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映画と日常

週刊映画鑑賞記(2023.5/29~2023.6/4)

トガジンです。
毎週日曜日はこの一週間に観た映像作品を日記代わりに書き留めています。

20230528 TOP
今週は黒澤映画3本立て!。
実はこの三作品、それぞれ昭和36年、37年、38年と公開年が連続しています。
その点を頭の片隅に置いて見ていると、今まで気付かなかった連携ポイントがいくつか見えてきました。



5/29(月)
『用心棒』
(ホームシアター:ULTRA-HD Blu-ray)
『用心棒』ポスター
『用心棒』を初めて見たのはTV放映でした。
高校一年の春頃、「ゴールデン洋画劇場」で『用心棒』と『椿三十郎』を2週連続で放映していたのです。
おそらく、当時公開間近だった黒澤監督の最新作『影武者』にちなんだ企画だったと思います。

このときの『用心棒』は完全ノーカット放送で、当時としては珍しいノートリミング(シネスコサイズ)、CMの挿入箇所も黒澤監督自身が指定したという特別放送でした。
そのため開始時間がいつもの「ゴールデン洋画劇場」と違って1時間早い20時スタートだったのですが、困ったことにこの日は裏番組で巨人戦の中継があったため、21時までは居間の18型テレビは大の巨人ファンである父親に占領されてしまうのです。
この時ばかりは「野球なんか雨で中止になってくれ!」と願いましたがそれも叶わず、私は仕方なく別の部屋の小さな古いテレビ(13型)で見始めて、野球中継が終わったら居間に移動して続きを見る形になりました。

『用心棒』室内シーン
最初は小さなテレビで見たせいもあって、暗い画面の内容(例えば飯屋の店内で街の状況説明を聞くシーン等)がよく見えず、音も悪かったため序盤で設定をしっかり理解することが出来ませんでした。
そのため、初見のときは『用心棒』の面白さをロクに味わえないまま終わってしまったと思います。

『用心棒』初版LDジャケット
2度目を見たのは大学生の時買ったレーザーディスクでした。
映像は21インチのテレビに映し、音声はオーディオアンプとスピーカーから出して鑑賞したので、今度はしっかり内容を掴んでその面白さを堪能することが出来ました。

宮川先生
私が通っていた大阪芸術大学には、映像科の講師として『用心棒』の撮影を担当した宮川一夫先生がいらっしゃいました。
先生の講義では『用心棒』や『羅生門』の撮影裏話をいくつも聞かせてくださって、そのため『用心棒』を見るたびまるでDVDやBDのオーディオコメンタリーのように宮川先生の話が頭に蘇ってきます。
なにしろ、黒澤監督を「クロさん」三船さんを「三船チャン」と当たり前に呼んでいた人です。
日本映画の歴史に名を残す方の話を直接聞けた幸運に浸ると同時に、「もっとたくさん話を伺いたかった」と悔やむ気持ちでいっぱいです。

木村大作監督 当時はフォーカス係だった
宮川先生のお話で今でも思い出すのは、当時助手を務めていた木村大作さんの話です。
木村さんは『日本沈没』『八甲田山』『復活の日』などを手掛けたレジェンド級の撮影監督であり、本編の監督も数本手掛けておられる日本映画界の宝ですが、『用心棒』のときは宮川氏の助手としてピント合わせ係を担当していました。

『用心棒』床下を逃げる三十郎
『用心棒』の中盤あたりに、三十郎が893たちから逃げるため床下を這いまわる場面があります。
このときカメラのファインダーを覗けるのは撮影監督の宮川さんだけであり、助手は画面を確認することなど出来ません。
それでも木村さんは、真っ暗で三船さんの顔も見えないほど劣悪な状況でありながらも正確な計測と自分の勘を頼りに動き回る三船さんにぴったりピントを合わせ続けたのだそうです。
私はこの場面を見るたびに、愛弟子の仕事を嬉しそうに語っていた宮川先生の笑顔を思い出します。



5/30(火)
『椿三十郎』
(ホームシアター:ULTRA-HD Blu-ray)
『椿三十郎』ポスター画像A
『椿三十郎』も『用心棒』の翌週に放映された「ゴールデン洋画劇場」で初めて見ました。
もちろん『用心棒』と同じくノーカット・ノートリミング、CMポイントは黒澤監督指定での放送です。
幸いこちらは野球中継とは重なりませんでしたが、放送開始前までは毎週欠かさず観ていた『太陽にほえろ!』が放送されていました。

『太陽にほえろ!』島刑事殉職?
この時の『太陽にほえろ!』のサブタイトルがなんと「島刑事よ安らかに」でした!。
てっきり「島刑事こと殿下(演:小野寺昭)が殉職するのか?」と集中して見ていましたが、結局殿下は殉職せず完全な「死ぬ死ぬ詐欺」の回でした(笑)。
でも前座で神経を張り詰めたおかげで、コメディタッチの『椿三十郎』がより面白く感じたように思います。

『椿三十郎』初回版LDジャケット
『椿三十郎』も『用心棒』と同じくレーザーディスクを買いましたが、その前後くらいにテレビで放映されたことがありました。
当時の私は映画関係の大学に通っていたため「みんなも絶対『椿三十郎』を見たはずだ」と、翌日皆に「『椿三十郎』やっぱ面白いわ~」と話題を振ってみたのですが、ほとんどの連中に「何が面白いのか全然分からんかった」と返されて唖然とした覚えがあります。
しかし、今になって考えてみると、当時の大学生のほとんどはせいぜい14インチ程度の小さなブラウン管テレビしか持っていなかったはずです。
それはつまり、私が『用心棒』を13インチの古くて小さなTVで初めて見た時と同じ状況だったということです。
彼らに『椿三十郎』の面白さが伝わらなかったのは当然のことだったのかも知れません。
こう考えると、黒澤映画は大画面で見て初めて面白さが分かる作りになっていることが分かります。
間違ってもスマホの小さな画面なんかで見てはいけません。

『椿三十郎』私の名は・・・
たまたまその場で目についた草木の名を適当に苗字にして名乗る三十郎(もうすぐ四十郎)。
いやぁ最高に良いキャラクターだなあ。
黒澤・三船・仲代トリオであと1本くらい作って欲しかったです。
実際、『用心棒』『椿三十郎』の連続ヒットに気を良くした東宝は「三十郎ものをもう一本作って欲しい」と黒澤監督に依頼していたそうです。
三船さんも三十郎のキャラクターには愛着があるようで、他の映画やTV時代劇でも(黒澤監督の許可をもらって)三十郎っぽい素浪人役を数多く演じていました。

もしも、本当に三作目が作られたとしたら・・・?。
桑の花は春に、椿は秋から春にかけて花が咲くので、残る季節は夏か冬になります。
夏なら向日葵(ひまわり)三十郎、冬なら山茶花(さざんか)三十郎とか?(笑)。

『椿三十郎』一撃必殺のラストシーン
一度見たら忘れられない、あの一撃必殺のラストシーン。
脚本には「長い恐ろしい間があって勝負はギラッと刀が一ぺん光っただけできまる。」としか書かれていなかったそうです。

『椿三十郎』リメイク版
本作の脚本をそのまま使った森田芳光監督と織田裕二コンビによる2007年のリメイク版では、肝心のこの部分が全然別物にされていました。
「いつズバッといくのか?」とじ~っと見ていましたが、一撃で勝負は決まらずそこから見苦しい小競り合いが長々と・・・。
思わず「冒涜」という言葉が頭に浮かびました。
そもそも、トレンディ俳優風情に三船さんと同じ貫禄とアクションを求めること自体無理があります。
角川はリメイク版『椿三十郎』がヒットしたらその後も平成版三十郎シリーズを続けるつもりだったらしいですが、コケてくれて本当に良かったです。

『椿三十郎』そのころにゃ俺は七十郎だぜ
ここから少々ウンチク話をさせていただきます。

『用心棒』は黒澤監督以下の脚本チームによるオリジナルストーリーで江戸末期の話として描かれたものです。
そして『椿三十郎』は山本周五郎著『日日平安』の主人公を凄腕の浪人:三十郎に置き換えて再構築したものです。
『日日平安』は江戸時代初期の話であることから、「両作品は正続編ではなく同じ主人公を使った姉妹編」という見方もあるようです。

しかし、私はある一点において『椿三十郎』は『用心棒』の続編として作られていると信じ込んでおります。

『用心棒』登場時は大小二本差し
『用心棒』の桑畑三十郎(もうじき四十郎)は、初登場時には腰に大小2本の刀を差していました。

『用心棒』ラストは大刀のみ(+包丁)
しかし、丑寅一家の卯之助(演:仲代達也)にトリックを見破られた三十郎は捕えられてしまい、当然腰の刀は2本とも奪い取られてしまいます。
辛うじて脱出に成功した三十郎は世話になった飯屋の親父(演:東野英二郎)を助けるために、棺桶屋が用意した「よく切れそうな刀」と包丁を持って丑寅一家に殴り込みます。

『椿三十郎』登場時から大刀のみ
そして、次作『椿三十郎』で登場したとき彼の腰には大刀が一本あるのみでした。

左『用心棒』ラスト:右『椿三十郎』
向かって左が『用心棒』のラスト、右が『椿三十郎』冒頭で三十郎が持っていた刀です。
鍔のデザインは向きや光の加減によって違って見えますが、柄(握る部分)は全く同じものです。

私は(時代設定云々はともかくとして)三十郎が持っている刀が両作品の連続性を示していると思います。
黒澤監督も主演の三船さんも、そして『椿三十郎』に関わった全てのスタッフも皆『用心棒』のあの主人公のその後を意識しながら『椿三十郎』を作っていたに違いありません。



6/2(金)
『天国と地獄』
(ホームシアター:ULTRA-HD Blu-ray)
『天国と地獄』ポスター画像(電話とスラム街)
『椿三十郎』の翌年に作られた黒澤監督の新作は『向日葵三十郎』でも『山茶花三十郎』でもありませんでした。
児童誘拐を題材にした犯罪サスペンスの傑作『天国と地獄』です。

『天国と地獄』脅迫電話
黒澤作品ならではの娯楽性と社会性、そしてヒューマニズムが最もバランス良く散りばめられている傑作です。
また、この映画公開後児童誘拐事件が多発したことから「営利誘拐」に対する刑事罰が大幅に強化されたという社会への影響も残した作品です。

『天国と地獄』特急列車
現実に模倣犯が現れたくらいに本当に良く出来ている特急列車を利用した身代金奪取シーン。
特急列車の中で唯一開くトイレの窓から外に現金が入ったカバンを投げ捨てるというこの見事なアイデアは、原作小説には無いこの映画のオリジナルです。
こんなアイデアはよほどの鉄道マニアでなければ思いつかないだろうと思っていたら、黒澤監督たちが「なにかいい方法はないか?」と考え抜いて国鉄(現在のJR)に何度も取材して「何か企んでいるのか?」と疑われながら作り出したアイデアだそうです。
黒澤監督は案外鉄道好きな人なのかも知れません。
『天国と地獄』には他に「江ノ電の音」が犯人の住居特定のヒントになるシーンも出てきますし、初のカラー作品『どですかでん』は電車バカと呼ばれる少年を軸とした話でしたから。

『天国と地獄』特急列車を利用した身代金受取
現代の犯罪捜査において監視カメラ映像や一般市民のスマホ撮影映像が活用されることが多いですが、本作でも犯人の特定に写真や映像(8ミリ)を使うところは時代を先取りしています。

『天国と地獄』麻薬中毒者の街を歩く犯人
犯人の竹内を演じたのは、デビューからまだ間もない頃の山崎努さん。
鬼気迫る演技で当時の世相の表と裏を体現してみせています。
貧しい医学生である竹内はこんな麻薬中毒者が多く巣食っている裏の世界にも精通していました。
当時は(もしかすると今も)日常社会の裏側にこんな異界が実在していたのでしょうか?。

『天国と地獄』麻薬中毒者と犯人
この映画に対して一つだけ気になる点があります。
警察は犯人の竹内を確実に重刑に追い込むために共犯者の死亡を隠して竹内を現場に誘い出そうとしますが、竹内はその前に「麻薬中毒者を確実に殺せる」方法を一人の女に実験して成功させます。
たとえ被害者が麻薬中毒の浮浪者といえども、この第3の殺人は警察の責任問題になりはしないでしょうか?。
その後この女に関する描写が無かったことが見終えたあとも引っかかっています。

『天国と地獄』ラストシーン
再起を果たした権藤に対してさんざん強がりを言っておきながら、最後の最後に「クソ―ッ」と絶叫する竹内。
映画はここでスパッと終わります。
観客の心に強烈な余韻を残す絶妙のラストシーンです。
本当はこの後に権藤(演:三船敏郎)と戸倉刑事(演:仲代達也)が竹内について会話する本当のラストシーンも撮影されていたそうですが、あの終わり方がベストだったと思います。

しかし、私にとって『天国と地獄』の見どころはこれだけではありません。

『天国と地獄』香川京子さん
なんといっても、権藤夫人を演じた香川京子さんの美しさと可憐さ!。
我が子が誘拐されたと思って必死に脅迫電話に耳を傾け、実際に誘拐されたのが運転手の子と分かってからも「身代金を払ってあげて」と御主人にお願いする心根の優しさ。
子持ちの人妻役ではありますが・・・惚れました。(n*´ω`*n)

欲を言えば、事件後貧しい服装に身を包みながらも一文無しから再起を図る夫(三船さん)の傍に笑顔で寄り添っている彼女の姿も見せて欲しかったです。

『天国と地獄』沢村いき雄さんが最高
何度見ても笑ってしまうのが、脅迫電話の奥に聞こえる電車の音の正体を探りに木村功刑事が聞き込みに行った電鉄会社のおっちゃんです。
相当な電車マニアらしく、「江ノ電はこうガタコーンガタコーンと・・・」と身振り手振りに口真似で効果音までつけて実演してくれますが、木村刑事は聞くべきことだけ聞いたら即「ありがとう!」とだけ言って立ち去ってしまいます。
一人残された感じのおっちゃんの「はいっ」がまた最高です(笑)。

この電車マニアのおっちゃんを演じたのは東宝映画ファンにはお馴染みの沢村いき雄さん。
特撮映画にも多数出演していて、この人が画面に出てくるとなんだかホッとしてしまう大好きな俳優さんです。

『天国と地獄』『椿三十郎』から持ち越されたアイデア
そして、クライマックスの赤い煙。
スティーブン・スピルバーグ監督が『シンドラーのリスト』で真似をしたあの有名な演出です。

『椿三十郎』最初は赤いツバキの予定だった
元々はモノクロ映画の『椿三十郎』で「椿の花に赤い色を付けよう」というアイデアが元になっています。
しかし、『椿三十郎』は製作期間が非常に短かかった上に技術的にも難しかっため断念せざるを得ませんでした。
そのリターンマッチを次の『天国と地獄』で実現したというわけです。
同じ監督の作品を製作順に続けて見ると、こうして様々な繋がりが見えてきて違った楽しみ方が生まれます。



黒澤3作品4K-UHD-BD
今回観た三作品はいずれもアマゾンで購入した4K ULTRA-HD Blu-ray盤です。
いよいよ黒澤映画の4K盤が手に入る時代になりました。

『七人の侍』UHD-BDジャケット
そして、今月は早くも『七人の侍』の4K盤が発売されます。

ただ・・・主演俳優の姿を切り取ったシンプルなジャケット表紙は良いとして、「『七人の侍』はこれじゃないだろう」と思ってしまいます。
これは映画の後半で単独行動に走って味方に大きな被害をもたらしてしまったときの菊千代ではないですか!。
東宝パッケージソフト担当者のセンスを心の底から疑います。

『七人の侍』東宝版BDジャケット
『七人の侍』の三船さんといえばやはりこれだろうと思うのですがね~。



今週もお付き合いいただきありがとうございました。
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