週刊映画鑑賞記(2023.3/13~2023.3/19)
毎週日曜日はこの一週間に観た映像作品を日記代わりに書き留めています。

今週前半は自分の時間が多目に取れたこともあって、ディズニープラスのTVシリーズ『キャシアン・アンド―(シーズン1)』全12話を5日間かけて一気見しておりました。
かなり控えめに言って「傑作」です!。
3/13(月)~3/17(金)
『キャシアン・アンド―(全12話)』🈠
(ホームシアター:ディズニープラス)

『スター・ウォーズ』エピソード4の数分前までを描いた傑作スピン・オフ映画『ローグ・ワン』の主要人物:キャシアン・アンド―の過去を描くドラマシリーズ。
つまりスピン・オフのそのまたスピン・オフ、前日譚のそのまた前日譚というわけです。
一体どこまで広がるのか『スター・ウォーズ』ワールド!。
スカイウォーカーの血族も、ジェダイも、シスも、フォースも出て来ませんが、あの世界の片隅がしっかりと描かれていて『スター・ウィーズ』ユニバースの一部となっています。

少なくとも映画『ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー』が好きな人なら見て損はないと断言します。
「これまで反乱軍のために手を汚してきた。後ろめたい任務を終えるたびに大義のためだと自分に言い聞かせてきた。」
シーズン2までの全24話を見終えたとき、あのキャシアン・アンド―の名セリフがより奥深いものとなるはずです。

他サイトで「1話から3話までは一気に見るべき」と書かれていたのを読んで、月曜日は3話まで一気見しました。
キャシアンの少年期と現在の青年期の二つの時代を交互に描くことで、キャシアンの出自や現在彼が置かれている状況が分かる作りになっています。
ただし、この構成をそのまま3回に分けて描いているため、一気に見ないと逆に分かりにくくなってしまうのが難点です。
つまり、一本の2時間強の映画を3分割しているのと同じなのです。
「3話までは一気に見るべし」という意味が分かりました。
なるほど、先人のアドバイスには素直に従っておいて損はないということですね。

内容はもちろんのこと、ドルビーアトモスの音響効果が素晴らしいです。
そのことは第1話冒頭のシーンだけで分かりました。
降りしきる雨の音と雷の重低音がシアタールームに充満し、これから始まるキャシアンの波乱の運命を暗示するかのような音作りです。

あと、惑星フェリックスの街で毎朝打ち鳴らされる鐘の音が凄い!。
基本的には上空から聴こえてきますが、地上の場面に移ると鐘の音が壁などに反射してあちこちから聴こえてくるというかなり芸の細かい音響デザインが施されていました。
そして、この鐘の音は最終回で効果的に使われました。
TVシリーズながら下手な劇場用映画を超える巧みな音響演出が駆使されていて、私みたいなサラウンド愛好家には堪らない作品になっています。

4話から6話にかけても3話で一つのエピソードになっていて、キャシアンは帝国軍の基地に潜入して軍資金を盗むという泥棒仕事を請け負います。
この3本は1~3話とはまるで違うテイストで作られていて、どこか007映画のような雰囲気も醸し出していました。
また、オープンセットだった1~3話と違いどこかの草原でロケした自然の風景が中心になっているためトーンがガラリと変わっています。
ただし、1~3話と同様に3話連続で見ないと話が分かりにくいため、結局2日目も2時間半ほどかけて連続視聴しておりました。

第7話のみ単独エピソードでした。
ここから『ローグ・ワン』『ジェダイの帰還』で反乱軍の後ろ盾的存在だった女性議員:モン・モスマに焦点が当たっていきます。
4~6話でキャシアンたちが帝国の基地を襲撃したことがきっかけとなり、帝国の圧政と弾圧はより一層厳しいものになります。
しかし、それこそが反乱軍上層部の本当の狙いでした。
やんわりとした圧政には人々はいつしか慣れてしまい帝国の言いなりになっていきますが、理不尽で厳しい弾圧を受けると反発が生じ、やがて立ち上がる者(反乱者)たちが出てくるはずだ・・・と。
つまり、キャシアンはその捨て石として雇われたに過ぎなかったのです。
映画本編のエピソード4~6では正義の集団のように描かれていた反乱軍も、裏ではこうした汚い手を使って反帝国・反皇帝の風潮を焚きつけていたことが分かる実に奥深いドラマです。
でも、実際に見るまでその回が1話完結なのか続きものなのか分からないのは困りもので、この点だけが『キャシアン・アンド―』の欠点と言えます。
例えば1~3話は「フェリックス編」、4~6話は「軍資金略奪編」などとサブタイトルを付けて分かりやすくして欲しかったです。

それで言うと8話~10話は「監獄編」とでも呼ぶべき内容でした。
帝国軍に捕まったキャシアンはある惑星の海上に建てられた軍の工場に送り込まれて連日武器の部品を作らされ続けます。
囚人たちの多くは「ノルマを達成したら出所出来る」と信じていましたが、他の区域の造反事件を機に「ノルマに達しても担当区域を変えられるだけで一生出られない」と分かり、キャシアンを先頭に囚人全員が暴動を起こして脱走するというエピソードです。

収監時も脱走のときも囚人たちのリーダーだったキノ・ロイ役を、『フォースの覚醒』では敵の親分スノーク役を演じていたアンディ・サーキスさんが好演しています。
ところがこのキノ・ロイ、監獄からの海に飛び込んで泳いで逃げようという最後の最後に彼は意外な理由でその場に留まってしまいます。
「泳げないんだ・・・。」
思わずコケそうになりました(笑)。
ここまできてそれかいっ!。
でも、それだけに凄く印象に残る良いキャラクターだったのでシーズン2に再登場することを願っています。

『ローグ・ワン』で主人公:ジン・アーソの義父として登場したソウ・ゲレラも登場。
TVドラマシリーズといえども、ソウ役を映画版と同じ名優:フォレスト・ウィテカーさんが演じていることも嬉しかったです。

あと、このドラマは『ローグ・ワン』の5年前という設定なので、この頃にはソウの元を離れていたであろうジン・アーソ(演:フェリシティ・ジョーンズ)とキャシアンのすれ違いとかもシーズン2で見せて欲しいです。

第11話では、ポンコツ・ドロイド:B2EMOことビーの視点でキャシアンの母:マーヴァの死が描かれます。
ビーにとっては長年一緒に暮らした人たちのうち、キャシアンが家を出たのに続いて最後に残った老母も亡くなって家族全員を失うことになりました。
でも知能が子供レベルのビーには自分の身の周りで何が起こっているのかを理解出来ず、出棺されるマーヴァの遺体に「自分も一緒に行く」と駄々をこねます。
まるで親を失った幼子のようで思わず心が痛みました。
作者の視点選択の巧みさとビーへの愛情(1話の時点ではまさかコイツに泣かされるとは思わなかったです)に脱帽です。

キャシアンの育ての親のマーヴァは、かつて帝国軍に歯向かった者たちのリーダー格だった女性でした。
マーヴァの葬儀中、彼女が生前に残したメッセージが映写されます。
その言葉に、知らず知らずのうち帝国に迎合しつつあった人々の心に火がついてやがて反乱の火種となります。
「向き合いたくない真実に目を背けてきた」
「闇が錆のようにじわじわと周り全てを侵食している。我々が侵食を許した。」
「帝国は闇の中ではびこる病、我々が眠るほど力を増す。」
「戦え!」
市民の反乱の合図となったのは、第1話で印象的に使われていたあのフェリックスの鐘の音でした。
第1話から積み上げられてきたあらゆる要素が収束して一気に爆発する最高の最終回です。
今回はシーズン1ということで12話で終了しましたが本来は全24話の予定とのことです。
まだ全体の半分しか見ていないわけですがすっげー面白い!。
個人的に映画『ローグ・ワン』は『スター・ウォーズ』シリーズ中でも最高レベルの傑作だと思っているのですが、そのスピンオフドラマもまた違ったベクトルでの傑作です。
少なくとも『スター・ウォーズ』オリジナル三部作と『ローグ・ワン』が好きな人なら、このドラマを気に入らないはずはありません。
それくらい面白くて、尚且つ『スター・ウォーズ』の世界をより深く掘り下げる内容になっています。
シーズン2が待ち遠しくて仕方ありません。
【第95回アカデミー賞】

13日(月曜)はアカデミー賞発表の日でした。
私は「発表は午後からだろう」と勘違いしていたんですが、朝WOWOWを見ていたらいきなり助演女優賞が決まっておりました。
本当は午前中税務所に確定申告を出しに行く予定だったのですが、急遽朝から昼過ぎまではWOWOWのアカデミー賞授賞式の生中継を見ておりました。
昨年のビンタ事件のようなトンデモハプニングは起こりませんでしたが(笑)、今年は「リアルタイムで見れて良かった!」と思わせてくれるステキな場面がありました。

それは『インディ・ジョーンズ 魔宮の伝説』の名子役だったキー・ホイ・クアンさんが助演男優賞を受賞した時です。
大ヒット作『魔宮の伝説』の反響を受けていくつかの映画に子役として出演したクアンさんも、大人になると「アジア系だから」というただそれだけの理由でオファーが来なくなり、長い間映画の裏方の仕事を続けていたそうです。

子役時代に望外の人気を得た子役はその後の人生において道を踏み外してしまうことが少なくありません。
例えば・・・
『ホーム・アローン』のマコーレー・カルキン君。
『ターミネーター2』のエドワード・ファーロング君。
『スター・ウォーズ ファントム・メナス』のジェイク・ロイド君。
彼らはその後一様に家庭崩壊や薬物依存や暴力沙汰などの騒動を起こし、中には警察のごやっかいになった者もいました。
そんな魔窟のような映画界で、クアンさんはどんなに差別を受けようとも夢を諦めず、裏方スタッフとしてハリウッド映画界に残って努力を続けながらチャンスを待ち続けていたのです。

壇上に上がったクアンさんのスピーチはベトナム移民時代から自分を支えてくれた母親と弟と、「いつかあなたの時代が来る」と励まし続けてくれた奥さんに向けられたもので、聞いていて思わずもらい泣きしそうになりました。
ただ、私としてはあと一人、彼に映画界で最初のチャンスをもたらしてくれたスピルバーグ監督にも感謝の言葉を述べて欲しかったです。

作品賞も『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』が受賞。
これはちょっと意外でした。
面白い映画であったことは否定しませんが、「え?、あの下品な映画がオスカー?。」と思ったこともまた確かです(笑)。

作品賞が発表された瞬間、他のノミネート作品の関係者たちが皆一様に「え?アレが?」という複雑な表情をしていたのが妙に印象に残っています(笑)。

作品賞のプレゼンターはインディ・ジョーンズことハリソン・フォード氏。
ここでもクアン氏の喜びが爆発し、年の離れたかつての相棒にまるで子供のように抱きついていました。

そして、その二人の姿を笑顔で見つめるスピルバーグ監督。
なんかジ~ンときてしまいました。
この場面をリアルタイムで見れて本当に良かったです。
今週もお付き合いいただきありがとうございました。