣きしたそうです。

福井では東京・大阪など都市部から遅れること約1ヶ月、同年9月10日から公開が始まりました。
当初、福井の映画興行主はTV用のアニメ番組を再編集しただけの粗雑なマンガ映画に客が入るわけないと踏んで、夏休みの上映プログラムには含めなかったようです。
ところが、フタを開けてみたら東京や大阪など都市部では空前の大ヒット!。
慌てて上映契約を取り付けたものの結局公開が始まったのは時すでに遅く新学期が始まったあとでした。
当時のヤマト人気を読み切れず、せっかくの集客チャンスを逃してしまった形になりました。
私は2週目の日曜日に部活(陸上部)をサボって同じアニメ・特撮好きのクラスメートT君と二人で20キロ以上離れた福井市まで自転車を漕いで観に行きました。
日曜日ということもあって劇場内は私たちと同じ中高生でいっぱいでしたが、運よく中央部あたりに二つ並んだ席を確保することが出来ました。
しかし・・・。
そこまでして見に行った『宇宙戦艦ヤマト』の劇場版でしたが、私もT君も見終わったあと無言で映画館を出ました。
はっきり言ってガッカリでした。
だって本当にTVアニメのダイジェストでしかなかったからです。

違っていたのはラストシーンだけで、ヤマトがイスカンダルにたどり着いた時にはスターシアは既に死んでいてイスカンダルは無人の星と化していたという新しいオチがついていました。
そこからラストまでは新作映像でしたが、あとは全てTVアニメの再利用です。
ヤマトを出迎えたのはスターシアが生前に録画したホログラムだったという設定がSF的うすら寒さを感じさせてくれましたが、どちらかといえば「事務的に話を終わらせた」みたいな印象が強かったです。
最初は2回続けて見るつもりでしたが、同時上映の自然動物ものが凄まじく退屈だったこともありさっさと劇場を出てしまいました。
劇場版は沖田艦長を軸に構成していましたが、冒頭で沖田の死んだ息子に関する話も彼の家族写真もカットされたためラストの臨終シーンに全然気持ちが入りません。
また、全体のストーリーを駆け足で追っているため、古代はその場の雰囲気に流されるだけの情緒不安定な奴に見えてしまい、勝った後には「俺たちは愛し合うべきだった」と綺麗ごとを口にする偽善者みたいになってました。
島はただの真面目でいい奴でしかなく、アナライザーはスカートめくりもしないただのロボットに成り下がり、森雪はただのマスコットガールと化していました。
正直言って、みんなどうしてあんな映画を喜んでいるのか私には理解出来ませんでした。
唯一良かったところがあったとすれば、あのヤマトの画を映画館の大スクリーンで見られたという一点のみです。
私は断言します。
『宇宙戦艦ヤマト』(第1作)はTVシリーズ全26話が基本です。
TVシリーズ版を見ていない奴に『宇宙戦艦ヤマト』を語る資格はありません。
第1話「SOS地球!!甦れ宇宙戦艦ヤマト」

あまりにも有名な第1話のこのラストシーン。
それまで誰も見たことがなかったこの画のインパクトに、今も私のSFアニメ愛&オタク魂は鷲掴みされっ放しです。
【二つの世代】

小学生の頃には思いもよらなかったことが、大人になると色々と見えてくるものが多々あります。
大学生になって改めて見返したとき、本作のスタッフには戦前教育派と戦後教育派が入り混じっていて、作品の随所で互いの主張がぶつかり合っていることが見えてきました。
最初にそのことが分かるのは、第1話冒頭で撤退命令に反抗する古代守と彼を説得する沖田十三の会話です。

古代「男なら戦って戦って一つでも多くの敵をやっつけて死ぬべきではないんですか!?。」
若いくせにまるで旧・日本軍人みたいなことを言う古代守には、戦前・戦中の軍国教育を受けて育った舛田利雄氏や西崎プロデューサーの古い美学が反映されているように見えます。

沖田「明日のために今日の屈辱に耐えるんだ。それが男だ! 。」
逆に、老練な沖田艦長のこのセリフは松本零士先生(監督)がいつも大切にしておられる信念そのものであり、元軍人だった松本先生のお父さんが実際に言っておられた言葉そのままであるそうです。
昭和49年制作のTVアニメ『宇宙戦艦ヤマト』の奥底には、こうした戦前派と戦後派の二つの世代の主張がせめぎ合っているのです。
そして、この世代間の軋轢は次の第2話で明確な形となって現れます。
【放射能の恐怖】

西暦2199年、地球はガミラスの遊星爆弾攻撃によりその全土を放射能で汚染させられ、人類は地下都市に逃げ延びてただ死を待つのみとなっていた。
これが『宇宙戦艦ヤマト』のストーリーの出発点です。
私は『宇宙戦艦ヤマト』が注目されるまでは日本人のほとんどは「放射能汚染」の恐ろしさを忘れていたのではないかと考えています。
1945年8月、広島と長崎に原子爆弾が落とされ、両市の住民の中には今でも被爆による後遺症に苦しみ続けている方が大勢いらっしゃいます。
映画の世界では、核の恐怖を具現化したものとして1954年に日本最初の怪獣映画『ゴジラ』が作られ、その後も原水爆による放射能の影響という設定を元に様々な怪獣や怪奇現象が描かれました。
しかし、その数があまりにも増え過ぎたためか、逆に「原子力や放射能ってかなりヤバイもの」という印象が日本人の意識から薄れてしまったように思うのです。
そして、1970年。
日本で2基の原子力発電所が運転を開始します。

1970年といえば日本中が様々な公害問題に悩まされていた時期であったと同時に、大阪では「人類の進歩と調和」をスローガンに掲げた日本万国博覧会が開催された年でもあります。

そして、その大阪万博会場に膨大な電力エネルギーを送り込んでいたのは、ほかならぬ福井の美浜原子力発電所(関西電力)でした。
3.11以後は「究極の公害」とまで呼ばれることになる原発ですが、70年代初頭には放射能漏れやメルトダウンなどといった危険要素は一切語られずあくまで明るい未来の象徴として扱われていたのです。

そんな平和ボケならぬ放射能ボケしていた日本人の眼前に、突然「放射能の恐ろしさ」をストレートに突き付けてきたのが『宇宙戦艦ヤマト』でした。
一度放射能に汚染されたら人間の力ではもうどうすることも出来ず、遥かに進んだ科学力を持つ異星のオーバーテクノロジーにすがるしか方法がない恐ろしいものとして描いてみせたことで初代『ゴジラ』並みのインパクトを与えました。
【最初の松本アニメ】

松本零士先生は昔からアニメには強い興味を持っておられたそうです。
それで『ヤマト』の企画に誘われたときには「他人のカネでアニメが作れる!」と二つ返事で引き受けたと、何かの記事でご本人が語っておられました(笑)。

その張り切りようは、第1話をはじめとして全26話中7話において松本零士先生ご自身が絵コンテを切っていることからもうかがい知れます。
ただし、松本先生の初版コンテはカットの割り方が漫画的でおかしな部分があったり、時間の計算が出来ていなかったりしていたため原画作業に移る前に大幅な手直しが必要だったそうです。

その松本先生を補佐してコンテの修正や加筆などを行ったのが現場ディレクターの石黒昇さんです。
『ヤマト』の絵コンテ担当者が松本零士/石黒昇の連名になっている回が多いのはそのためです。

また、松本先生は女性キャラの一部の原画を自分で描いています。
基本的には動きのない一枚絵ばかりですが、それでもその神秘的な絵柄が「この番組は今までに無い全く新しいものだ」と思わせてくれるのに十分でした。

第1話の作画監督を担当した芦田豊雄さんが描いた森雪も松本タッチの影響を強く受けていて、森雪の登場シーンでは松本キャラの神秘的な雰囲気を壊さないよう細心の注意を払って描いていることが分かります。

主人公の古代進も松本先生の漫画版や劇場版『銀河鉄道999』の星野鉄郎みたいなもっさりした感じに描かれています。
古代はその後、各話ごとに見た目も性格も激しく変化していきます(笑)が、1話では(兄の死の直後ということもあってか)かなり大人しいイメージです。

しかし、松本先生のオリジナルデザインをリファインしてアニメ用の設定書にまとめたのは芦田豊雄さんではありません。
『ヤマト』本編で16話、19話、25話の作画監督を担当された岡迫亘弘さんです。
当然ながら第1話は岡迫さんが担当する予定でしたが、石黒氏の著書によると作画作業に入る直前になって岡迫さんは胃潰瘍で入院することになってしまいました。
そこで、虫プロから移籍してきたばかりの芦田さんが急遽1話を担当することになったのです。
もし、予定通りアニメ用キャラ設定を決めた岡迫さんが第1話の作画監督を担当されていたとしたら・・・?。
私は、現在の『宇宙戦艦ヤマト』のイメージとは随分違うモノになっていただろうと想像しています。
岡迫さんは当然自分が決めたキャラクター設定書に沿って描くはずで、芦田さんのように松本先生の絵柄に寄せることはしないはずです。
(それは復帰後の岡迫さんが作画監督を手掛けた16話/19話/25話を見れば明らかです。)
しかし、それでは『宇宙戦艦ヤマト』というアニメに松本零士という特異な絵柄を持つ漫画家を起用した意味がありません。
もちろん、私は岡迫さんのカッチリした絵柄も好きですが、第1話で松本零士先生の絵のタッチを尊重した芦田豊雄さんの判断と仕事は正しかったと思っています。
第2話「号砲一発!!宇宙戦艦ヤマト始動!!」


第2話のポイントは、生きては帰らぬ覚悟で最後の出撃をした旧・戦艦大和と、必ず生きて帰って来ることを至上目的とする新生・宇宙戦艦ヤマトとの対比です。
【アナライザー】

第2話は冒頭からいきなり男子大喜びのサービスシーン!。
アナライザー最初のスカートめくりですが、森雪のパンツがおばちゃんパンツなのが残念です。
それでも、現在ではこんなセクハラシーンは絶対作れませんね。
第1話では思いっきりSFしているうえに綺麗な女の子もいっぱい出して男の子のハートをガッチリ掴み、続く第2話ではいきなりお色気シーンを見せることで掴んだ手を離さない。
実に見事なシリーズ構成です(笑)。

第2話の作画監督は白土武さん。
硬質な線でキャラクターを描く方で、昔は『タイガーマスク』などを手掛けていて『ヤマト』の前後には『ゲッターロボ』『グレートマジンガー』にも参加していました。
そのためか、この人が作画監督の回の古代は顔つきが険しくて松本キャラのイメージからはやや遠ざかっています。
最初の数本ではまだ岡迫亘弘さんが作ったキャラクター設定書に寄せて描いていますが、10話あたりからはまるで開き直ったかのように自分の絵柄に引き寄せて描くようになります。
【戦艦大和と軍艦マーチ】

第2話で避けて通れないのは、太平洋戦争末期の天号作戦における戦艦大和の戦闘と沈没までを描いたシーンです。
かつての戦艦大和の最後の出撃は片道分の燃料しか積まず(実は往復分あったという説も有り)生きて帰らぬことを覚悟の海上特攻でした。
その旧・戦艦大和と、「絶対に生きて帰って来る」を至上目的として蘇った宇宙戦艦ヤマトとを対比させる重要なシーンです。

古参のヤマトファンには有名な話ですが、本放送時にテレビ局に納品された第2話のこの場面にはBGMとして「軍艦マーチ」が使われていました。
『ヤマト』が「戦争賛美だ」と批判されないよう細心の注意を払っていた松本零士監督は断固反対していましたが、ダビング時に西崎プロデューサーが勝手に決めてしまったのだそうです。
納品後にこのことを知った松本先生は大激怒しましたが、もうフィルムを回収して再ミキシングする時間などありません。
そこで、宮川先生の楽曲テープだけを別に納品し、放送時にその場面のBGMをそのテープに差し替えて放送してもらうよう依頼したのです。
TV局側も「終戦からまだ29年しか経っていないというのに戦艦大和のBGMとして軍艦マーチはマズい」と考えたらしくこのアクロバットな放送を実行しました。
そのおかげでキー局はもちろん、その電波を受けて同時刻に放送していた地方局でも軍艦マーチが鳴ることはありませんでした。
私もリアルタイム放送で見ていたので軍艦マーチは聴いていないはずですが、残念ながらそこまでの記憶は残っていません。
ただし、これは日曜午後7時半からのキー局同時放送での話であって、数日から週遅れで放映していたローカル局にまでは手が回りませんでした。
そのため、一部の地方では初回放送で軍艦マーチが盛大に鳴り響いていたところがあったそうです。
また、再放送には差し替え前のフィルム(もしくはテレシネ後のビデオテープ)がそのまま使われることも多かったため、再放送ではこの場面で軍艦マーチが勇ましく流れておりました。
ちなみに、今回視聴したBD-BOXに収録されている第2話は宮川先生の曲に差し替えた修正済みバージョンです。

しかし、戦前生まれの舛田利雄監督がTVアニメを再編集した劇場版では、この場面で再び軍艦マーチが使われていました。
舛田監督は昭和2年生まれ。
つまり、かつて戦艦大和が海に沈んだ昭和20年には古代進と同じ18歳の血気盛んな少年だったのです。
『宇宙戦艦ヤマト』の仕事を引き受けた理由も「太平洋戦争の精神的リベンジ」と捉えたからだそうです。
そういう年代の人に主導権を握られてしまったら、「日本海軍バンザイ」「お国のためなら特攻もやむなし」に向かってしまうのも致し方ないことかも知れません。
第3話「ヤマト発進!!29万6千光年への挑戦!!」

第3話の見せ場はなんといっても終盤のヤマト発進シーンですが、実はそこに至るまでに古代の沖田に対する確執や島や森雪の家族への想い、そしてヤマトを送り出す地球の人々の声援や罵倒など、ヤマト計画に関わる大勢の人たちの心情が伺い知れるシーンがいっぱい詰まっています。
ここを飛ばし見してしまうと、最悪の場合あの有名な最終回の名シーンに全く感動出来ないという勿体ないことにもまりかねません。
【人たち】


壮行パレードのシーンでは見送りに来た島の弟や雪の両親が登場するなど、主要キャラクターの背景を感じさせる描写がありました。
劇場版ではこれらのシーンがカットされたため、島も雪もそれぞれただの乗り組み員の一人でしかなくなってしまいました。
天涯孤独の沖田艦長と古代進にばかりスポットを当てても、地球に残してきた家族を想う人間ドラマは描けません。

またパレード中に「お前らだけ逃げるのか!」と野次を飛ばす者もいて、この辺に松本先生らしさが表れています。
よく見ると、この一般市民の絵は松本先生ご自身が描いているようです。
松本先生はヤマトの航海そのものだけでなく、地球人類のヤマトに対する期待や不安感も盛り込もうとしておられました。
【最終回への伏線】

着任した古代はヤマト艦内を案内される途中、沖田艦長と付き合いが長いという徳川機関長に「沖田艦長とはどういう人物なのか」「自分の兄も救えなかった人が地球を救えるのか」と不信感を露わにします。
第1話で沖田の制止を振り切って敵に突っ込んでいった古代守は主人公:古代進の実の兄でした。
1話と3話では、古代進は沖田に対してわだかまりを抱いていることがはっきり描写されています。
この古代進の精神的成長がTVシリーズの一つの軸になっていますが、実はそれだけでなくここからさらに最終回の沖田の臨終場面にまで一本の線で繋がっているのです。

そして出航直前。
艦長室を訪ねた古代は、偶然沖田の家族写真を見てしまいます。
これは最終回で沖田が息を引き取る直前に涙を流しながら見ていたあの写真です。
TVシリーズ版ではこうした細かな描写を積み重ねていくことで、最終回に向けて一本の筋道を通していたのです。
それなのに、せっかく映画化されたときにはその軸となるストーリーラインを何一つ生かすことが出来ないまま終わっていました。
劇場版でもここでこの写真を伏線として見せておけば、ラストの沖田臨終シーンで3倍は泣けたはずだと思うのですがね。
【失われた松本コンテ】

1話と2話では、松本零士監督が自ら描いた絵コンテそのままでは使い物にならないため現場ディレクターの石黒昇さんが加筆・補正しながら作業を進めていました。
連載漫画の仕事も抱えている松本先生の絵コンテはどうしても遅れがちになり、しかもそれを更に修正しながら作業していたのでは確実に放送に間に合わなくなります。
そう判断した石黒さんは、3話のコンテは修正を加えるのではなく、出来るだけ松本先生の直筆コンテに近いカット構成になるように自分で一から描き起こすことにしたそうです。
石黒さんは以前から「絵コンテを切るのが早い」と評判の名ディレクターで、本当にそのほうが作業が早かったそうです。
ところが、3話の決定稿コンテを描き終わった石黒さんは松本先生の絵コンテ原本をさっさと捨ててしまったそうです。
描き直しは仕方ないとしても、松本先生直筆の絵コンテを捨ててしまうなんて!。
後のヤマトブームの折、「松本零士直筆『宇宙戦艦ヤマト』絵コンテ集」として出版したらさぞ売れただろうと思うのですがね。
石黒さんも著書の中で「勿体ないことをした」と後悔しておられました(笑)。
【芦田作画の変化】

作画監督は第1話と同じ芦田豊雄さんですが、1話のときとはずいぶん絵柄が変化しています。
古代は血の気が多い感じになって1話のときの線の細さは無くなりました。

森雪も松本先生寄りのタッチから芦田さん自身の絵柄に変化していて、1話の儚げな雰囲気から意志の強い女性というイメージになっています。

この変化の理由はおそらく絵コンテにあると思っています。
1話では松本零士先生自らが描いた絵コンテを元に作画していたのに対し、3話のコンテは石黒昇ディレクターが一から書き直したものなので、芦田さんは松本先生のタッチを気にせずに済んだのだろうと思っています。
第4話「驚異の世界!!光を飛び越えたヤマト」

この回は人類が初めて経験するワープ航法の話です。
ヤマト発進までだけでも今まで見たことないSF感が満載だったのに、この回では更に高次元な世界を見せてくれました。

この回の絵コンテ担当者は後に『機動戦士ガンダム』を産み出すあの富野喜幸(現:由悠季)さんでした。
コンテの絵柄が他とはまるで違って劇画調になっています。
しかも森雪の髪型がボブカットで、まるで『ガンダム』のセイラか『イデオン』のシェリルみたいです。
富野さんはこの脚本にかなりの不満を持ったため、ほとんどの場面を自分なりの解釈で書き変えてしまったそうです。
それに怒った西崎プロデューサーがそのコンテを再び石黒さんに描き直させたため、富野氏の直筆コンテはごく一部しか残っていないみたいです。
西崎氏は自分が初めてプロデュースした『海のトリトン』の監督だったことから富野氏を起用したのだと思いますが、この件以後西崎氏と富野監督はお互いに距離を置くようになりました。
まあ、西崎氏のその後の所業を考えると、富野監督は『トリトン』の時点で既に彼の正体を見抜いていたのかも知れません。
【あの有名シーンの謎】

ワープシーンの途中、雪が徐々にヌードになっていく有名なカットがあります。
これには石黒昇ディレクターがジョークで紛れ込ませたという説と、松本先生が自ら指示したという二つの説があるようです。
しかし、石黒さんは既に鬼籍に入られており、松本先生も著作権の関係でヤマトについて語ることはなくなっているため、今はもう真実を確かめる方法はありません。
昭和52年夏に公開されたTVアニメを再編集した劇場版ではこの森雪ヌードは綺麗さっぱりカットされていました。
当時中学一年だった私と一緒に見に行った友人T君はお互いガッカリしたと同時に大いに憤慨したものでした。
やっぱり『宇宙戦艦ヤマト』はTV版が基本です(笑)。
第5話「浮遊大陸脱出!!危機を呼ぶ波動砲!!」

5話目にして早くもスケジュールが苦しくなってきたらしく、この回はやけに撮影ミスが目立ちます。

まず前半パートの戦闘機戦ではコクピット内で照準器を見る敵パイロットと計器類のセル画が前後逆になっています。

また、最大の見せ場である波動砲発射シーンでもヤマトの向きと波動砲の光の向きを間違えて撮影していて、ヤマトの眼前を波動砲の光が駆け抜けていくというおかしな画になってしまっています。

石黒昇さんの著書によると、ヤマトのスケジュールの遅れ方は尋常ではなかったらしいです。
その原因は西崎プロデューサーにありました。
何かにつけてメインスタッフを招集して会議ばかり開くため、そのたびに石黒さんたち現場スタッフの作業がストップさせられたためとのことでした。
あまりのスケジュールの遅れからアフレコ時にはほとんど絵が出来ておらず、声優さんたちはかなり早い段階からセリフのタイミングを示す線だけを見て演技させられていたそうです。
【ヤマト効果音の秘密】

ところが、映像制作がそんな状況でありながらも、効果音だけはどの回のどのシーンでも画とタイミングがぴったり合っています。
ダビング時にもまだ映像が出来ていなかったというのに、どうしてそんな芸当が可能だったのでしょうか?。

その秘密はアシスタント・ディレクターの棚橋一徳さんと効果音担当の柏原満さんとの連携プレーにありました。
まず棚橋さんが作画前のタイミングシートを元に効果音が入る全てのポイントを算出して、そのデータを真っ先に柏原さんに伝えていたのだそうです。

柏原さんはそのデータを元に早くから効果音の準備を始めていたため、最終的に映像と効果音の音声トラックを合わせたときに全ての効果音と映像のタイミングがぴったり合ったというわけです。

また、波動砲発射シーンは全話通じて効果音と状況報告のセリフのみで構成されていてBGMは一切入りません。
宇宙そのものを破壊しかねない威力を持つ波動砲を撃つ前の緊張感を、細かな効果音を丁寧につみ重ねていく音の演出によって表現していました。
これも音響効果担当の柏原満さんの素晴らしい仕事です。
第6話「氷原に眠る宇宙駆逐艦ゆきかぜ!」

波動エンジンの修理に必要な特殊金属コスモナイトを採掘するため土星の衛星タイタンに立ち寄ったヤマト。

コスモナイト捜索のためタイタンに降下する古代と雪、そしてアナライザー。
アナライザーは第2話のスカートめくりに続き、今回も雪のお尻をお触りするというセクハラ大王ぶりを発揮します。
これも今では絶対放送不可ですね。

実はこの回から絵コンテマンとして『ガンダム』の安彦良和さんが参加されています。
アニメーターは画コンテの絵柄に影響を受けることが多いですが、『ヤマト』にはシリーズ全体の絵柄を統一する総作画監督が存在しないためその傾向が顕著です。
5話までの森雪は少し神秘的で尚かつ仕事出来る系の女性キャラでしたが、安彦さんのコンテではお尻を触られてムッとしている可愛らしい表情が加味されていて、その影響が本編映像にも表れています。
【簡易宇宙服】

ヤマト乗組員の制服はヘルメットのバイザーを閉じて専用の手袋とブーツを加えるだけでそのまま簡易宇宙服にもなる最新仕様になっているようです。
でも、首のあたりの素肌が露出してますけど・・・(笑)。
【ツバクカンサルマの人】

この回は古代が兄の死を再確認したことと同時に、生身のガミラス人と初めて直接接触する重要な回でもあります。
後の第13話では生きたガミラス兵を捕獲して調査することになりますが、どうしてこの時にガミラス兵の遺体や装備品をヤマトに持ち帰って調べなかったのでしょうか?。
そういえばこのガミラス兵も目元にバイザーをしているだけで顔はむき出しです。
土星の衛星タイタンって地球と同じ大気なのか?。
第6話は何度見返しても突っ込みどころが満載です(笑)。
今回は劇場版の話も含めて第6話まで書きましたが、今回はここでひと区切りといたします。
お付き合いいただきありがとうございました。