ゴジラシリーズ全作品レビュー3 『キングコング対ゴジラ』(1962年)
前作から7年ぶりとなるシリーズ第3作は、ゴジラ映画初のカラー作品にしてシネマスコープ(東宝スコープ)、音声は4チャンネルマルチトラックという豪華絢爛超大作になりました。
製作費の数倍ものギャラを支払って招聘したゲストは、この種の映画の元祖ともいえるあの怪獣です。
『キングコング対ゴジラ』

東宝創立30周年記念映画の一つとしてアメリカのキングコングと日本のゴジラと対決させるという、異種格闘技世界タイトルマッチ的なお祭り映画です。
結果として、1255万人もの観客動員数を記録してシリーズ最大のヒット作になりました。

初めて観たのは『ゴジラ』第一作と同じく「ゴジラ1983復活フェスティバル」の時でした。
ただ、この頃ですと例の短縮版問題のために一部のオリジナルネガが紛失状態だったはずです。
この時に観たのが、短縮版だったのか、欠損部分を16ミリフィルムで穴埋めしたものだったかという記憶が曖昧です。
もし「ゴジラ1983復活フェスティバル」で観たのが短縮版だったとしたら、全長版を観たのはレーザーディスクを買った1986年秋ということになります。
<あらすじ>
時は高度経済成長期。
スポンサーの要請を受けて南海の孤島へ赴いたTV取材班は、巨大なる魔神・キングコングに遭遇しその捕獲に成功する。
同じ頃、北極海を漂う氷山の中から復活したゴジラがその帰巣本能によって日本へと向かっていた。
そして海上輸送中に逃げ出したキングコングもまた日本に上陸してしまう。
二匹の巨大怪獣に手を焼いた科学者たちは、ゴジラとキングコングを戦わせて双方共倒れさせる計画を立案した。
かくして日米を代表する怪獣同士の戦いが始まる。
【昭和37年】

この作品の時代背景を改めて考えてみると、現在の平成29年と似たところが多いことに気付きます
昭和37年(1962年)の日本はすでに戦後復興期を終えて高度経済成長期に入っており、東京オリンピック開催を2年後に控えて世界に目を向けて舵を切り始めた時代でした。
戦争の影を背負ったゴジラとアメリカの怪獣が戦うという、こんな能天気な映画も作れる時代になっていました。

経済状況は違いますが、現在も2度目の東京オリンピックを前にして海外の視線を強く意識する必要にかられています。
そして、奇しくもハリウッド製のゴジラとキングコングが戦う新作映画が2020年に公開されることになりました。
まさしく歴史は繰り返されるのです。

もう一つ共通点として挙げられるのは、どちらもメディアの転換期にさしかかっているということです。
当時はまだ映画が最大の娯楽として君臨していて、テレビのことを格下の新興メディアとして見ているふしがありました。
しかし、テレビの影響で映画産業が斜陽化し始める頃、映画はテレビを敵対視するようになっていきます。
本作ではまだテレビ取材班をバイタリティと機動力のある若いメディアとして好意的に描いていますが、後年の『フランケンシュタイン対地底怪獣』では無作法な態度で取材を強行してフランケンシュタインを狂暴化させてしまう不愉快な存在として描いています。
現在に目を向けると、テレビはインターネットにその座を奪われつつあり今や斜陽産業呼ばわりされています。
少し前まではネットの動向も微笑ましいものとして好意的に報じていたものですが、広告収入をネットに奪われつつある現在では自身を脅かす存在として警戒しつつも対抗策を見出せないでいるようです。
また、逆に現在では失われてしまったと感じる世相もあります。
2匹の怪獣にそれぞれ企業がスポンサーに付くという驚きの展開を見せてくれますが、その両社の名前が「パシフィック製薬」と「セントラル製薬」です。
これは明らかに当時のプロ野球人気を意識したものであり、多胡部長も「三振は出来ない」などと野球に例えたセリフを言っています。
昭和37年は長嶋茂雄と王貞治のON砲コンビが活躍し始めた年でもあり、数年後には巨人のV9時代が始まります。
そんな野球人気も今ではすっかり下火状態で、かつて野球少年だった私としては寂しい限りです。
【本多猪四郎監督】

『ゴジラの逆襲』を経たうえでこの作品を観ると、本多猪四郎監督による演出の心地よさがより一層身に沁みます。

「子供が見る映画だからといって、真剣に演じられない人は私の映画には出てもらわなくて結構」
こう明言されていたという本多監督作品においては、俳優さんたちが作中の超常現象や巨大生物に対して「本当にそこにあるもの」として真剣に演じていらっしゃいます。
監督自身が模範演技をして見せることが多かったということですから、出演者の皆さんもその人柄に引っ張られたのかも知れません。
そうした真摯な演技の積み重ねが、絵空事にすぎないはずの物語に真実味を与えてくれています。

もうひとつ、本多監督の人柄が伺える描写があります。
それは、危険が迫る中にあっても住民の避難誘導をする警官たちの姿や、作戦行動する自衛官たちの冷静で機敏な動きです。
本多猪四郎監督作品が他の特撮映画と決定的に違うのは、そういった職務遂行に対する大人たちの真摯な姿をきちんと描いていることです。

黒澤明監督が「警官だってあんな状況になったらさっさと逃げるはずだ」と突っ込んだところ、「あの状況で市民を放って逃げ出す警官がいるはずはない」と言い返したというエピソードが残っています。
職務遂行という当たり前の行動を当たり前のものとして描いた本多監督の映画は、当時の日本の子供たちの心に「責任」とか「規律」という概念を自然に刻み込んでくれていました。
それは現実に震災被害に遭ってもなお失われない、日本人が持つ秩序や礼儀といった美点そのものだと思っています。
【俳優さんたち】
『キングコング対ゴジラ』はコメディ要素が多く、特撮シーンよりドラマパートが断然面白くて魅力的という特異な怪獣映画です。

主人公、というか物語の狂言回しの二人です。
テレビ局の若いスタッフで、皮肉屋で行動派のカメラマン桜井(演:高島忠雄)と小心者の古江(演:藤木悠)の弥次喜多コンビです。
芸達者な二人によるハイテンポなセリフの応酬で、お笑いタレントを中途半端に出すよりもはるかに面白いです。
このコンビは『海底軍艦』でも見られますが、作品トーンの違いもあって面白さという点ではこちらの方が好きです。

主人公コンビはおろか、二匹の怪獣の存在をも食ってしまったのがパシフィック製薬の多胡宣伝部長です。
「宣伝にもういいは無いッ!」
高度経済成長期にはこういう猪突猛進タイプの宣伝マンやテレビマンが大勢いたのでしょう。
(しかし、これが行き過ぎると今の電通みたいなことになってしまうのかも知れませんが・・・)

演じた有島一郎さんは、『若大将』シリーズのお父さんや『暴れん坊将軍』の初代じい役で有名な方です。
特撮映画に出演したのはこれ一本ですが、『キングコング対ゴジラ』といえば怪獣よりもまずこの人の怪演が思い浮かぶほど強烈な印象を残しています。

高島・藤木コンビと合流しても、相殺されないばかりかむしろお互いを引き立てて可笑しさが倍増しています。
このトリオがこれ一作限りとは残念でなりません。

東宝特撮映画常連の佐原健二さんです。
後年の作品では悪徳代議士やムー帝国のスパイなど悪役を楽しそうに演じることもありましたが、今回は恋人を思いやる優しい好青年の役でした。
ちなみに「ハガネより強く絹糸よりしなやか」な新製品ワイヤーを開発した東京製綱は実在する企業です。
おそらくキングコング搬送シーンのワイヤーでタイアップしていたのでしょう。
この映画では、いつものバヤリースオレンジより目立っていましたから、さぞ売り上げも上がったことでしょう。

若林映子さん(左)と浜美枝さん(右)の2ショットです。
お二人ともこの5年後に『007は二度死ぬ』のボンドガールに抜擢されていますが、それは『007』の関係者がこの『キングコング対ゴジラ』を見たことがきっかけでした。
若林さんは『三大怪獣地球最大の決戦』や『ウルトラQ』『ウルトラマン』などの特撮作品にも数多く出演されていますが、個人的にはこの作品の若林さんが可愛くて大好きです

せり・・・じゃなくて、重沢博士役の平田昭彦さんです。
「ゴジラ帰巣本能説」とか「雷の直撃を受けた郵便配達員」とか、この人が語るとどんな話も本当らしく聞こえてしまいます。
空想物語には話に真実味を持たせるためのお墨付きが必要ですが、平田さんが出演していればその映画は安泰です。
【ゴジラ】

本作のゴジラは北極海の氷山の中から出現しますが、これは前作『ゴジラの逆襲』のラストで氷詰めにしたことを受けてのものだと思われます。

今回はキングコングとの格闘を意識しているせいか腕が太くなっており、体型もでっぷりと低重心になっています。
とても氷塊の中で7年も冬眠していたとは思えません(笑)。
また鳴き声が前2作より甲高くなっていており、耳も無くなっています。
考えようによってはこのゴジラは『ゴジラの逆襲』の時のゴジラとは別の個体かも知れません。
いや、むしろそうであってくれたほうが『ゴジラの逆襲』を「無かったこと」にしてしまえるので良いかも知れません。
ゴジラは一匹ではないのです。
【怪獣映画としての評価】
ゴジラシリーズの中でも大好きな部類に入る『キングコング対ゴジラ』ですが、それは人間パートの面白さに対するものです。
個人的には、怪獣のパートには今一つな印象を持っています。

それはキングコングが人間体型であることが主な要因です。
異形のものという印象が弱く、しかもその動きから中の人間の存在が感じられてしまって醒めてしまうのです。
例えばアンギラスやバラゴン等の四つ足怪獣の全身が映った時に、人間が四つん這いになっている姿が想像出来てしまうのと同じ感覚です。

キングコングの行動にしても腑に落ちない点が多いです。
例えばふみ子(演:浜美枝)を掴んで国会議事堂に上るシーンですが、これをやる必然が全くありません。
原作の『キングコング』(1933年)がそうだったからという理由しか思い当たらず、義務的に挿入したか100%原作へのオマージュだっただけかのどちらかです。
ゴジラはともかくキングコングは扱いに手間取っているようにも見えて、人間の描写の面白さに比べて怪獣側の演出が弱いという珍しい印象の作品です。

とはいえ、ゴジラ絡みの映像には今でも目を見張るものが多いです。
例えばこの場面、合成ではなく遠近法を利用した実景なのです。
手前の自衛隊員の目前には実際にセットを歩いているゴジラがいたのです。

単純に対決もの怪獣映画の傑作として楽しむも良し、当時のやや行き過ぎた宣伝競争を皮肉った風刺映画として楽しむも良し。
昭和ゴジラシリーズの再起動作品として、良くも悪くも全てを備えた作品だったと思います。
最後までお付き合いいただきありがとうございました。
次回は作品レビューをお休みして、『ゴジラ』と『キンゴジ』の4Kリマスター版の話を書かせていただきます。