「宣伝しない宣伝」の宣伝効果は?

先日、県内の映画館で『タワーリング・インフェルノ』(午前十時の映画祭)を見てきたときのことです。
劇場を出て、「さて、そろそろ『インディ・ジョーンズと運命のダイヤル』を見に行かねば・・・。」と、劇場の壁面にずらりと並ぶポスター群を眺めているうち、ある作品のポスターが目に止まりました。

宮崎駿監督のアニメーション映画『君たちはどう生きるか』です。
私としたことが、『インディ』に匹敵するこの夏最大の話題作の存在をすっかり忘れておりました!。
ていうか、(失礼ながら)「ちゃんと完成出来たのか?」という驚きのほうが大きかったです。
それにしても、あの宮崎駿監督の最新作にして最終作が公開直前まで一切宣伝無しという興行方法にはとても興味があります。
公表されたのは↑のポスター1枚のみ。
予告編はおろか特報も無く、過去の宮崎作品なら必ず事前に発表されていたイメージボードも一切見せてくれません。
また、スタッフや声の出演者についての情報も皆無です。

ジブリの鈴木プロデューサーの言葉によると、これは「宣伝しないことによる宣伝である」とのことです。
しかし、徹底し過ぎて作品の存在そのもののが世間に浸透していないようであり、これは現代の映像産業において危険な賭けであると思えてなりません。
ただでさえ「時短」とか「タイパ」とか言って映画や読書に割く時間を省略したがる今の若者の心に、ろくに宣伝されない長編映画がどれだけ響くのか甚だ疑問なのです。
宮崎監督らしい躍動感溢れるアニメ映像を数秒だけでも露出させて、「これ絶対見たい!」と思わせることが昔以上に必要になっていると思うのですがね。

もう一つ心配なのは、宮崎駿監督のネームバリューが今の若い人たちにどれだけ通じるのか?という点です。
今回の「宣伝をしない宣伝」は<ジブリアニメ>や<宮崎駿監督作品>といったブランドイメージを礎に行っていると思われます。
しかし、宮崎駿監督は『風立ちぬ』を最後に引退宣言して以降、10年間もアニメ作りに関わっていません。
過去のジブリアニメは定期的にTV放映されているものの、10年間新作が無いことで観客が飽きている可能性があります。
例えば『君の名は。』『天気の子』『すずめの戸締り』を連続ヒットさせたばかりの新海誠監督であれば、こんな思い切った宣伝を打っても勝算があるかも知れません。
しかも、今回は内容がまるで分からない上に『君はどう生きるか』という若い人が敬遠しそうな説教臭い感じのタイトルです。
今の若い人は「映画が好き」と言いながらも一般的な評価や人気が高い映画しか見ませんし、中には先に結末を聞いてハッピーエンドなら安心して映画館に行くという連中も多いのです。
私のような昔ながらの宮崎アニメファンなら1,000円以上払ってでも見に行きますが、今の若い人たちが『君たちはどう生きるか』にどれだけ食いつくか甚だ疑問です。

今回の「あえて宣伝をしない」という戦略について、私は「本当は宣伝費を捻出できなかったからこんな奇策を講じているのではないか?」と邪推しております。
現代の映画製作費のほぼ半分は宣伝費であると言われています。
今度の作品は宮崎監督最後の作品ということで好き勝手に作らせたとのことですが、鈴木プロデューサーが集めたお金が製作実費ギリギリ分しかなかったため「宣伝しない宣伝」などという苦し紛れの戦略を取ったのではないか?と邪推しております。

いずれにせよ、『君たちはどう生きるか』は今週金曜日(14日)公開です。
現代の映画は、予告編・テレビ・雑誌・インターネットと多岐に渡る宣伝の量と質によって興行成績が大きく左右されます。
そんな中にあって、監督の過去の実績だけで勝負をかける『君たちはどう生きるか』は吉と出るか、それとも凶と出るか?。
一種の社会実験としての側面もあるので、作品の出来だけでなく「宣伝しない宣伝」の宣伝効果にも注視したいと思っています。
m(__)m
期待と不安と疑念が入り交じった独り言にお付き合いいただきありがとうございました。