『宇宙戦艦ヤマト』第一作 私的全話見どころ紹介(第7話~第13話)

『宇宙戦艦ヤマト』TVシリーズ第一作の全話見どころ紹介記事第2弾。
今回は冥王星基地攻略の第7話からシリーズ折り返し点の第13話までです。
紹介と言ってもストーリーにはほとんど触れていませんし、レビューと呼べるほど大層なものでもありません。
小中学生の頃から今まで私が何度も見て感じたり自分なりに調べたことを書き記しているだけです。
そのため、記憶違いや思い込みによる間違いが含まれている可能性がありますことを予めご了承願います。
第7話の内容に入る前に、第1話の項で書き忘れていた大事な話に触れておきます。
【ヤマト名物「ヒトデ爆発」】

『宇宙戦艦ヤマト』特有の宇宙空間での爆発エフェクトアニメーションについてです。
初の本格的宇宙アニメとして制作された『宇宙戦艦ヤマト』では、無重力の宇宙空間における爆発エフェクトをどう描くかが作品のリアリティを大きく左右することになります。
そこでアニメ制作現場を指揮する石黒昇ディレクターは「無重力空間における爆発」の表現方法を独自に研究し、<ヤマト名物>とも言える四方八方に爆炎が広がるあの通称「ヒトデ爆発」を編み出しました。

石黒昇さんはSF好きで仕事が早い現場ディレクターとして『ヤマト』に参加していましたが、実は石黒さんは火や水の動きや爆発などのエフェクトアニメーションを得意とする名アニメーターでもありました。
(つまり現在の庵野秀明さんのような存在です。)
ところが、宇宙やSFに興味が無い人や想像力に乏しいアニメーターにはまるで話が通じません。
石黒さんがいくら細かく指示しても、上がってくるのは無重力空間なのに地上と同じように下から上に向かって爆炎が吹き上がるとか、撃墜された戦闘機や艦艇が必ず画面の下に落ちていくという原画ばかりだったそうです。
しかも、何度もリテイクを要求すると「『ヤマト』の演出はしつこい」などと文句や悪口を言うアニメーターもいたとかで、温厚な人として知られていた石黒さんも「流石にその男はクビにした」と自著の中で書いておられました。

最初の頃は石黒さんご自身が爆発エフェクトを描いたり、他人が描いた爆発原画を修正したりしていましたが、回数を重ねるうちに芦田豊雄さんや白土武さんなどこの作品に理解ある作画監督とそのチームが自然に石黒エフェクト(ヒトデ爆発)を描くようになっていきました。
TVアニメ『宇宙戦艦ヤマト』が40年以上経った今でも十分鑑賞に耐え得る理由の一つとして、現場ディレクター:石黒昇さんの技量とSFセンスがあったことに疑う余地はありません。
第7話「ヤマト沈没!!運命の要塞攻略戦!!」

第7話と第8話は、地球に遊星爆弾を降らせ続けるガミラス冥王星基地を叩く前後編です。
出来るだけ戦闘を避けてイスカンダルに向かいたかったヤマトですが、沖田艦長は地球を汚染させ続けるこの基地だけは素通り出来ないと攻撃を決断します。
【反射衛星砲】


初めて見たとき、この反射衛星砲のアイデアには度肝を抜かれました。

威力は大きいが一定方向にしか撃てないビームエネルギーを、冥王星全体に配置した複数のミラー付き人工衛星に反射させることで死角を一切無くし、たとえ相手が惑星の裏側にいても命中させることが出来るという優れものです。
昔、アメリカ軍が「SDI(戦略防衛構想)」と名付けて真似しようとしたことも頷けますね(笑)。
(反射衛星のCGがそっくりです)

あと、これは有名な話ですが、松本零士先生は反射衛星砲本体を男性のイチモツをモチーフとしてデザインしたそうです。

性に目覚め始めた中1時代にそのことを知った私は、その砲から発射されたビームを受けるたびに悲鳴を上げてのけぞったり髪が乱れたりする森雪になにやらムラムラしたものを感じておりました。(ノω`*)ノ


いや、注意してよく見ていると確かに反射衛星砲がヤマトに命中するたびに、森雪が悶え苦しんだり悲鳴を上げたり髪が乱れるカットが必ず出てくることに気が付いたのです。
そのことをアニメ・特撮好きの親友T君にドヤ顔で教えてやったところ「変態かお前」と一笑に付されました。
でも、7話の演出&作画スタッフはおそらく心の奥底でそんな(ってどんな?)イメージを抱きながら悶える森雪を描いていたに違いないと今でも思っております。
第8話「決死のヤマト!!反射衛星砲撃破せよ!!」

反射衛星砲を何度も喰らったヤマトは一旦冥王星の海に沈みますが、実はまだ生きていて逆転のチャンスを狙っていました。
ここにも「明日のために今日の屈辱に耐える」という松本零士先生の信条が込められています。
【第三艦橋】

この回で初めて第三艦橋が活用されました。
ヤマトの第三艦橋といえば「戦闘のたびに必ず犠牲になる」「ヤマトの棺桶」まどと揶揄されがちですが、それは中途半端なファンの思い込みに過ぎません。
実はシリーズ全作品のうち第三艦橋が犠牲になったのは、一作目のドメル艦自爆のときとガミラス本土決戦で硫酸の海に溶け落ちたとき、そして『復活編』(初回劇場公開版)ラストの計3回だけなのです。
あの『さらば宇宙戦艦ヤマト』の激戦の時でさえ、第三艦橋は最後まで無事に残っていました(笑)。
ただ、一作目のドメル戦とガミラス本土決戦で連続して被害を受けたことと、その2回ともあまりにも壮絶&悲惨な最期だったために、視聴者の印象に強く残って「第三艦橋勤務=必ず戦死」などという縁起でもないイメージが付いてしまったのだと思います。

私としては、戦闘中最も危険なのは第三艦橋ではなく主砲内部に勤務している人たちだと思います。
なぜなら、敵はまず最初にヤマトの武器を潰そうと狙ってくるはずですから。
【敵基地潜入作戦】

第5話でたくさんの生命体が生息していた浮遊大陸を消滅させたヤマトは、今後生き物が住んでいる可能性がある場所には決して波動砲は撃たないことを決定していました。
その対象は知的生命体に限らず、このようなアメーバ状の原始生物も例外ではありません。

そのためヤマトは、ガミラスの冥王星基地に特別攻撃隊を潜入させて反射衛星砲を内部から爆破するというゲリラ戦法を採用することになりました。
真田技師長はヤマトそのものを囮に使い、何度か反射衛星砲を撃たせることでついにその所在を突き止めます。

アニメとしては迫力に乏しい地味な作戦ですが、これは当時人気があったスパイ映画『007』シリーズの影響でしょうか?。
ちなみにリメイク版『2199』の冥王星基地編は、航空機隊が基地を発見してヤマトが主砲のロングレンジ攻撃で撃破するという展開になっていました。
冥王星基地に関してはリメイク版のほうが理にかなっていて画的にも面白い展開だったと思ってます。

この回の作画監督は小川隆雄さんという方ですが、この小川さんに関してはほとんど情報がありません。
8話の森雪を見た限りでは芦田豊雄さんとよく似た絵を描かれる人で、第23話にも芦田さんの補佐という形で参加されています。
オフィス・アカデミーの社内作画チームは芦田班と小川班の2チームに分かれていたらしいですが、小川班は全26話中2話しかローテーションに加わっていません。
おそらく、7話と8話はアカデミー社内作画チーム総動員で同時制作することで少しでもスケジュールの遅れを取り戻そうとしたのだろうと想像しています。
第9話「回転防禦!!アステロイド・ベルト!!」

大量の岩塊一つ一つにコントローラーを撃ち込み、岩で艦全体を包んで防壁にしたり、リング状に回転させて防御と攻撃両方に使えるという、真田技師長とっておきのアイデア「アステロイドシップ計画」が描かれた回です。
なかなか良く出来たシステムなのでその後ももっと使えばよかったのに、結局使用したのはこの一回きりでした。
おそらく細かい岩石を大量に描く必要があるためスケジュール的に難しかったのでしょう。
実はこの「アステロイドシップ計画」は最初の企画段階から構想されていた『ヤマト』基本設定の一部でした。
【『ヤマト』の初期企画】

『宇宙戦艦ヤマト』は当初「アステロイド6」というタイトルで企画がスタートしました。
SF作家の豊田有恒先生と脚本家の藤川圭介さんと山本暎一さんの手でまとめられたもので、普段は小惑星の姿をしている宇宙船が戦闘時には岩盤をリング状に分散させて戦闘や防御に使うというものです。
「放射能汚染により滅亡の危機に瀕した地球人類を救うため、遠い宇宙の果ての惑星に放射能除去装置をもらい受けに行く」という基本ストーリーも、この時既に豊田有恒先生の発案で出来上がっていました。

その後参加した松本零士先生が豊田先生の案を支持して、そこに「戦艦大和を宇宙戦艦として蘇らせる」というアイデアを付け加えたのが我々が知っている『宇宙戦艦ヤマト』の原型です。
【誰が『ヤマト』を作ったか?】

漫画版を執筆した松本零士先生が『ヤマト』の原作者だと思っている人が多いようですが、実は松本先生が参加したのは企画の終盤近くからでした。
松本先生は、あくまでも魅力あるキャラクターと人間ドラマ、そして独自のメカニックを提供してストーリーに肉付けをした監督でありデザイナーです。
では、「『宇宙戦艦ヤマト』の本当の原作者は誰なのか?。」
そう問われたとき、私は迷わず「豊田有恒先生」と答えることにしています。
基本ストーリーを作ったのが豊田先生であることは間違いないのですから。
しかし、放送開始直前になって一つ困った事が起きました。
豊田先生は『ヤマト』の裏番組である『猿の軍団』にも同じSF作家の小松左京先生と田中光二先生と連名で原作者の一人として参加されていたのです。
もちろん『ヤマト』と『猿の軍団』の放送時間が重なったことは単なる偶然でした。
しかし、西崎プロデューサーは「裏番組同士で同じ原作者というのはマズい。『ヤマト』ではSF監修という肩書にさせてもらう。」と原案のポジションから豊田先生の名前を削除してしまいました。
そのため「『宇宙戦艦ヤマト』の作者は誰か?」という部分が曖昧になってしまい、後に西崎がそこに付け込んで「『ヤマト』は自分が作った」と大きな顔をするようになったのです。


豊田先生はあのヤマト著作権裁判のときには「『ヤマト』の原案を作ったのは俺だ」などとは一言も言わず、むしろ「”おおよそ”の原作者は松本零士さん。」と松本先生の側に立ち、クリエイターたちの努力を軽視して私欲に走った西崎に対抗しました。
豊田先生が松本先生の漫画版『宇宙戦艦ヤマト』復刻版に送ったメッセージで松本先生のことを「戦友」と呼んでいらしゃったことに私は思わず胸が熱くなりました。

『宇宙戦艦ヤマト』は、同じ時代に大勢の才能が偶然出会って誕生した奇跡のアニメです。
(色々問題のある人ではあったが)「本格的な宇宙ものSFアニメを作ろう」と企画を立ち上げた西崎義展プロデューサー。
その呼びかけに応えてストーリー原案を作った豊田有恒先生。
豊田先生の初期アイデアを企画書にまとめた脚本家の藤川佳介氏と山本暎一氏。
そこに魅力的なキャラクターとメカニック設定を提供し、独自の世界観と人間ドラマを持ち込んだ松本零士先生。
アニメの既成概念を打ち壊し、様々な新しい表現に挑戦した石黒昇ディレクター。
松本先生の絵柄を極力生かすよう腐心して第1話のイメージを特別なものにした芦田豊雄作画監督。
本格的なオーケストラ演奏によるシンフォニーをTVアニメに持ち込み、映像のイメージを音楽に凝縮してみせた宮川泰先生。
他にも音響効果の柏原満さん、絵コンテマンとして参加してキャラクター表現の幅を広げた安彦良和さんなど、まだまだ書ききれないほど大勢の才能が集まって出来た作品です。
その『宇宙戦艦ヤマト』を勝手に独り占めしようとした西崎だけは許すことが出来ません。
第10話「さらば太陽圏!銀河より愛をこめて!!」


太陽圏を離れる前に、乗組員全員に地球に残してきた家族との最後の交信が許可されます。
地味な話であり、メカアクションなどの見せ場も皆無なためつい飛ばし見してしまいがちですが、ヤマト乗組員たちが自分の命に代えても救おうとしている地球とそこに残してきた家族との絆が描かれている重要な回です。

ヤマト乗組員たちは誰のために命を懸けるのか?。
この回を見ていると、彼らが必死に戦っているとき、あるいはいつか戦闘で散る瞬間に彼らの脳裏に浮かぶであろう家族や恋人のことにまで想像が膨らむのです。

家族との交信シーンでちょっと反応に困るのが、佐渡先生の通話相手として登場する猫のミーくんです。
部屋の中がまるでゴミ屋敷のようになってますが、それでも時間に合わせてTV電話の前にちょこんと座っています。
佐渡先生の不在中にミー君の世話をしてくれて、更にこの時TV電話を操作してくれた人は一体誰なんでしょうか?。
【ヤマトの料理長】

「ヤマトにこんな役職もあるのか?」と驚いたのがこの料理長です。
おそらく主計課の人でしょう。
ヤマト乗組員の食事を一手に背負う人物らしく、厨房においては艦長にさえ「ここは衛生第一だ!」と苦言を呈するガンコ親父です。
ただし、この料理長が以後姿を見せることは一度もなく、13話や16話に登場するヤマト食堂は全て自動配膳装置でまかなわれている設定になっていました。
例えば、16話で食事内容に文句を言う古代にこの料理長が謝るとか、19話で沖田がメインスタッフと会食するシーンで食事を運んでくるとか、再登場させるチャンスは何度かあったと思うのですがね。
【古代の孤独】

一方、古代と沖田艦長の二人は天涯孤独の身であるためこのせっかくの機会にも通話する相手は誰もいません。
周囲がお祭り気分で浮かれている中、所在なさげに艦内をうろつき回る彼らの姿は実にもの哀しいです。
しかし、この場面で初めてエンディングテーマ「真っ赤なスカーフ」の歌詞の意図が理解出来ます。
♪
あの娘が振っていた真っ赤なスカーフ
誰のためだと思っているか
誰のためでもいいじゃないか
みんなその気でいればいい
古代のように守るべき特定の相手がいない者にとってこの歌詞がどれほど心の励みになることか。
企画段階でこの歌詞を書き上げた阿久悠先生の想像力の豊かさにただただ感服するばかりです。
【女性乗組員】

あと、この回にだけ森雪以外の女性キャラが大勢画面に登場します。
もし放射能除去装置が間に合わなかったり手に入らなかったりした場合は、ヤマトクルー全員がアダムとイブとなって地球を復興する(あるいは第2の地球を探す)プランBが用意されていたのでしょう。
その場合、人類の種を絶やさないためには男女同数が乗り組んでいることのほうが正しいです。

その後、どういう意図で女性乗組員を森雪一人にしたのかは分かりませんが、いずれにせよ男性乗組員百数十名に対し女性が森雪一名だけというのは色々な意味で危険です(汗)。
第11話「決断!!ガミラス絶対防衛線突入!!」


【ガミラス人の変化】
10話まではガミラス人は全員地球人と同じ肌色で描かれていましたが、この回から急に青い肌に設定変更されました。
最初は地球人に近い肌の色だったデスラー総統が、スタスタ歩いているうちに照明の色温度が暖色系から寒色系に変わっていきデスラーの顔色が青く変わっていきます。
今まで地球人と同じ肌色に見えていたのはデスラーが居た部屋の照明の色温度が非常に低かった(赤っぽい光だった)ためだという理由を律儀に説明しておりました。

また、肌の色だけでなく参謀たちの軍服も統一されたデザインのものに変更されました。
これらの変更は、スポンサーやTV局から「敵味方の区別をもっとハッキリさせろ!」という指示が出たからだそうです。
当時のTVアニメに登場する敵の姿といえば、確かにどれも分かり易い怪物的なデザインばかりでしたから無理もありません。
【酔いどれロボット】

この回の主役は何と言っても酔っぱらったアナライザーでした。
佐渡先生に酒をぶっかけられて「ヒックヒック」と赤く点滅しながらも、宇宙機雷解除の任務を無事完遂します。

「ヒックヒックって大丈夫かね?」と、あのクールな真田さんが初めて人間的な表情を見せた回でもあります。
この回の絵コンテ担当は安彦良和さん、作画監督は芦田豊雄さんです。
安彦さんの表情豊かな絵コンテに触発されて、芦田さんもノリノリで作画していることが伝わってきます。

動かなくなったガミラスの宇宙機雷を宇宙遊泳で脇へ押しやって航路を開くという人海戦術には、「あったまいい!」と拍手喝采ものでした。
デスラーが思わず祝電を打ちたくなったのも頷けます(笑)。
【宇宙服】

このとき古代たちが着ていた宇宙服は、酸素ボンベが付いた長時間の宇宙遊泳が可能な本式のものです。
普段の隊員服に密閉ヘルメットと手袋・ブーツを加えただけの簡易宇宙服ではありません。
『ヤマト』ではこの使い分け方が今一つハッキリしませんが、一つ確かなことはこの本式の宇宙服が登場するのはこの第1作目だけだということです。
2作目以後は宇宙空間だろうが放射能を含んだガミラスの大気中だろうが簡易宇宙服しか使っていません。
作画するのが面倒だからなのか、それともアクションシーンが作りにくいからなのかは分かりませんが、いずれにせよ2作目以降の『ヤマト』は真空&絶対0度の宇宙空間というものをナメているように見えます(笑)。
【どれが本当の古代?】

この作戦終了後、デスラー総統がヤマトの見事な解決法に対して祝電を打ってきます。
それを聞いた古代は「チクショーおもしろくなってきたぜ!」と派手に強がってみせますが、前回一人淋しく艦内をうろつき回っていたあの古代と同一人物とは思えない軽さです。
前回の記事にも書いてますが、全話通して見ると古代進のキャラクターはかなり破綻しています。
あるときは向こう見ずで好戦的だったり、あるときは妙に慎重だったり、そしてあるときは敵に同情もしたり・・・。
作画監督によって顔つきがコロコロ変わることによる印象の差もあるでしょうが、むしろ脚本の段階で彼のキャラクター性が統一されていないという気がします。
藤川圭介さんが書く古代は今回のように直情的でお調子者の要素も併せ持つ明るいキャラクターですが、もう一人の山本暎一さんが書く古代はもっと思慮深い男になっています。
第12話「絶体絶命!!オリオンの願い星、地獄星」

左右には超磁力バリアー。
後方からは金属を腐食させるガス生命体。
そして唯一開けている前方には巨大な赤色巨星の灼熱地獄。
冥王星基地での戦闘以降地味なエピソードばかりが続きましたが、ここで久し振りに冒険活劇的なエピソードが出てきました。
【沖田艦長の病状】

11話は内容的にも重要な回です。
実は沖田艦長は宇宙放射線病に侵されていて、しかもその病状はかなり進行していました。
そのため敵ミサイルへの迎撃命令が遅れるという重大なミスを犯したうえ、赤色巨星に接近したときにも一時的に意識を失い、佐渡先生からドクターストップ警告を受けてしまいます。
ここまで『宇宙戦艦ヤマト』を牽引してきた沖田艦長の存在感が後退し、この後は古代進の成長物語へとシフトしていくというシリーズ全体のターニングポイントとなる回です。
【白土武さんの絵柄の変化】
この回の作画監督は第2話、第4話、第6話、第10話とこれまでもずっと偶数回を担当してきた白土武さんです。

こちらは第2話の古代進。
10話までは岡迫宜弘さんがまとめたキャラクター設定書に寄せて描いておられましたが・・・

この回あたりからまるで開き直ったかのようにご自分の絵柄を隠すことなく作画するようになっています。
髪型がシャープになり、目つきはもはや別人で、「いつでも来やがれ、波動砲でぶっ殺してやるぜ!」とでも言い出しかねない好戦的な印象です。
白土さんは『ヤマト』の前には『タイガーマスク』『マジンガーZ』『ゲッターロボ』などに参加していた人で、どちらかといえばバタ臭いタッチの絵を描く方です。
『ヤマト』の本数が全39話から26話に短縮されて各種設定もリファインされたのを機に、無理に設定書に合わせて描くことをやめてしまったのかも知れません。
絵柄としては個人的にあまり好きではないですが、キャラクターの表情や動きは明らかに良くなっていてアニメーターが自由に描くことの良い部分と悪い部分が出ていると思います。
【LGBTQ?】

第10話では女性乗組員が何人も乗っていたはずなのに、11話以降は女性は何故か森雪一人になってしまいました。
しかし、この回で佐渡先生の助手として登場したこの看護士は、声は男性声優が演じていますがよく見ると胸が膨らんでいて腰つきなどのボディラインも明らかに女性として描かれています。


実は、この看護士は原画の段階までははっきり女性として描かれていました。
それを、11話以降の設定変更に伴って急遽男性キャラに描き変えられたのです。
しかし、動きのあるカットは枚数が多いため修正が追い付かず、結局走るシーンは女性体形のままで声だけ男性にして胡麻化すことになったものと思われます。
【乙女の願い】

第12話で沖田の病状と同じくらい重要な要素といえば、ラストで雪が口にする思わせぶりなセリフがあります。
雪 「私に願い事があるかぎり願い星は願い星よ。」
古代「で、何をそんなにお願いしてるんだい?」
雪 「ナイショって言ったでしょ。」
古代「教えてくれたっていいじゃないか。」
雪 「じゃあ言うわ。ある人が私のことを好きになってくれるようにって」
古代「なんだそんな事かくだらない・・・って、そのある人ってどんな人だい?」
雪 「それこそナイショよ。」

これが古代に対する淡い想いをチラ見せしたものであることに疑いはありません。
雪がいつから古代のことを異性として意識すようになったのかはハッキリしませんが、シリーズ後半では沖田の病気に伴う古代の成長とこの二人の恋愛模様が軸になっていきます。
【白黒テレビでも見やすいように!】

最初の頃のヤマトのボディカラーは旧・戦艦大和のような鉄の色にこだわって濃いグレーだったのが、この回あたりから少し灰色を混ぜたような明るめの色に変わっています。
これは「暗い宇宙を背景に黒っぽいヤマトが描かれていても白黒テレビでは何が映っているのか分からない。」という苦情がTV局に多く寄せられたためだそうです。(石黒昇氏の著書より)
昭和49年当時はまだカラーテレビと白黒テレビの普及率はほぼ同じくらいでした。
そのため、まだまだ白黒テレビ向けのカラーリングも考慮しなければならない時代だったのです。
前々回の記事にも書きましたが、初放映当時、私は『ヤマト』第18話から22話までは白黒テレビで見ていました。
母と祖母が交通事故のため長期入院することになり、私と妹は叔父夫婦に預けられたのですがその家のテレビがまだ白黒だったのです。
図らずも、制作側が白黒テレビでも見易いカラーリングに変えてくれていたおかげで、色は無くても内容はちゃんと理解することが出来ました。
とはいえ、21話と22話の七色星団や4隻のカラフルな宇宙空母の区別はつきませんでしたけど(笑)。
第13話「急げヤマト!!地球は病んでいる!!」

この回の冒頭で智将ドメル将軍が登場し、デスラーからヤマト討伐の任を受けることになります。
ただし、今回は顔見せのみで実際にバラン星基地に着任するのは1話置いて15話からとなります。
【ガミラス人との(二度目の)遭遇】

13話のメインストーリーは、ガミラス兵を生きたまま捕獲して調査したところ、肌の色以外は地球人と何ひとつ変わらないことが判明するというお話です。
以前タイタンで遭遇したガミラス兵の遺体や戦車を回収して調べていたらとっくに分かっていたことだと思うのですがね。
でも、あの時とはガミラス人の肌色が全然違っていますからねえ・・・(笑)。
【実は陰キャラだった古代進】

でも、この回の重要ポイントはそこではありません。
ガミラス兵を前に古代の脳裏に浮かんだ中学生時代の記憶です。

13歳頃の古代進は、ヤマト戦闘班長となった現在からは想像もつかないような昆虫好きの大人しい少年であり、優秀な兄に嫉妬して母親に泣きついていた陰キャラでもありました。
11話で、デスラーの祝電を聞いて「面白くなってきやがった!」といきがってみせたあの古代進と同一人物とはとても思えません。

それでいて、後にガミラス星を滅ぼした直後には「我々は戦うべきではなく愛し合うべきだった」と自戒の弁を口にします。
あの有名なセリフも、この第13話を見ていなければ「勝者の余裕からくる憐みでしかない」とか「偽善者の言葉」としか受け止めることは出来ないと思います。
しかし、この回で古代が元々心優しい少年だったという事実を見ていれば、24話のあのセリフも説得力あるものに聞こえてくるはずです。
あまりにも地味な話なので飛ばし見してしまうことが多い回ではありますが、ここをちゃんと見ておかないと24話の古代の気持ちが全く伝わらないという重要な回です。
【戦中派のノスタルジー】

この回にも戦前生まれのスタッフのノスタルジーが反映されている場面があります。
それは村中あげて古代守の帰省を祝うこの宴会シーンです。
太平洋戦争中の日本がまだ優勢だった最初の頃は、立派な帝国軍人となって帰省してきた若者に対しては村じゅうあげて祝福・激励していたそうです。
そうした昔の情景を、戦時中を知る年配のスタッフが地球防衛軍に志願した古代守と彼の家族や故郷の人たちで再現したかったのでしょう。
そのため、西暦2194年の出来事なのに思いっきり昭和の情景になってしまっています。
でも、いくら田舎とはいえ2194年にこのおじさんの踊りはないだろうと・・・(笑)。
【父よ母よ】

この回のラストで描かれる古代の両親の最期には恐怖と悲しみしかありません。
「古代自身はその場にいなかったのにどうして両親の会話を知ってるんだ?」なんて下らないツッコミをしたがる奴は、これ以上『宇宙戦艦ヤマト』を見なくて結構です。

秋の繁忙期真っ只中に毎週『ヤマト』について7本分も書くのは結構キツイものがありますね。()´д`()ゲッソリ
でも、森雪のセリフ「あきらめないで、今が一番大切な時よ」(24話より)を胸に頑張って書いております(笑)。
<(_ _)>
お付き合いいただきありがとうございました。