週刊映画鑑賞記(2022.12/5~2022.12/11)
毎週日曜日はこの一週間に観た映像作品を日記代わりに書き留めています。

今週見たのは旧い時代劇を3本。
このうち2本は今回が初見です。
12/5(月)
『蜘蛛巣城』(午前十時の映画祭)
(劇場:鯖江アレックスシネマ)

黒澤明監督がシェイクスピアの『マクベス』を日本の戦国時代に翻案して作った1957年公開作品です。
私が『蜘蛛巣城』を初めて見たのは幸運にも映画館のスクリーンでした。

1994年当時、大阪上本町にあったACTシネマテークという閉館間近の小さな映画館が毎週土曜日にオールナイトで黒澤明特集をやっていたのです。
当時の私は大阪の某TV番組制作会社に所属していましたが、この期間中は可能な限りACTシネマテークに通ってほぼ全部の黒澤映画をスクリーンで観ることが出来ました。
(「ほぼ」と書いたのは途中で睡魔に負けてしまった作品が数本あったからです・・・汗)。

このうち『蜘蛛巣城』は早めの時間からの上映だったため、最初から最後までしっかり見ていました。
当時黒澤映画はレーザーディスクが発売されてはいましたが、ビデオレンタルは(晩年の一部の作品を除き)まだ行われていませんでした。
流石の私も、まだ一度も見た事がない映画のLDを買うわけにいかないためこの特集上映は本当にありがたかったです。
あの企画は、閉館を前にした館主さんのせめてもの意地だったのでしょうか?。
私は黒澤作品のほとんどを映画館で体験させてくれたACTシネマテークさんには今も心から感謝しています。

ただ、あの時の上映フィルムは傷みが激しく、キズと雨の区別がつきにくいほど(笑)でした。
また画面が暗くて解像度も低く、森の奥行き感(=不気味さ)や木の表皮の凸凹感がほとんど潰れていたように記憶しています。

音声についても、森の中で出会った老婆のセリフがボソボソと何言ってるか全然聴き取れなかったです。
元々の音質の悪さに加えてエコーのようなエフェクトをかけているため、言葉というより音の塊でしかなくなっていました。
鷲津武時(演:三船敏郎)と三木義明(演:千秋実)がそれぞれ自分に関する予言に対して「なにっ、わしが一の砦の大将になるだと!?」などと復唱してくれたおかげで内容そのものは理解出来ましたが、黒澤監督の演出意図を100%受け取ったとは言い難かったと思います。

今回の上映は4Kリマスター版ということで、映像のみならず音声も可能な限りレストアが施されていたと感じました。
老婆のセリフは相変わらずボソボソした声で聴き取りにくさは相変わらずでしたが、集中してよく聞けば内容は理解出来るレベルでしたし、クライマックス前で鷲津(三船さん)を煽り立てる侍たちのセリフもしっかり聞き取れました。

また、画質についても暗部諧調がしっかり出ていて、円谷英二特技監督が撮ったと言われる動く森(実は木を盾にした兵団)も、昔見たときは木の葉がモコモコした固まりにしか見えなかったのが今回の上映ではまるで木が生きているかのように見えました。
今回、『蜘蛛巣城』をストレススリーでじっくり鑑賞出来たことで、映画のその後について色々と考察する楽しみが出来ました。

映画の冒頭でもののけ婆は鷲津がやがて蜘蛛巣城の城主になると告げますが、続いて最終的には三木の息子:義照(演:久保明)が城主になるとも予言していました。
その予言通り鷲津は主君の都築国春(演:佐々木孝丸)を暗殺して城主に収まりますが、そのとき国春の息子:国丸(演:太刀川洋一)を打ち逃してしまいます。
さらに鷲津は城主の座を守るため三木親子の謀殺を企てますが、こちらも息子のほうには逃げられてしまいました。
ラストでは都築国丸と三木義照が共同で軍勢を率いて鷲津に逆襲します。
このとき「森が動く」の予言が当たり、鷲津は味方の軍勢から無数の矢を射られて哀れな最期を遂げることになります。

この撮影時には主演の三船敏郎さんめがけて本物の矢が撃ち放たれたそうです。
三船さんが本当に恐怖におののきながら逃げ惑うこのシーンは世界的に有名になりました。
問題はラストシーンのあとのことです。
鷲津の前城主暗殺が明らかになったからには、次に蜘蛛巣城主となる権利を有するのは前城主の息子である国丸であるはずです。
しかし、もののけ婆の予言(最終的には三木の息子が城主になる)が現実になるとしたら・・・?。

同じ父親の仇として協力して鷲津を攻めた跡取り候補の二人の間に、あの後城主争いの醜い争いが起こって三木の息子が勝利したということになります。
そう深堀りしてみると、つくづく気が滅入る映画です(汗)。

『蜘蛛巣城』を映画館で見たのは、28年前のACTシネマテーク以来です。
自宅でもDVD、ブルーレイ(画質の良いクライテリオン盤)を買って何度か見返してますが、やはり黒澤作品は劇場の大スクリーンで見てナンボという気がしました。

残念だったのは、観客数が私の他に男性が一人だけ・・・つまり計2人だけだったということです。
平日(月曜)の午前中とはいえ、この数字は「午前十時の映画祭」の先行きに不安を感じさせるものでした。

年末の『空の大怪獣ラドン』にはいっぱい客が入って欲しいです。
でないと、せっかく去年『モスラ』の好評で勢いづいた「午前十時の映画祭」の特撮枠が無くなってしまうかも知れませんから。
12/7(水)
『大忍術映画 ワタリ』🈠
(ホームシアター:東映チャンネル録画)

先週東映チャンネルで放映されていた作品です。
上映時間80分程度という短めの映画なので就寝前に肩の力を抜いて見てました。
ちなみに今回が初観賞です。

公開は1966年(昭和41年)。
同時上映作品は石森章太郎先生原作の『サイボーグ009』第一作で、後の「東映まんがまつり」の前身となる夏休みの子供向けプログラムでした。

『ワタリ』では東映の子会社である東映動画のアニメ技術を融合させて一風変わった特撮画面を作っていました。
昭和41年といえば、テレビで『ウルトラQ』『ウルトラマン』が放映開始された年であり、特撮怪獣ブームの真っ只中でした。
東映は特撮ブームを東宝に独占させまいと、この年『海竜大決戦』とこの『ワタリ』で特撮映画に進出。
続いて松竹が『宇宙怪獣ギララ』を、日活が『大巨獣ガッパ』を、そして大映は前年の『ガメラ』に続いて『大魔神』シリーズ三作をこの年のうちに公開しています。
『大忍術映画 ワタリ』がアニメとの合成を駆使しているのは、それら他社の特撮作品と差別化を図るためだったと思われます。

しかし、当時は白土三平先生も石森章太郎先生も映画の出来にはかなり不満があったらしいです。
特に白土先生は、自身の作品全てに込めていたテーマ「階級解放闘争」がきれいさっぱり省かれていたことに大激怒。
一時は「上映を許さない!」とまで言い出すほどの剣幕だったそうです。
そりゃ、ワタリが吹く笛の音に合わせて忍者候補生の子供たちが輪になって踊るミュージカルシーンがいきなり出てくるのですから白土先生が怒るのも当たり前です(笑)。
東映はこの映画の評判が良ければTVドラマ化する予定でいましたが、白土先生の逆鱗に触れてしまったことで『ワタリ』のTVシリーズ企画は頓挫してしまいました。

その『ワタリ』に代わって誕生したのが横山光輝先生原作の『仮面の忍者赤影』でした。
『ワタリ』のメインキャストだった金子吉延さんと牧冬吉さんは、そのまま『赤影』にもレギュラー出演しています。
『赤影』は私も幼い頃夢中になって見ていましたが、裏にそんな大人の事情があったなどとは知る由もありませんでした。

この映画で違和感が凄かったのが、ラスボスを演じた大友柳太朗さんの派手な衣装です。
大友柳太朗さんといえば、『快傑黒頭巾』『丹下左膳』で東映時代劇の一時代を築いた往年の大スターでした。
この『ワタリ』と同年公開の『海竜大決戦』では冷血非道な悪役を演じていますが、それでも東映内における地位はまだまだ高かったらしく、忍者の頭領役でありながら紫色の綺麗な衣装を着てカメラ目線のどアップで見栄を切るという主役そっちのけの高待遇ぶりです。
白土先生が怒ったのは、東映が大友柳太朗御大に気を使い過ぎること自体が原作のテーマ「階級解放闘争」に反していると感じたためかも知れません。

この別タイプのポスターでは大友センセイも忍者らしい扮装をしているのですがね。
まあ、仮にこの衣装で出演したとしても、いきなりミュージカルシーンが出てきた時点で白土先生の怒りは変わらなかったと思いますが・・・(笑)。
12/8(木)
『斬る』🈠
(ホームシアター:BS4K録画)

『蜘蛛巣城』『ワタリ』とたまたま昔の時代劇が続いたことで、今週は時代劇で統一することに決めました(笑)。
「時間が短くて面白そうな時代劇はないか?」とBDレコーダーの中身を探していたら・・・ありました。
上映時間は1時間10分程度とにっかつロマンポルノ並みの短さ。
それでいて、主演は大映全盛期の大スター市川雷蔵さん。
脚本は『裸の島』の新藤兼人さん。
監督は『大魔神怒る』の三隅研次監督。
助演女優は同じく『大魔神怒る』の藤村志保さん。
・・・と、錚々たる顔ぶれです
しかも4Kリマスター版の4K放送です。
昨年暮れに録画していたことをすっかり忘れておりました(汗)。
もちろん初見です。

冒頭の激しい藤村志保さんの仇討ちシーンと、愛する彼女の首をはねる夫役の天地茂さんの複雑な愛情表現から「何か凄い映画が始まる」予感がありました。

一番の見せ場であるはずの雷蔵さんのチャンバラシーンは、特殊な衝きの構えで相手にスキを与えないというハッタリ技(雷蔵本人も邪道と認めている)とのことでなかなか見せてくれません。
この観客を焦らす演出がのちの『眠狂四郎』シリーズに繋がったのか?とか思いながら見てました。
中盤、主君を守るため十数人の刺客を一人で全滅させるところは流石のひと言です・・・が、凄かったのはそこまで。

他藩の陰謀を暴くため尊敬する上司と共に相手の屋敷に乗り込みますが、卑劣な罠にかかって上司は殺害されてしまいます。
上司の遺骸を前にした雷蔵さんはいきなり座り込んで自分の腹を・・・。
おいおい、『斬る』ってそっちかよ?。
その前に騙し討ちした卑怯な奴らを一人残らず叩き斬ってくれ!。
全然スッキリしねーよ。
・・・と、当時の観客のブーイングが聞こえてくるような終わり方でありました(笑)。
<(_ _)>
今週もお付き合いいただきありがとうございました。